ヒロインではなく、隣の親友です

月島ミサト

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第一章

2話 再び目を覚まして

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次に目が覚めた時には、すっかり日が落ちていた。

カーテンを開けて見える風景は、キラキラと光る星々と月。

その下にぽつぽつと部屋の光が見える街。

その奥に見えるはこの国の王族が住む城。



「ああ、やはりここは『あの世界』とは違うのね」



私の記憶にある『あの世界』は、こんなにも星は見えず、

夜遅くでもキラキラと街の明かりや人の声や音で賑やいでいた。

『機械』というものが沢山身の回りにあり、この世界にある魔法はない世界。

一度目に目が覚めた時よりも鮮明にその情景や記憶を思い出せる。

だからこそ産まれてからこの風景をずっと見てきたというのに、

前世の記憶を思い出してからはこの風景に新鮮味を感じる。



「……不思議な気分だわ。でも変なことを口走らないように気を付けないと」



前世の記憶を戻ったことでそれに関して人前で変なことを口走れば、

私の事を大事に思ってくれている家族が心配するに違いない。



(お母さまはきっと卒倒するだろうし、

 お父様やお兄様たちは、呪われたのかとか血相変えてしまいそう……)



そうなれば、ワイズラック侯爵家は大騒動になるに間違いない。

それは避けねばならない。



(前世は前世。今は、今よ。カメリア)



混同していいわけない。

終わったことと今は違うのだ。

そう思うものの心の中で何かひっかかる。

前世の記憶の何が何故だか心のどこかでひっかかる。

だが何が、ひっかかっているのかは思い出せない。

……別の世界のはずだから、何もひっかかることはないはずなのに。



「ああ、もういいや。寝よう……」



考えていると頭痛がしてきて思考を停止した。

今ひっかかる何かを思い出すことが必ず必要かと言われればそれはノーだ。

だって、思い出したところで前世の記憶なだけだ。

それ以上でもそれ以下でもないはずで今の私には関係ないはずだ。

そう結論付けるとカーテンを閉めて、再びベットへと身体を沈める。



目を閉じて夢の世界へと落ちる間際、ある一枚絵を思い出す。

その絵に描かれているのは、

書斎で漆黒の髪に綺麗な緋色の瞳が似合う男の人が、こちらへと手を差し伸べている様子だった。



一瞬思い出したその絵の人物に既視感と共に、何故だか愛おしさを感じてしまうのだった。



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