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奥の手と逆転の一手
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そうか・・・ポチはここが果ての戦いと決めたのだな。
そうであれば、俺も全力を出すのに吝かではない。
本当はもっと調整を行ってから出すつもりだったのだが。
もはや、その元の毛が何色だったかすら分からない。赤黒く濡れたそれは全てハンターからの返り血であり、時折呼吸をするように蠢く毛は歓喜に震えて居るようである。明かりに照らされ光沢を放つその体と、獲物を定める金色の目がハンター達を萎縮させる。
そんな姿に更に変化が現れる。
クチャアと粘液質な音を立てながら、ポチの触手の先端が4つに分かれる。
「おっおい・・・」
「なんだよ・・・あれは・・・。」
「あれは・・・・口・・・なのか?」
いままで忙しなく動き回っていたハンター達の動きが止まる。
まるで餌を求めるように、その触手達はハンター達、特に攻撃を耐えるタンク役のいる方向へと向く。
「何かくるぞ!」
グスタフが警戒をハンター達に促すが、その注意は虚しくも無意味だった。
今までの触手の攻撃を想定してか、タンク達は密集して触手を迎え撃とうと陣形を組んだが。
バチンッ
という何かを弾く音と主に、ハンター達はミキサーに入れられたかのように、原型を留めず混ざり合うように肉塊へと姿を変えた。それはそのハンター達だけではなく、後方にあった地面や、木さえ穿つように削り取っていった。
「「「「・・・」」」」
「うおおおおおおおおお!!!!!」
他のハンター達が動きを止める中、グスタフのみが咄嗟にポチに斬りかかる。ポチは余裕を持ってひらりと回避し、再度触手の向きをグスタフに向けるが、それに気づいたスカウトの1人が短剣を投げつけることで、ポチの注意をひきつけ、例の攻撃が中断される。
「奴に!!あれを!!撃たせるな!!」
もはや追い詰められているのがどちらか分からぬような有様であった。
必死にハンター達はポチに追いすがり、触手の動きを阻害しようと努める。
パンッ!パンッ!
「くっそ!空中を動けるとか反則じゃねえかよ!」
必死に捉えようと走るが、どういう原理か触手の向きをあらぬ方向に向けると、ポチが反対方向へと軌道を変える行動を見て、グスタフは毒づく。そのせいで、着地点をしぼれず魔法の攻撃も、弓での一斉射撃も、人で囲い込むことすら上手く行かない。
もう・・・辺りは暗くなっている・・・。ここからは魔物の時間だ・・・。
「「グエッ」」
二人の先行していたスカウトが突然苦しげな声を出しながら宙吊りになる。急に首を引っ張られた為か頚椎が折れ即死したようだ、プラプラと力なく揺れたあと、地面へと落ちた。
「こんな戦い方もできるのか!?」
音もなく近寄られ、1人、また1人と首をへし折られていく。
だが、固まって警戒しようとしてしまったらあの攻撃がやってくる。
いよいよ撤退の文字がグスタフの頭によぎる。
「グスタフさん」
もう駄目か、そう諦め撤退を指示しようかと思ったその時。一人の大柄なハンターが、意を決したかのように話しかけてきた。
「俺に考えがある。必ず隙を作るから、後を頼む。」
何か秘策があるのだろうか?しかし、こちらに何か良い作戦があるわけでもない
「わかった。やってみてくれ、隙ができたのならば、必ず俺が仕留めてみせる。」
了承すると、彼は剣を捨てて一人前に進み俺たちから距離を取った。
そんなに前に出たら真っ先に奴に襲われる・・・そう叫びたかったが、それこそが狙いなのだろう。
果たして目論見通りというか、あの化物がそんな獲物を見逃す筈も無く、するりと彼の首に触手が巻き付いた。
彼は巻き付く触手を迎え入れると「ここだあああああああ!!!!」と叫んで引っ張った。
「キャン!」
甲高い悲鳴が聞こえ、俺たちの前にやつが姿を現した。
(首を引っ張る瞬間、少し無防備になるのか)
恐らく自らを重りにしていのであろう。木から飛び降り衝撃で敵を倒す、それを看破した彼はその体格を活かし大きな川魚を釣り上げるように、化物を暗闇から引っ張り出した。
「おおおおらああああ!」
引っ張り出した勢いをそのまま、俺のすぐそばに化物が落ちてくる。突然の事だったので、やつはあの奇妙な移動もできぬまま地面に叩きつけられる。
即座に駆け寄り、立ち上がろうとする化物を袈裟斬りで斬りかかった。
「ぐうっ!」
しかし、やつの微細な毛が剣の芯をずらそうとして、刃先が滑りそうになった。
「こなくそおおおおおおおおお!!!」
気合で足を踏み直し、無理やり剣の軌道を修正横薙に振り払った。
バチン!という音と足に広がる激痛、「ギャン!」という短い断末魔、を残し奴はふきとび草むらに落ちていく。
「やった・・・・のか・・・?」
他のハンター達が急いで草むらに確認しに向かう。
「なっ!?」
「嘘だろ・・・まだ動けんのかよ・・・」
そこに奴は居なかった。が、血の跡が点々と地面と木の上等に続いている。どうやら致命傷は与えられたようだ。時間はかかってしまうが、追跡は可能だろう。足の筋を切ってしまった為、俺はここまでのようだが、あとは他のハンターに任せても大丈夫だ。
指揮はあの見事な一本釣りを見せてくれたタンクへと引き継ぎ、俺は後方の野営地に戻ることにした。
(今日は眠れないな・・・。)
あの化物が夢にまで出てきそうで、代わりにあのメンバーを尋問する事で気を紛らわせようと心に決めたのだった。
そうであれば、俺も全力を出すのに吝かではない。
本当はもっと調整を行ってから出すつもりだったのだが。
もはや、その元の毛が何色だったかすら分からない。赤黒く濡れたそれは全てハンターからの返り血であり、時折呼吸をするように蠢く毛は歓喜に震えて居るようである。明かりに照らされ光沢を放つその体と、獲物を定める金色の目がハンター達を萎縮させる。
そんな姿に更に変化が現れる。
クチャアと粘液質な音を立てながら、ポチの触手の先端が4つに分かれる。
「おっおい・・・」
「なんだよ・・・あれは・・・。」
「あれは・・・・口・・・なのか?」
いままで忙しなく動き回っていたハンター達の動きが止まる。
まるで餌を求めるように、その触手達はハンター達、特に攻撃を耐えるタンク役のいる方向へと向く。
「何かくるぞ!」
グスタフが警戒をハンター達に促すが、その注意は虚しくも無意味だった。
今までの触手の攻撃を想定してか、タンク達は密集して触手を迎え撃とうと陣形を組んだが。
バチンッ
という何かを弾く音と主に、ハンター達はミキサーに入れられたかのように、原型を留めず混ざり合うように肉塊へと姿を変えた。それはそのハンター達だけではなく、後方にあった地面や、木さえ穿つように削り取っていった。
「「「「・・・」」」」
「うおおおおおおおおお!!!!!」
他のハンター達が動きを止める中、グスタフのみが咄嗟にポチに斬りかかる。ポチは余裕を持ってひらりと回避し、再度触手の向きをグスタフに向けるが、それに気づいたスカウトの1人が短剣を投げつけることで、ポチの注意をひきつけ、例の攻撃が中断される。
「奴に!!あれを!!撃たせるな!!」
もはや追い詰められているのがどちらか分からぬような有様であった。
必死にハンター達はポチに追いすがり、触手の動きを阻害しようと努める。
パンッ!パンッ!
「くっそ!空中を動けるとか反則じゃねえかよ!」
必死に捉えようと走るが、どういう原理か触手の向きをあらぬ方向に向けると、ポチが反対方向へと軌道を変える行動を見て、グスタフは毒づく。そのせいで、着地点をしぼれず魔法の攻撃も、弓での一斉射撃も、人で囲い込むことすら上手く行かない。
もう・・・辺りは暗くなっている・・・。ここからは魔物の時間だ・・・。
「「グエッ」」
二人の先行していたスカウトが突然苦しげな声を出しながら宙吊りになる。急に首を引っ張られた為か頚椎が折れ即死したようだ、プラプラと力なく揺れたあと、地面へと落ちた。
「こんな戦い方もできるのか!?」
音もなく近寄られ、1人、また1人と首をへし折られていく。
だが、固まって警戒しようとしてしまったらあの攻撃がやってくる。
いよいよ撤退の文字がグスタフの頭によぎる。
「グスタフさん」
もう駄目か、そう諦め撤退を指示しようかと思ったその時。一人の大柄なハンターが、意を決したかのように話しかけてきた。
「俺に考えがある。必ず隙を作るから、後を頼む。」
何か秘策があるのだろうか?しかし、こちらに何か良い作戦があるわけでもない
「わかった。やってみてくれ、隙ができたのならば、必ず俺が仕留めてみせる。」
了承すると、彼は剣を捨てて一人前に進み俺たちから距離を取った。
そんなに前に出たら真っ先に奴に襲われる・・・そう叫びたかったが、それこそが狙いなのだろう。
果たして目論見通りというか、あの化物がそんな獲物を見逃す筈も無く、するりと彼の首に触手が巻き付いた。
彼は巻き付く触手を迎え入れると「ここだあああああああ!!!!」と叫んで引っ張った。
「キャン!」
甲高い悲鳴が聞こえ、俺たちの前にやつが姿を現した。
(首を引っ張る瞬間、少し無防備になるのか)
恐らく自らを重りにしていのであろう。木から飛び降り衝撃で敵を倒す、それを看破した彼はその体格を活かし大きな川魚を釣り上げるように、化物を暗闇から引っ張り出した。
「おおおおらああああ!」
引っ張り出した勢いをそのまま、俺のすぐそばに化物が落ちてくる。突然の事だったので、やつはあの奇妙な移動もできぬまま地面に叩きつけられる。
即座に駆け寄り、立ち上がろうとする化物を袈裟斬りで斬りかかった。
「ぐうっ!」
しかし、やつの微細な毛が剣の芯をずらそうとして、刃先が滑りそうになった。
「こなくそおおおおおおおおお!!!」
気合で足を踏み直し、無理やり剣の軌道を修正横薙に振り払った。
バチン!という音と足に広がる激痛、「ギャン!」という短い断末魔、を残し奴はふきとび草むらに落ちていく。
「やった・・・・のか・・・?」
他のハンター達が急いで草むらに確認しに向かう。
「なっ!?」
「嘘だろ・・・まだ動けんのかよ・・・」
そこに奴は居なかった。が、血の跡が点々と地面と木の上等に続いている。どうやら致命傷は与えられたようだ。時間はかかってしまうが、追跡は可能だろう。足の筋を切ってしまった為、俺はここまでのようだが、あとは他のハンターに任せても大丈夫だ。
指揮はあの見事な一本釣りを見せてくれたタンクへと引き継ぎ、俺は後方の野営地に戻ることにした。
(今日は眠れないな・・・。)
あの化物が夢にまで出てきそうで、代わりにあのメンバーを尋問する事で気を紛らわせようと心に決めたのだった。
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