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襲撃とハイエルフ

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2日目の夜

1日目から動き通しの疲れが出たのか、その日は全員が早くに床についた。

皆が寝入るのに合わせて私も寝床に移動したのはいいものの、先ほどから妙な胸騒ぎが治まらない。

そう、皆が寝静まる姿の何かが気になっているのだ。宿に到着した時から盗賊だった頃の経験と勘が警鐘を鳴らしている。



暫く横になりながら考えていると、ふっと1日目との違いが閃いた。

(部屋の匂いか!いや、それが変わっただけでどうしてここまで・・・)

そう、この匂いを知っている。そしてそれはろくでもない事だと示唆している。

それを考えているときだった。



ゴトリ



と天井から何か音がした。

「っ!?そういう事か!?敵っつう!?」



身を起こし叫ぼうとした所で窓が割れ、風きり音とともに何かが飛来してきた。

目標は俺の頭部だったようだが、神が察知したのか、頭の位置をずらして避けてくれたようだ。



この騒ぎでも他の者が動き出す気配が無い。そうこうしている間に男衆は首を切られ床に転がされていく。



その後ろでは女子供が縛られ運ばれていく姿が見える。

直ぐに動こうと態勢を整えた所で、追い打ちの様に矢がもう一本飛んでくる。

(この暗さの中で!?しかもこの付近だとそう高い所はないはずだが・・・まさか街の中央にある高台からか!?)

徒歩で3分かかる位置の高台からしか、この角度で矢を射るのは不可能だ。

どんな化物だと生唾を飲み込む。



(視界から隠れなければ)

人数も圧倒的に不利であるが、情報は仕入れなければならない。

「神よ!ご加護を!」



------------------------------



「ふんっ虫けらの癖によく避ける。」

高台の屋根の上に突き刺した剛弓の下端を抜き、角度を修正して刺しなおす。



身の丈を超える長さと人の腕ほどもある太さ。およそ人が引く事ができない弦、矢をつがえる部分と手で持つ部分部分だけ削られたそれは、本来ならばそこでポッキリと折れてしまいそうな特殊な形をしている。両端には今使用しているように突き刺す用途の為に15センチ程の長さの鉄針がついており、全てが非合理的な形と性能であるそれを男は易易と使いこなす。



ハイエルフでも限られた者しか扱えない剛弓を引き絞り、彼は不敵に笑う。



「まあ、次の一射で決める」



腕を強化する呪文と風を操る呪文を合わせて唱えつつ目いっぱいに引く。



矢尻には特性の痺れ薬も塗布されており、かすりさえすれば勝負は決まる。



第三射を射ようと力を抜こうとした時、不意に頭上から鳥の鳴き声がした。



「何!?」



こんな夜に鳥が飛んでいる事に嫌な予感を感じで視線を移すと、高速で急降下してくる中型の鳥が3羽見えた。



「ちぃっ!」



針を取り外し即座に狙いを変え、矢をもう一本追加でつがえ直し、向かってくる2羽を撃ち落とした。

最後の3羽目は鉄針を突き出す事で、吸い込まれるように串刺しになった。



相当な速度を出していたのだろう、避ける素振りも見せなかった姿に冷や汗を流しながら、安堵のため息を吐く。



「ふう・・・一体なんな・う!?」



愚痴をこぼそうとして息を詰まらせる。



撃ち落とした鳥が刺さった矢をそのままに再び飛び上がっていた。

「そんな莫迦な事が!」



驚愕の余り呆然と立ち尽くしていると、手元で串刺しにしていた鳥も動き始めた。



とっさに振り払い離そうとしたが、血で固まってしまっているのか離れる気配が無い。



「クッ!」



腰に挿した短剣に手を伸ばし、切りつけようと鳥に目を凝らした時・・・

彼は信じられない物を目にした。



いつの間にかその鳥は大きく口を開け、その血に濡れた真っ赤な口蓋から、真っ白な紐のような物がこちらと向き合うように出てきていた。



血液と鳥の粘液が月の光に反射して、その異様さを一掃掻き立てている。



全身の毛穴が広がり、髪の毛の先まで総毛立つ。

「お前か!?この不死身の鳥を操っているのは!」



恐怖に抗えず、剣を振りその紐を横薙に断ち切ろうとしたが、向き合う形から身を伏せた事であっさりと躱されてしまう。



弓の針はおよそ20cm程の長さがあり、鳥は根元まで刺さっている。

それが身を伏せた事により、そいつはべったりと弓に触れた。



直後

パキパキと乾いた音が周囲に響く。



「なっ!?」



亀裂は一瞬で弓全体に広がると、弾けるように音を立てて破壊させた。



「世界樹の弓が・・・。

まさか・・・これは・・・!?」



自らの切り札である武器が破壊された事と同時に、彼はその結果について、とある考えに行き着いていた。



「・・・まずい事になった・・・。

里に帰らねば・・・。」



色白の顔立ちから更に色を失くした彼は、震える身体を無理やり動かす。



なんとかとぼとぼと歩き出し、100年以上は離れていた里に戻るために行動を開始する。



恐怖と焦燥に駆られた彼は気づけない。







矢筒から力なく垂れ下がったネズミの尻尾の存在に・・
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