上 下
37 / 57

37 やり直し

しおりを挟む


図書室でリンダニア国に関する書物を読み漁るアレッサの姿があった。

敵を知らなければ。
相手を知らないからこそ不安は増長する。

本のページをめくる。

リンダニア国は数年前のクーデターにより王政が倒され軍部が政権を握った。

王政により汚職や賄賂など一部の特権階級の不正が横行し国は衰退の一途を辿っていた為、国民の支持を得た軍部が首都に進攻し制圧したのだ。
当時は国民の支持も高く理想を推し進めた軍部だったが、内部分裂が起こり今では最高司令官が全ての実権を握り独裁政治と言っていい有様だ。

ふぅっと息を吐き、本を閉じる。

「危険極まりない国ね…………」

王政時代には友好的な関係とは言い難いが、一応の国交もあり商人の行き来もあったようだが、現在は国交が断絶された状態だ。

リンダニア国はベルカーディナ王国やカルダン王国の様に魔法の影響を受けていない。
魔法は古い時代に廃れ、魔法を使える人間はほぼ存在しない。
その分、魔法を使わない文明が発展しているとも聞く。


「そんなに怖い顔をして何を読んでいるんだ?」

ジルベールは舞踏会以降、私の傍を離れない。
今までの彼なら図書室の外で待機していた筈だ。
アレッサの傍を離れるのは、シェノビアやセドリックなど自分以外の護衛可能な男性がいる時だけだ。

舞踏会での王太子との一件に責任を感じているのもある。
私の情報がリンダニア国に漏れたという危機意識の高まりもあるだろう。必要以上に神経質になっていた。

本を取り上げるとパラパラとページをめくる。

「敵を知ることは有効だ。でも、知識だけにとどめて欲しい。アレッサ自身は、この件に深入りしない方がいい。わかった?」

隣に座り、ぴたりと身体をくっつけてくる。

相思相愛と分かってからというものジルベールの距離感が近すぎる。
というか、もはや距離感なんて概念なんてないのかもしれない。

アレッサの髪を梳くように撫でる。

「で、勉強はもう終わったの?」

「う、うん。まあね」

「よしっ」

と言うなりジルベールは私を膝の上に抱える。
バランスが悪くて咄嗟にジルベールの首に手をまわすと、至近距離で満足そうに見つめてくる。


図書室の一番奥。本棚に隠れるようにあるこの席は死角になっていて他の利用者からは見えない場所ではあるが、いつ誰が来るか分からない。

「わかっていると思うけど…ここ図書室だからね」

「勿論、だから静かにしているだろ?」

いや、大きな声は出してはいないが図書館で推奨されている行為ではない。

「嫌なのか?」

「い…嫌じゃないけど」

私だってジルベールに触れたいと思っていたし。

許可を得たとばかりにアレッサをギュッと抱きしめる。

チュッと頬にキスをしたかと思ったら何度も繰り返す。右の頬が終われば左の頬に移動しチュッチュッとキスは繰り返される。

くすぐったくて堪らず身を捩り笑う。

「こら、ダメだろ。もっとキスさせて」

一旦、顔を離すと、今度はゆっくりとアレッサの唇に照準を定め近づいてくる。



ここで聞かなかったらずっと聞けないままになりそう。

――――これがジルベールとの初めてのキスなのか。

もうそれは、勘でしかないのだけれど。
セドリックとキスした時、医務室でキスをしたのは彼ではないと思った。
それは本当に勘としか言いようがない。それ以外の表現が分からないから。
けど、そう直観したのだ。

「ねぇ、ちょっと待って」

おあずけをされた子犬のように切実な瞳でアレッサを見る。

「私、ジルベールとキスをするの初めてかな?」

「え…………」

虚をつかれ固まりながらも目だけが泳ぐ。

その様子に確信を持ち、少し意地悪な聞き方をする。

「私、夢でも見ていたのかしら?医務室で」

「ごめん……アレッサ」

観念したように視線を落とす。

「可愛い寝顔見ていたら抑えられなくなって…すまない。卑劣な行いだ…紳士としても騎士としても、一人の男としても、やってはいけない行為だ」

アレッサを隣の席に座らせると、ガバっと頭を下げて懇願する。

「ごめん、嫌いにならないで」

確認したかっただけなのに、意地悪し過ぎたかな。
ジルベールかセドリックがキスの相手なら、どちらでも嬉しいと思っていたのだから。

「嫌いになんてならない!あれは私にとって初めてのキスだったから、初めてがジルベールで良かったって思う。でも、あの時は寝たふりしていたし………やり直しをしない?」

ジルベールの首に腕をまわしアレッサから顔を寄せた。
鼻先が触れそうな位置で止まり、じぃっと濃紺の瞳を見つめる。

顔を大きな掌で包み込まれる。
柔らかさを確かめるように、ゆっくりと唇が押し当てられた。
ジルベールの唇はしっとりと吸い付くような感触だった。

チュッと柔らかく甘い唇を何度も吸いあげられる。

お互いの熱い息遣いを感じながら、時間を忘れ二人は夢中でキスをした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される

吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

処理中です...