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02 危険な彼
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カール・サンロド。
ルイザ曰く癒しの彼だ。
彼は薬草や医療器材を病院に卸し、出入りしている隣国カルダン王国の商家の次男だという。
容姿だけでなく優秀な営業スキルも持ち合わせている彼はすこぶる評判が良い。
病院の女性陣が騒いでいるのが気になり、こっそり隠れて彼を見に行った。
入場許可証を付けた異国の服の黒髪の青年を見て直ぐに彼だと分かった。
こっそり後をつけていくと納品通用口を入って直ぐのあまり職員も使わない非常用階段を上がった踊り場で、壁に寄りかかり彼はポケットから取り出したメモを熱心に見ていた。
ストレートの黒髪。
濃紺の瞳はどこか少年っぽさを感じる。分けられた前髪から見える形の良い額、その前髪は目尻の横でサラッと揺れて白い肌とのコントラストも艶めかしい。
下唇が少しふっくらした小さめの口と、すっと通った鼻筋。
う~ん、皆が騒ぐのも分かる。
少年と青年の間にいる人―――――そんな印象を受けた。
思わず見とれてしまう。
右の口角をくいっと上げ不敵に笑ったかの様に見えた。
瞬間、彼が手にしていたメモがその掌の上でぼっと炎に変わり跡形もなく消えた。
私は、そっと後ずさり逃げるようにその場を去った。足音を立てないように早歩きで進む足が縺れる。
「えっと、ただの魔法だよ。そう、ただの魔法」
口の中でもごもごと小さく呟く。
何故自分はこんなに焦っているのか。
オレンジ色の炎が映る濃紺の瞳を見た瞬間、何故か見てはいけないものを見てしまったと感じた。
隠れて覗いたから軽い罪悪感?悪戯した後の様なうしろめたさ?心臓が早鐘のように鳴った。
時間が経つと思考も落ち着いてきた。
久し振りに炎系魔法を見て気が高ぶったのかな。
メモを燃やしたのは内容を記憶したメモを不要なゴミとして手っ取り早く処分したかったとすれば特に不自然でもない。
午前の診療が終わり中庭の手入れされた草花を見ながら回廊を休憩室に向かう。
「あの、アレッサ先生ですよね?」
回廊の端からゆっくり距離を詰めてくる美男子。
今一番会いたくない人物に捕まった…カール・サンロド。
「はじめまして、アレッサ先生。ご挨拶が遅れました。薬草や医療器材を納めさせてもらっているリヒター商会のカール・サンロドです。まだ修行中の身ですがよろしくお願いします。よろしかったらこちらどうぞ。甘いものがお好きと聞いたもので」
可愛い花柄の箱を差し出しながら嫌みのないふわりとした笑顔を向けられた。
「は、はじめまして。アレッサ・ファロです。そんな、まだまだ駆け出しの医師の私になんてお気を使っていただかなくてもいいのに…病院内で何の権力もないですよ?」
色気の中にもどこかあどけなさが残る笑顔の破壊力。さっき隠れて覗いた光景を振り払おうと私は軽い口調で返し、ちょっと肩を上げておどけるような素振りをした。
彼の眼を見ることができず、手元の箱に視線を落とす‥ん?!この花柄の箱。
今王都で人気のパティスリーのクッキーだ。売り切れ必須でなかなか手に入らない代物じゃない?!
甘く美味しそうな香りのする箱を失礼とは思いつつ、そっと開けて覗いてみる。マーガレットを模した花の形のクッキーの中央には苺ジャムがのっている。
可愛い!そしてなんて美味しそうなの!目を見開いて思わず満面の笑みになった。
彼はくすりと笑う。
「そんなに可愛らしい笑顔を見られるなら、また差し入れますよ。ああ、勿論仕事の利害は関係なしで」
さわやかな笑顔のまま、さっとお辞儀をして去っていった。
強引ではなかったし、軽薄さもなく丁寧な話し方……商人にしては育ちの良さを感じた。
しかし、彼の様なイケメンでモテる男の言動にのぼせ上がり、うっかり勘違いし好きにでもなったら―――――『え?俺そんなつもりなかったけど』なんて言い捨てられるのが想像に難くない。
私のように恋人いない歴=年齢で、真面目にコツコツ生きてきた女が慣れないことに手を出すのは危険だ。
距離を置き関わらないようにしなくては……。
浮き上がる淡い感情には、いつもの様に蓋をしてやり過ごすことにした。
ルイザ曰く癒しの彼だ。
彼は薬草や医療器材を病院に卸し、出入りしている隣国カルダン王国の商家の次男だという。
容姿だけでなく優秀な営業スキルも持ち合わせている彼はすこぶる評判が良い。
病院の女性陣が騒いでいるのが気になり、こっそり隠れて彼を見に行った。
入場許可証を付けた異国の服の黒髪の青年を見て直ぐに彼だと分かった。
こっそり後をつけていくと納品通用口を入って直ぐのあまり職員も使わない非常用階段を上がった踊り場で、壁に寄りかかり彼はポケットから取り出したメモを熱心に見ていた。
ストレートの黒髪。
濃紺の瞳はどこか少年っぽさを感じる。分けられた前髪から見える形の良い額、その前髪は目尻の横でサラッと揺れて白い肌とのコントラストも艶めかしい。
下唇が少しふっくらした小さめの口と、すっと通った鼻筋。
う~ん、皆が騒ぐのも分かる。
少年と青年の間にいる人―――――そんな印象を受けた。
思わず見とれてしまう。
右の口角をくいっと上げ不敵に笑ったかの様に見えた。
瞬間、彼が手にしていたメモがその掌の上でぼっと炎に変わり跡形もなく消えた。
私は、そっと後ずさり逃げるようにその場を去った。足音を立てないように早歩きで進む足が縺れる。
「えっと、ただの魔法だよ。そう、ただの魔法」
口の中でもごもごと小さく呟く。
何故自分はこんなに焦っているのか。
オレンジ色の炎が映る濃紺の瞳を見た瞬間、何故か見てはいけないものを見てしまったと感じた。
隠れて覗いたから軽い罪悪感?悪戯した後の様なうしろめたさ?心臓が早鐘のように鳴った。
時間が経つと思考も落ち着いてきた。
久し振りに炎系魔法を見て気が高ぶったのかな。
メモを燃やしたのは内容を記憶したメモを不要なゴミとして手っ取り早く処分したかったとすれば特に不自然でもない。
午前の診療が終わり中庭の手入れされた草花を見ながら回廊を休憩室に向かう。
「あの、アレッサ先生ですよね?」
回廊の端からゆっくり距離を詰めてくる美男子。
今一番会いたくない人物に捕まった…カール・サンロド。
「はじめまして、アレッサ先生。ご挨拶が遅れました。薬草や医療器材を納めさせてもらっているリヒター商会のカール・サンロドです。まだ修行中の身ですがよろしくお願いします。よろしかったらこちらどうぞ。甘いものがお好きと聞いたもので」
可愛い花柄の箱を差し出しながら嫌みのないふわりとした笑顔を向けられた。
「は、はじめまして。アレッサ・ファロです。そんな、まだまだ駆け出しの医師の私になんてお気を使っていただかなくてもいいのに…病院内で何の権力もないですよ?」
色気の中にもどこかあどけなさが残る笑顔の破壊力。さっき隠れて覗いた光景を振り払おうと私は軽い口調で返し、ちょっと肩を上げておどけるような素振りをした。
彼の眼を見ることができず、手元の箱に視線を落とす‥ん?!この花柄の箱。
今王都で人気のパティスリーのクッキーだ。売り切れ必須でなかなか手に入らない代物じゃない?!
甘く美味しそうな香りのする箱を失礼とは思いつつ、そっと開けて覗いてみる。マーガレットを模した花の形のクッキーの中央には苺ジャムがのっている。
可愛い!そしてなんて美味しそうなの!目を見開いて思わず満面の笑みになった。
彼はくすりと笑う。
「そんなに可愛らしい笑顔を見られるなら、また差し入れますよ。ああ、勿論仕事の利害は関係なしで」
さわやかな笑顔のまま、さっとお辞儀をして去っていった。
強引ではなかったし、軽薄さもなく丁寧な話し方……商人にしては育ちの良さを感じた。
しかし、彼の様なイケメンでモテる男の言動にのぼせ上がり、うっかり勘違いし好きにでもなったら―――――『え?俺そんなつもりなかったけど』なんて言い捨てられるのが想像に難くない。
私のように恋人いない歴=年齢で、真面目にコツコツ生きてきた女が慣れないことに手を出すのは危険だ。
距離を置き関わらないようにしなくては……。
浮き上がる淡い感情には、いつもの様に蓋をしてやり過ごすことにした。
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