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第一章
6話 恋愛と結婚について
しおりを挟む中庭から屋敷へと戻ると、
丁度ローエンお兄様とお父様と出会う。
「ローエンお兄様、おとう様!」
「……リリか」
「おや、可愛いうちのお姫様じゃないか」
私が駆け寄るとお父様は膝をつき、手を広げてくれたのでそのまま抱き着く。
すると、おとう様は優しく抱き上げてくれた。
「リリは、中庭でお勉強をしていたのかい?」
「はい。今日は歴史の勉強を」
「そうか。勤勉なことはとてもいいことだ」
返答ににっこりと微笑むとお父様の隣でローエンお兄様がこちらを見つめる。
ローエンお兄様は、手を持ち上げると私の頭を撫でてくれた。
その暖かで大きな手のぬくもりに心が温かくなる。
「お父様とローエンお兄様はお出かけに?」
「ああ。デビュタントがあるだろう? それ用に色々準備をしにな」
「来週ですもんね。お兄様、楽しみですね」
「……踊るなら剣を振っていたい」
ローエンお兄様の返答に私とお父様は同時に苦笑いを浮かべる。
「そんなことを言うな、ローエン。せっかくのデビュタントなのだから楽しむといい」
「そうですよ。私はローエンお兄様の晴れ姿を楽しみにしています」
「そうだ。私もアネットも楽しみにしているぞ」
こくんこくんと頷く私を見て、ローエンお兄様は目を伏せてため息をつく。
心底行きたくないのだと言葉にしなくても伝わってくる。
(まあ、お兄様らしいなー……)
人との交流は最低限。寡黙で冷静沈着。まだ15才だけれどとても大人。
お喋りが好きではないけれど別に冷たいわけでもないし。むしろ家族にとても優しい。
女性には目もくれず剣一筋の人生を押下しているお兄様。
(そんなお兄様が、ゲーム内では主人公と出会って初めて恋をするんだよね)
そんなわけでまだヒロインに出会ってない+ルートにも入っていないので
女性に興味がないお兄様にとってはデビュタントの場は苦痛でしかないのだ。
「私は、デビュタントの場でアネットと初めて会ったんだ。もしかすると、ローエンも恋しい相手と会えるかもしれないではないか」
「ですが、父上。俺はまだ未熟の身。まだそのような相手を見つける程の立場ではありません」
「それでは、もうすぐ剣術の時間なので。……リリもまたな」
そういうと、お兄様はそそくさと逃げるように自分の部屋へ戻っていってしまった。
「ローエンめ。堅物は困ったものだな」
お兄様の背中を見つめながら、お父様はふっと苦笑いを浮かべるも怒ってはないようだ。
「そうだ、リリよ。最近よく頑張っているお前にこれを」
そういってお父様はポケットから包装された箱を取り出した。
下ろした貰った私は、早速箱を受け取ると丁寧に包装をとり箱を開く。
すると、そこには 可愛い花の形をしたガラス細工の髪飾りが入っていた。
「これ、私に?」
「ああ。買い物中に偶然目に入ったんだんだが、リリに似合うと思ってな」
「大切にします!」
派手過ぎず、大人過ぎず、子供過ぎず。とてもセンスのいいデザインで私もすぐに気に入った。
早速お父様に着けてもらうと、お父様もとても似合っていると褒めてくれる。
「……リリも、あと5年でデビュタントなのだな」
暫くそうして私を見つめていたお父様が急に寂し気にそうぽつりと呟いた。
その意図がわからず首を傾げると、ごほんと咳払いを一度したお父様が私の手をぎゅっと握る。
「リリよ。先ほどは、ローエンには恋しい相手にあるかもしれんと話したが……」
お前はたとえデビュタントに行ったとしてもそんな急いで未来の夫など探さなくていいのだからな」
そう話すお父様の顔はとても真剣そのもので、私が頷くまで私の手を掴んだ手を放そうとはしなかったのだった。
…
……
あの後。私がお嫁に行く予定はまだまだないことを話すとお父様はほっとした様子で自室へと帰って行かれた。
そして私もそのまま自室へと帰ってきたのだった。
「お父様ったら……心配性なのだから」
デビュタントもゲーム本編もあと5年後だし、それまでは何もないだろう。
(ゲーム内でもカメリアが、婚約しているなどということは全く描かれていなかったし)
そこまで思ったところでふとあることに気が付く。
「あれ……? カメリアってそう言えば結婚してたっけ?」
オトセカでは、デビュタントの10か月前から話が本格的に始まり、
デビュタントを起点にルートがそれぞれの個別ルートに別れていくのだが
どのルートにいってもエンディングまでカメリアは、
結婚は勿論、婚約をしていた描写が全くなかった気がする。
つまり、ゲームでは本編中は結婚していなかった。
確かに兄3人がいるからか、幸いそこまで政略結婚をしなければならない環境ではない。
実際私自身、お父様もお母様も私に政略結婚をさせる気はないようで、
気が済むまで結婚しなくてもいいと言われている。
となると結婚するとしたら恋愛結婚が基本になるかもしれないのだが、
何度か他の貴族のご子息に会う機会はあったが、
正直上の3人の兄が立派過ぎて普通の男性と比べた時に魅力的に見えないからかこの10年浮いた話は全くない。
そう思うほどに私もなんだかかんだブラコンなのかもしれない。
「……ま。私に魅力がないという可能性も大いにあるんだけど」
なんせ上の3人が出来のいい兄なのでその陰に隠れていると言われても過言ではない。
別に顔は上の兄3人がゲームの攻略相手になるほどだからカメリアも悪くはない。
だけれど、ゲーム内でも上の3人が容姿も中身も完璧なために秀でたことがないカメリアは埋もれている……と自分でも自負している。
兄3人と並ぶと地味なのはとても否めないのだ。
そして前世の私も恋愛ゲームを数々やってきたものだから知識だけはあるものの、
実際に恋愛を一度もせず生涯を閉じてしまっていたたため
恋愛をしたいという気持ちも恋愛感情というのも実際はわからない。
だから積極的に恋愛することもなく、ここまで来たし、
きっとそれは何か大きなきっかけがない限り変わらないのだろう。
「ま、恋愛が出来なくても、私にはフェリクスがいるものね」
そう独り言をいうと、
部屋に帰ってきてから足元ですり寄ってきていたフェリクスがにゃぁんと返事する。
(最悪ヴォワトールにとっていい人材がいれば、
恋愛的に恋をしなくても利害があっていい人であれば結婚すればいい)
政略結婚でも結婚してからうまく相手を愛せるパターンだって多いはずだ。
だから、そのような方向でも私はいいと思う。
そんなことが大半で当たり前の事で、ドラマチックなことなんて普段はないものだ。
だからこそ、物語などで描かれて憧れて、胸キュンするものなのだ。
そんな大恋愛みたいなことは、この世界のヒロインのオリヴィアが繰り広げるべきだ。
私みたいな脇役は、ひっそりな幸せを得られればいい。
(そう私はこの世界のヒロインではない。……ただの脇役なのだから)
そこまで考えると考えることをやめて、
私はすり寄ってくる可愛いフェリクスと遊ぶことに専念するのだった。
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