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16 無粋な質問
しおりを挟むいつものようにアレッサに寄り添い、部屋の前まで送るシェノビア。
アレッサにとって帰り道は、いつも他愛もない話をしながら歩く…楽しさと寂しさが入り混じるせつない時間だ。
しかし、今日のアレッサはシェノビアからの問いかけにも、どこか上の空で…気がついたら部屋の前だった。
――――さっきのキスは好意を持ってくれているって思っていいのかな。確認するなんて野暮なことなのかな…大人の恋愛って自然と始まっているものだって聞くけれど。
アレッサはドアの前で立ち止まりドアノブに手をかけたまま動けない。
「アレッサ?」
キスをした理由を聞くなんて子供っぽいのだろうか。
面倒な女なのだろうか。
ぐるぐると同じ問いが浮かぶだけで答えなんて出てこない。
もう、本人に聞かなければわからない。やっとの思いで縛りだした言葉は少し震えていた。
「どうして……キス…したの?」
後ろからそっと包み込むように抱きしめられる。
「……あなたに私を意識して欲しいから。私があなたに会うのを楽しみでいるように、あなたの笑顔を見て心が躍るように、あなたにも想って欲しいから」
ギュッと胸が締め付けられ苦しくなる。
「そんなの、もうとっくに……想っています…」
「でも、セドリックにもジルベールにもときめいているのでしょう?」
「……私、気の多い嫌な女ですよね………」
抱きしめる腕に力がこもる。
「ごめんなさい、意地の悪いことを言いましたね。あなたを責める気はありませんよ。私だけを見て欲しいなんて烏滸がましいことも言いません。二人とも魅力的な男性ですから」
「私が他の二人を気になっている今の状況でも…構わないと?」
アレッサの肩を掴み振り向かせると、顎を摘まみ顔を上向かせた。
指で優しく唇を撫でる…その柔らかな唇に注がれる視線は甘い。
キスの感触を思い出して熱い息が漏れてしまう。
「あなたが私を好きだという気持ちには嘘がない。他の二人を気になっていることにも嘘がない……拒否してあなたを失うくらいなら、私は間違いなく全てを受け入れる方を選びます」
シェノビアの長いまつ毛に縁どられた瞳から目が離せず、アレッサも手を伸ばしシェノビアの頬に触れた。
どちらともなく顔が近づき唇を重ねる。
お互いに望んでするキスとは…こんなにも甘く疼くものなのか。
シェノビアの温もりがゆっくりと離れていく。急に寂しさがこみあげて、咄嗟に彼の服の袖を掴んだ。
シェノビアは優しくアレッサの手を取ると微笑み、子供に言い聞かせるように髪を撫でた。
「今日はもう、何も考えずゆっくりおやすみなさい」
シェノビアは愛しい人を部屋に入れるとぱたりと扉を閉じた。
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