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07 作戦会議

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‥‥?


「最初にすべきことだったかもしれないが。アレッサ、お前の意志を確認したい。王太子殿下の側妃となりたいか?」

「嫌です!あんな好色で節操のない男の側妃なんて!」

間髪入れず答えると伯爵は小さく頷いた。

「話を聞く前から気持ちはわかっていたよ。アレッサを側妃にさせない為には側妃を辞退申し上げるに相応しい、周囲を納得させ黙らせる大義名分が必要だ。お前には酷な選択になるかもしれないが……巫女となりカルダン王国へ行くこと。これ以上の大義名分は現状…他に見あたらない」

父さんは、やり切れないという様に項垂れた。

「必死に隠してきたにも拘らず、他に手立てがないなんて本当になんという運命の悪戯…皮肉としか言いようがない…側妃とならずに済む唯一の方法が、これだなんて」

俯いた父さんの手を握りしめた。


どちらも嫌だと言い張って、一人で国外に逃げても直ぐに捕まるのが目に見えている。それどころか伯爵家や四人の父母に迷惑が掛かってしまう。

それが自分を側妃になる未来から救う唯一の選択なら、もう迷わなかった。


「巫女や女王候補という話は、正直、今までの生活とかけ離れ過ぎて全く現実味がない。でも、巫女となったとしてベルカーディナでしか魔法を学んでない私が…今まで自分の魔力を全力で使ったことのない私なんかが優秀な他の巫女達に敵う訳がないわ。巫女から女王候補に選ばれるなんて、あり得ないと思う。私……カルダン王国に行きます」





そして、伯爵からカルダン王家の密偵が伯爵家の周辺を嗅ぎまわっており、私の存在を確認したと接触があった事実を説明された。

娘の存在に白を切り、隠し通すのは難しかっただろう。
きっと遅かれ早かれ私の生活は何らかの形で変わっていたのは間違いない。




疾風怒濤のごとく、様々なことが決まり動いて行く。

伯爵が王城に向い、国王陛下、王太子殿下に側妃辞退の内情を説明。カルダン王国と事を構えたくない王から同意を得、側妃の話は破談となった。
私が母上の血を引いていることの証明となるため伯爵籍に戻る手続き。体調不良と言って休んだ勤務先の病院にはカルダン王国に医学の勉強の為、留学が決まったと説明し退職の手続きと引継ぎ業務が進んだ。

同僚が温かな送別会をしてくれた。急なことに驚いてはいたものの、留学という前向きな理由を応援し、暫しの別れを悲しんでくれた。
その中には同僚の看護士ルイザの姿もあった。

「アレッサ先生!カルダン王国で素敵な人を見つけて帰って来ないなんてことがあるかもしれませんよ。だってカールさんも、カールさんの代わりに来たイケメンもカルダン王国の人だし。きっと、イケメンの多い国なんですよ!ああ、私も一緒に行きたい~。イケメンと恋に落ちたい」

私の腕を両手で掴み揺らすルイザは相変わらずテンションが高い。

「私は勉強に行くのよ…恋をしている暇なんてないわよ」

「何言ってるんですか!アレッサ先生。このまま“年齢=恋愛経験なし”でいいんですか?本当は、私達以上に恋にもイケメンにも興味があるくせにぃ。気付いていましたよ、先生が私達の恋の話を聞いている時のギラギラした目。手に汗握っていたのも知ってます。看護師ですよ私、心拍数の上がっている人の様子ぐらい分かります」

にんまり笑うとウインクをしてくる。

「わ、私は別に……恋愛に興味なんて……」

「まだ言いますか。そんなこと言ってたらあっという間におばあちゃんですよ。アレッサ先生みたいな美人が勿体ない!きらきら光るプラチナブロンドの髪も、アメジスト色の瞳も宝石みたいだし、胸はちゃんとあるのにウエストは細くて括れてて、小さくて形の良いお尻に繋がる長い脚!私がその容姿を手に入れたならもっと有効活用するのに~」

「……今まで勉強ばかり、仕事ばかりの人間が恋愛したって上手くいきっこないし…散々傷ついて捨てられたり…そんなことになるのが落ちよ」

「うわっ、いきなりマイナス思考ですね。いいじゃないですか、傷つこうが捨てられようが…沢山泣いて、次に行けばいいんです!一度失敗したからって、もう恋なんてしない!とか…そんなこと言うのやめてくださいね。しないと思ってもしちゃうのが恋なんです!」

なんというポジティブシンキング。

「欲しい物は欲しいと言えばいいんです。イケメンが好きならイケメン好きー!って言ってしまえばいいんです!」

熱く語るルイザには有無を言わせぬ説得力がある。恋愛マスターと呼びたい。

「さあ!声に出してみればいいんですよ。感情を素直に」
「……い、いけ、いけめん……イケメン好き」
「そうそう!その調子!」
「い、イケメンと…イケメンと…恋したい」
「うんうん!ですよね!」
「い、イケメンと‥イチャイチャ…ラブラブ…したい…」
「ほほう!もうやっちゃいましょう!」

アレッサとルイザはガシッと手と手を強く握り合った。
なんだか箍が外れたような解放感と興奮で顔が熱くなる。


恋愛も前に進めるように正直になろう…傷つくことに必要以上に怯えない。
今まで出来なかったことが、人生の岐路に差しかかった今なら…出来るような気がしてきた。


こんな二人のやりとりを周囲の同僚達は生温かい目で見守っていたが、最終的にいろんなものが吹っ切れて旅立つ私を見て笑って送り出してくれた。


側妃となるのが嫌でベッドの中で泣いた夜を思い出していた。


それからというものアレッサは育ての両親を今まで同様、父さん母さんと。実の両親である伯爵夫妻を父上母上と呼ぶことにした。

私は父さん母さんの元で暮らし、毎日伯爵家に通い母上からカルダン王国や王家の最低限の知識と心構えを叩き込まれた。昼食は父上母上と摂り、そこに兄上も加わるようになっていた。

アレッサは、カルダン王国への出発を控え忙しくも温かな日々を過ごしていた。




母上とカルダン王家の使者との話し合いで出発の日が正式に決まった。

しかし、不思議なことに家に仕える誰一人としてカルダン王家の使者の姿を見た者はいない。
ある日の夕方近く、急に霧が濃くなり全く視界のない状態になったという。
夫人が自ら二人分の紅茶と菓子を用意し部屋に入ってから、小一時間もすると濃霧は嘘のように晴れ、綺麗な夕焼け空になった。
そして、メイドが呼ばれ部屋に入った時には、母上しか居らず、使用済みの二人分のティーセットだけが残されていたと………。


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