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~三章 復讐の乙女編~

二十一話 つかの間の休息

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 ──犯人二人を縛り上げてリベルダの町へ帰還した私達は、多くの住民に感謝された。これでこの町の経済も元に戻ることだろう。

 疲れきった一同は宿に帰るなり一気に爆睡。ただヴィエリィだけは食事を目一杯取ってから眠った。

 計算外に嬉しかったのがそのお礼にと、その夜の宿泊費と食事を無料タダにしてもらったことだろうか、これには私達も助かったのである。

 さらに翌日には次の町までの馬車まで用意して貰って、至れり尽くせりをの待遇を受けた三人は馬車の中で、つかの間の休息と今後の指針を話し合っていた。


「ふぅ~。それにしても正直助かったわねぇ。馬車なら疲れないし道も間違えなく目的地へ近づけそうねぇ。きっと人助けしたから神様がプレゼントしてくれたんだわぁ。楽チン楽チンよぉ」

「確かに楽だけど馬車って退屈だから私はあんまり好かないなあ。それに自分で走った方が早くない?」

「そんなのあんただけよぉ。あんたと走ったら足がぼろぼろになるし、道も間違えるからこれが正解」

 げっそりとした顔でバラコフが言う。それは過去に幾度も無茶振りに振り回された苦い経験があるからだ。

「それにしてもよく生きてるわぁ……。もうあんな凄い能力を持った逸脱とは戦いたく無いわよぉ」

 馬車の外の青い空を遠い目で見上げながらオカマは呟く。

「あー、面白い能力だったね。ダメージが効かないのはかなりプレッシャーだったわ。でもさ、世の中にはあんなとんでも能力の逸脱がいっぱいいるんだって考えるとわくわくしない?」

「しないわよお馬鹿。もうこりごりよ……」

 純粋なる好奇心で言う私に対しバラコフは手を振って反対する。

「サンゴー、どう? 戦いの中で何か思い出せたりした?」

「残念デスガ、何モ思イ出セナイデス」

「そうかー……。私と戦った時に動いたり出来たから何か収穫があるかなと思ったけど、中々そうはいかないね」

 私は眉を八の字にして残念そうにする。

「……あたし達の村の人達を拐った奴も多分もっととんでもない能力よねぇ。いったいどうしたもんかしらぁ……」

「……そうね。だから今回のは逆にいい経験になったわ。今度またそういう輩が出てきても泰然不動たいぜんふどうに構えて返り討ちにしてやるわよ」

 あくまでもプラスに考える。この先、命の保証などない。だからこそ不足の事態に強気に出なくてはいけないのだ。

「でもやっぱり心配だわぁ。今回だってほんとギリギリよぉん」

「勝率ハ、極メテ低カッタデス。バラコフ、アナタノ機転ト勇気二助ケラレマシタ」

「リリアンって呼びなさいっ! でもありがとねサンちゃん。あたしもあんたが居なかったら最初の攻撃で蜂の巣にされてたわよぉ。サンちゃんが機械で助かったわぁ」

「二人とも凄いよ! あんなに危ない能力の奴に勝てるなんて流石ね!」

「生身で勝てるあんたの方が凄いわよ……」

 三人は互いを誉め合うと、私とバラコフは変な笑いが出た。

「ヴィエリィ、アナタハ何故、身ノ危険ヲ笑エルノデスカ」

「え? うーん……? なんでだろ……。"生きてる"からかなあ?」

「──"生キテル"。ソレハ、みずかラノ快感ノタメデスカ」

 サンゴーは頭から電子音を出しながら私に問いかける。

「快感、とは違うかな。私は自分の信念に沿って"生きてる"。それは他人のための戦い──人助けだったり、仲間のために危険に飛び込んだり、そして今ある命に対しての感謝があるから笑えるのかな? 難しいことは言えないけど、こうやって何気なく友達と話すことが日常的に出来ることじたいが私の"生きてる"ってことだから、とにかく笑うのよ」

「わかったようで、よくわからないわねぇ」

「私もそう思ったわ」

 そのツッコミでまた私とバラコフは笑う。サンゴーはそれを見てまた疑問する。

「笑ウ──友達……」

「そうよ。サンゴーも笑ってみなさい。今こうやって生きてるのが、わけわかんないくらい不思議なんだから!」

 腕組みをしながら機械は四角い口をギギギと開ける。

「────フ、ハ、ハ、ハ」

 私の言葉を受けてサンゴーは少し間を置いてゆっくりと笑い声のようなものを出した。

「あっはは! 変な笑いかた!」

「ちょっとサンちゃん笑わせないでよぉ~」

 それは、聞いたことも無い世界一ぎこちない笑い声。サンゴーはその後も練習するが終始二人の笑いを誘うだけであった。




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