13 / 38
奥の手と逆転の一手
しおりを挟む
そうか・・・ポチはここが果ての戦いと決めたのだな。
そうであれば、俺も全力を出すのに吝かではない。
本当はもっと調整を行ってから出すつもりだったのだが。
もはや、その元の毛が何色だったかすら分からない。赤黒く濡れたそれは全てハンターからの返り血であり、時折呼吸をするように蠢く毛は歓喜に震えて居るようである。明かりに照らされ光沢を放つその体と、獲物を定める金色の目がハンター達を萎縮させる。
そんな姿に更に変化が現れる。
クチャアと粘液質な音を立てながら、ポチの触手の先端が4つに分かれる。
「おっおい・・・」
「なんだよ・・・あれは・・・。」
「あれは・・・・口・・・なのか?」
いままで忙しなく動き回っていたハンター達の動きが止まる。
まるで餌を求めるように、その触手達はハンター達、特に攻撃を耐えるタンク役のいる方向へと向く。
「何かくるぞ!」
グスタフが警戒をハンター達に促すが、その注意は虚しくも無意味だった。
今までの触手の攻撃を想定してか、タンク達は密集して触手を迎え撃とうと陣形を組んだが。
バチンッ
という何かを弾く音と主に、ハンター達はミキサーに入れられたかのように、原型を留めず混ざり合うように肉塊へと姿を変えた。それはそのハンター達だけではなく、後方にあった地面や、木さえ穿つように削り取っていった。
「「「「・・・」」」」
「うおおおおおおおおお!!!!!」
他のハンター達が動きを止める中、グスタフのみが咄嗟にポチに斬りかかる。ポチは余裕を持ってひらりと回避し、再度触手の向きをグスタフに向けるが、それに気づいたスカウトの1人が短剣を投げつけることで、ポチの注意をひきつけ、例の攻撃が中断される。
「奴に!!あれを!!撃たせるな!!」
もはや追い詰められているのがどちらか分からぬような有様であった。
必死にハンター達はポチに追いすがり、触手の動きを阻害しようと努める。
パンッ!パンッ!
「くっそ!空中を動けるとか反則じゃねえかよ!」
必死に捉えようと走るが、どういう原理か触手の向きをあらぬ方向に向けると、ポチが反対方向へと軌道を変える行動を見て、グスタフは毒づく。そのせいで、着地点をしぼれず魔法の攻撃も、弓での一斉射撃も、人で囲い込むことすら上手く行かない。
もう・・・辺りは暗くなっている・・・。ここからは魔物の時間だ・・・。
「「グエッ」」
二人の先行していたスカウトが突然苦しげな声を出しながら宙吊りになる。急に首を引っ張られた為か頚椎が折れ即死したようだ、プラプラと力なく揺れたあと、地面へと落ちた。
「こんな戦い方もできるのか!?」
音もなく近寄られ、1人、また1人と首をへし折られていく。
だが、固まって警戒しようとしてしまったらあの攻撃がやってくる。
いよいよ撤退の文字がグスタフの頭によぎる。
「グスタフさん」
もう駄目か、そう諦め撤退を指示しようかと思ったその時。一人の大柄なハンターが、意を決したかのように話しかけてきた。
「俺に考えがある。必ず隙を作るから、後を頼む。」
何か秘策があるのだろうか?しかし、こちらに何か良い作戦があるわけでもない
「わかった。やってみてくれ、隙ができたのならば、必ず俺が仕留めてみせる。」
了承すると、彼は剣を捨てて一人前に進み俺たちから距離を取った。
そんなに前に出たら真っ先に奴に襲われる・・・そう叫びたかったが、それこそが狙いなのだろう。
果たして目論見通りというか、あの化物がそんな獲物を見逃す筈も無く、するりと彼の首に触手が巻き付いた。
彼は巻き付く触手を迎え入れると「ここだあああああああ!!!!」と叫んで引っ張った。
「キャン!」
甲高い悲鳴が聞こえ、俺たちの前にやつが姿を現した。
(首を引っ張る瞬間、少し無防備になるのか)
恐らく自らを重りにしていのであろう。木から飛び降り衝撃で敵を倒す、それを看破した彼はその体格を活かし大きな川魚を釣り上げるように、化物を暗闇から引っ張り出した。
「おおおおらああああ!」
引っ張り出した勢いをそのまま、俺のすぐそばに化物が落ちてくる。突然の事だったので、やつはあの奇妙な移動もできぬまま地面に叩きつけられる。
即座に駆け寄り、立ち上がろうとする化物を袈裟斬りで斬りかかった。
「ぐうっ!」
しかし、やつの微細な毛が剣の芯をずらそうとして、刃先が滑りそうになった。
「こなくそおおおおおおおおお!!!」
気合で足を踏み直し、無理やり剣の軌道を修正横薙に振り払った。
バチン!という音と足に広がる激痛、「ギャン!」という短い断末魔、を残し奴はふきとび草むらに落ちていく。
「やった・・・・のか・・・?」
他のハンター達が急いで草むらに確認しに向かう。
「なっ!?」
「嘘だろ・・・まだ動けんのかよ・・・」
そこに奴は居なかった。が、血の跡が点々と地面と木の上等に続いている。どうやら致命傷は与えられたようだ。時間はかかってしまうが、追跡は可能だろう。足の筋を切ってしまった為、俺はここまでのようだが、あとは他のハンターに任せても大丈夫だ。
指揮はあの見事な一本釣りを見せてくれたタンクへと引き継ぎ、俺は後方の野営地に戻ることにした。
(今日は眠れないな・・・。)
あの化物が夢にまで出てきそうで、代わりにあのメンバーを尋問する事で気を紛らわせようと心に決めたのだった。
そうであれば、俺も全力を出すのに吝かではない。
本当はもっと調整を行ってから出すつもりだったのだが。
もはや、その元の毛が何色だったかすら分からない。赤黒く濡れたそれは全てハンターからの返り血であり、時折呼吸をするように蠢く毛は歓喜に震えて居るようである。明かりに照らされ光沢を放つその体と、獲物を定める金色の目がハンター達を萎縮させる。
そんな姿に更に変化が現れる。
クチャアと粘液質な音を立てながら、ポチの触手の先端が4つに分かれる。
「おっおい・・・」
「なんだよ・・・あれは・・・。」
「あれは・・・・口・・・なのか?」
いままで忙しなく動き回っていたハンター達の動きが止まる。
まるで餌を求めるように、その触手達はハンター達、特に攻撃を耐えるタンク役のいる方向へと向く。
「何かくるぞ!」
グスタフが警戒をハンター達に促すが、その注意は虚しくも無意味だった。
今までの触手の攻撃を想定してか、タンク達は密集して触手を迎え撃とうと陣形を組んだが。
バチンッ
という何かを弾く音と主に、ハンター達はミキサーに入れられたかのように、原型を留めず混ざり合うように肉塊へと姿を変えた。それはそのハンター達だけではなく、後方にあった地面や、木さえ穿つように削り取っていった。
「「「「・・・」」」」
「うおおおおおおおおお!!!!!」
他のハンター達が動きを止める中、グスタフのみが咄嗟にポチに斬りかかる。ポチは余裕を持ってひらりと回避し、再度触手の向きをグスタフに向けるが、それに気づいたスカウトの1人が短剣を投げつけることで、ポチの注意をひきつけ、例の攻撃が中断される。
「奴に!!あれを!!撃たせるな!!」
もはや追い詰められているのがどちらか分からぬような有様であった。
必死にハンター達はポチに追いすがり、触手の動きを阻害しようと努める。
パンッ!パンッ!
「くっそ!空中を動けるとか反則じゃねえかよ!」
必死に捉えようと走るが、どういう原理か触手の向きをあらぬ方向に向けると、ポチが反対方向へと軌道を変える行動を見て、グスタフは毒づく。そのせいで、着地点をしぼれず魔法の攻撃も、弓での一斉射撃も、人で囲い込むことすら上手く行かない。
もう・・・辺りは暗くなっている・・・。ここからは魔物の時間だ・・・。
「「グエッ」」
二人の先行していたスカウトが突然苦しげな声を出しながら宙吊りになる。急に首を引っ張られた為か頚椎が折れ即死したようだ、プラプラと力なく揺れたあと、地面へと落ちた。
「こんな戦い方もできるのか!?」
音もなく近寄られ、1人、また1人と首をへし折られていく。
だが、固まって警戒しようとしてしまったらあの攻撃がやってくる。
いよいよ撤退の文字がグスタフの頭によぎる。
「グスタフさん」
もう駄目か、そう諦め撤退を指示しようかと思ったその時。一人の大柄なハンターが、意を決したかのように話しかけてきた。
「俺に考えがある。必ず隙を作るから、後を頼む。」
何か秘策があるのだろうか?しかし、こちらに何か良い作戦があるわけでもない
「わかった。やってみてくれ、隙ができたのならば、必ず俺が仕留めてみせる。」
了承すると、彼は剣を捨てて一人前に進み俺たちから距離を取った。
そんなに前に出たら真っ先に奴に襲われる・・・そう叫びたかったが、それこそが狙いなのだろう。
果たして目論見通りというか、あの化物がそんな獲物を見逃す筈も無く、するりと彼の首に触手が巻き付いた。
彼は巻き付く触手を迎え入れると「ここだあああああああ!!!!」と叫んで引っ張った。
「キャン!」
甲高い悲鳴が聞こえ、俺たちの前にやつが姿を現した。
(首を引っ張る瞬間、少し無防備になるのか)
恐らく自らを重りにしていのであろう。木から飛び降り衝撃で敵を倒す、それを看破した彼はその体格を活かし大きな川魚を釣り上げるように、化物を暗闇から引っ張り出した。
「おおおおらああああ!」
引っ張り出した勢いをそのまま、俺のすぐそばに化物が落ちてくる。突然の事だったので、やつはあの奇妙な移動もできぬまま地面に叩きつけられる。
即座に駆け寄り、立ち上がろうとする化物を袈裟斬りで斬りかかった。
「ぐうっ!」
しかし、やつの微細な毛が剣の芯をずらそうとして、刃先が滑りそうになった。
「こなくそおおおおおおおおお!!!」
気合で足を踏み直し、無理やり剣の軌道を修正横薙に振り払った。
バチン!という音と足に広がる激痛、「ギャン!」という短い断末魔、を残し奴はふきとび草むらに落ちていく。
「やった・・・・のか・・・?」
他のハンター達が急いで草むらに確認しに向かう。
「なっ!?」
「嘘だろ・・・まだ動けんのかよ・・・」
そこに奴は居なかった。が、血の跡が点々と地面と木の上等に続いている。どうやら致命傷は与えられたようだ。時間はかかってしまうが、追跡は可能だろう。足の筋を切ってしまった為、俺はここまでのようだが、あとは他のハンターに任せても大丈夫だ。
指揮はあの見事な一本釣りを見せてくれたタンクへと引き継ぎ、俺は後方の野営地に戻ることにした。
(今日は眠れないな・・・。)
あの化物が夢にまで出てきそうで、代わりにあのメンバーを尋問する事で気を紛らわせようと心に決めたのだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
孤高の英雄は温もりを求め転生する
モモンガ
ファンタジー
『温もりが欲しい』
それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。
そんな願いが通じたのか、彼は転生する。
意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。
周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。
俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる