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24 通過儀礼
しおりを挟む甘い匂いが立ち込めるキッチンに入ると、砂糖がまぶされたホカホカの揚げパンが山積みになっている。
「よお。お客さんを連れて来たぜ」
セドリックは、ひょっこっと大男の後ろから顔を出した。
「セドリックじゃないか!とんと街にも顔を出さなくなったから心配していたんだよ!」
「ごめん、ごめん。ダリア、久しぶりだね。皆も元気にしていた?」
セドリックは、たちまち婦人会のご婦人方に囲まれてしまう。
昔馴染みの仲間に囲まれ、はじける様な笑顔の彼を見ると、本当に来て良かったと思う。
何故かここでも恋人として紹介されてしまい。どぎまぎしながら話を合わせ、ぎこちない笑顔をつくる。
「アレッサちゃんはカルダン王国に働きに来たのかい?」
どうしよう…もう余計な嘘はつきたくないな。言葉に詰まると、隣にいたセドリックが助け舟を出してくれる。
「彼女は今、神殿で巫女として仕えているんだよ」
「ええ!?巫女様なのかい?」
一同にどよめきが起こる。
「セドリック…ついに巫女様にまで手を出したのか。まったく、モテる男ってのは罪つくりだねぇ」
やれやれと両手を上げて首を振る。
「おいおい、マシュー。誤解を生むようなこと言うのはやめてくれよ。まるで俺が遊び人のようじゃないか」
「あんた!冗談はそのくらいにおし。セドリックは誠実な男だけど、周りが放っておかないというだけよ」
ダリアさんは私の手に自分の手を重ね、ぽんぽんと優しく触れながら笑いかけてくれた。
「巫女様じゃあ敵わないねえ。いや…うちの子もセドリックのことを気に入っていたからねえ…」
「あら、あんたんとこも?うちの子なんてセドリックが初恋の相手なんだよ」
「まあ、皆のところもそうなの?うちの子なんてセドリックを追って文官になりたいなんて勉強まで始めてたのに」
男女問わず人気がありそうだし、モテるだろうとは想像していたけど……セドリック争奪戦じゃない!?
マシューさんは、揚げパンを食べ終えた私の前に温かいコーヒーが入ったカップを置く。
「アレッサちゃん、気にすることたぁないよ。この辺の女の子は大体セドリックに恋をして成長していく。まあ通過儀礼のようなもんだ」
かかかかっと豪快に笑って、バンっとセドリック様の背中を勢い良く叩く。
――――――さもありなん。
彼は面倒見がよく頼りがいもあるし、細かなことに気付いては手を差しのべてくれる優しい人だ。
若くして宰相補佐官という仕事についていることを思えば、どれだけ優秀な人かもわかる。
しかも、精悍な顔立ちの美丈夫となれば、多くの女の子が恋をしたり憧れたりするのも当然だ。
ジトッとした目でセドリックを見ると、ぽりぽりと頬を掻いて困り顔になる。
「俺も初耳なんだけどね………」
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