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21 お誘い

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セドリックは、ぽんぽんと背中を優しく叩き、ゆっくりと話し始める。

「多分、知らないからこそ不安が膨らんでしまうのだな。当然だよな、君はカルダン王国で生まれたわけでもなく生活した経験もない。もっと配慮が必要だった…気付いてやれなくてごめん。巫女や女王候補がどういった目的で集められ、どういった存在であるかの説明が必要だったな。不安を全て取り除くのは不可能かもしれないが、小さくして少しばかり軽くすることは出来る」

背中に置かれたセドリックの手が離れ、掌の温かさが無くなるのが寂しかった。


五年に一度の間隔で巫女は集められる。

女王候補が選ばれるのは、当代女王が退位の意志を示されてから最初の巫女が集められる時のみだ。
今回の巫女達がそのタイミングに重なった。

現女王が即位してから、ここ二十年間は五年に一度巫女は集められたが、女性たちは神殿に二年仕えその後、元の生活に戻っている。

ただ、巫女となり仕えた女性は国に難事が起こった際には招集され、その魔力と能力をもって国と国民の為に仕え、支えるという役割を担う。

説明し終えると、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「実は、女王候補の選定基準なんて誰も知らない。要はあってないようなものってことさ。当然、女王候補は魔力の強さやその魔力量だけで選ばれるものではない。本来持って生まれた本人の性格や資質。人との関わりの中から学んだ経験。その魔力の受け皿になっている人間の本質が、どういうものなのかが大事だとだけは言えるかもしれない」



セドリックの言う通り、何も知らないまま不安になり走り続けるより気持ちは軽くなってきていた。

黙って神妙な面持ちのまま俯くアレッサの頬を、セドリックは子供の悪戯みたいにツンツンと指でつつく。

思わずむっとして顔を上げた。

「やっと、こっちを向いた」

嬉しそうに、にかっと笑う彼の様子につられて、フッと緊張していた頬が緩んでしまった。

「セドリック様、ありがとうございます」

この人は、私の心の機微さえも感じ取れる繊細で優しい人だ。

両腕を大きく開いて、何でも受け止めるぞって態度で私に立ち向かってきてくれた。

何よりも私の心を軽くしてくれたのは、彼の存在そのものだった。




「週末は授業は休みだろう?」

「はい…でもやることがあって…」

「知っているよ。神殿に来てからというもの君は休みの日も図書室でずっと勉強しているんだってね。シェノビアからも熱心に特訓に取り組んでいて順調に習得していると聞いているよ。明日は自分の心と体を休ませてあげる為に使おう。せっかく王都にいるのに、まだ街に出たこともないのだろう?巫女になったんだ、この国の街や国民の暮らしも知っていて欲しいな」

「そういえば…謁見式以来、神殿から出ていないですね…」

苦笑いしてしまう…この国の街も国民の生活も見たことがないなんて…巫女として本来知るべきものさえ分かっていなかった。私は何を勉強していたのか……。

「見たい…街に行ってみたいです!」

「よし。そうとなれば…君の日曜日、一日を俺に預けて」

セドリックはアレッサの顔を覗き込むと垂れ気味の深緑の瞳を輝かせて、悪戯っぽくにっと口角を上げて笑った。

「はい!よろしくお願いしますっ」

その笑顔にどぎまぎして声が裏返ってしまい。くすくすと笑われてしまった。


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