寄生虫転生~神様ではない~

kitakore

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人間との邂逅と

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しかしながらだ、コイツの情報はギルドに伝えなければならない。

これだけ村に近い距離にいるのだ、村に来る確率はかなり高い。排除しなければ、安心する事は不可能だろう。



ここまで考え、覚悟を決める。

俺が足留めをし、他のメンバーには逃げて貰うしかない。

幸い、ウルフもどきが距離をとって、此方の出方を伺っているという事は、奴も何かしら不安を感じているのかもしれない。



「ミレア、後は頼んだ。」



呟いた彼女は真っ青な顔をしながら、此方に意識を向けてくれた。そして同時に意図を察してくれたようだ。

長い付き合いだ、だからこそ首を横に振り、ささやかな否定の意思を示したが、子供のように駄々を捏ねられても困る。時間も無いのだ。



「いいから行け!必ず俺も逃げ延びる!」



怒鳴りながら背中に回して、壁となる。後ろから走り出す音がして安堵した。



途端、ウルフもどきが動いた。垂直に飛び上がった奴が、何をするのかと、警戒をすれば



「嘘だろ?」



唖然とした。奴はその触手のような物を攻撃に使わず、移動に使い始めた。

剣の届かぬ位置まで飛び上がり、エイプのような器用さで木のしなりを利用し、木で入り組んだ森を有り得ない速さで動く。



聞いた事も見た事も無いぞ、こんな生物。

俺は邪神の眷属にでも出会ってしまったのだろうか。



あっと言う間に、逃げていた筈のミレア達に接近すると、何か丸い物が飛んだ。100歩程もあるその距離を飛ぶとはそれほどの威力があったのだろう。

飛んで来たのはアーチャーのカイン、そのものだった。

彼は未だに信じられ無いと言わんばかりに目を見開き、一度だけ瞬きをすると、それきり動かなくなった。



「あっ、あっあぁ」



終わった。

俺の献身も嘲笑うが如く、虚しく。頭の中が真っ白になった。

きっと、もう2人も助からないだろう。

そう思い、ぼんやりと視線をカインからミレアに向ければ、逃げて行く背中と、何故かこちらに戻ってくるウルフもどきの姿が見えた。



(なぜ?)



そう考えるより先に脚が動いた。

覚悟を決めたのに、ここで死のうと決心したのに、無様にも俺はあいつからの逃走を選んでしまった。

だが、結果的にこれで良かったのかもしれない。奴が追ってくるならば、それは同時に2人から距離を取れるという事だ。



皮肉な事に、この無様な逃走こそ最適解であると、この後俺は知ったのだった。

只今鬼ごっこの真っ只中。



ポチがアーチャーの首を胴体からシュートした後、次はタンク役を追い始めた。

どうやら俺のお願いを聞いて、2人は見逃したようなのだが、いや、ちょっと本当にこれは大失敗。

ポーターは戦力外でキャスターは魔法を見たいから置いといただけで、情報を持ち帰られるのは非常に困る。

訂正しようにも、興奮してるのか、なかなか指示が通り難い。



(まぁ、いざとなったら逃げれば良いか。)



気をとりなおして、タンクの方に意識を向ける。

今後の為にも、是非とも人間との戦闘経験が欲しいところなので、追い詰めて猫を噛む鼠になって貰わねばならない。



途中、寄生済みの鼠を誘導し、仕留めた2人の頭に向かわせておく。

転んでもただで済ますつもりはさらさらない。



先程の力量差から、奴らにポチを倒すどころか傷さえ付けるのは難しいと判断して、最後の1人は殺さないように、前もってお願いしておく。



追い込みは順調に行っているようで、このまま行けば行き止まりとなっている筈だ。

鼠を使ってある程度の周辺は把握済みである。



袋小路に追い込むのに、時間はそうかからなかった。

恐慌状態だからか、判断能力が鈍っているのであろう。



だが

追い詰められたというのに、タンクの顔は絶望に塗れてなどいなかった。決死の覚悟という奴か。



「€@jgdm?」



奴は1人言か、はたまたポチに話し掛けているのか、短い単語をポツリと零した。



(ここの言語覚えないとなぁ。)



情報を得る手段はあるのだが、これでは宝の持ち腐れだと、暢気に考えてしまう。



「☆2々jgdm!」



剣を突くような形で水平に構えると、タンクは吶喊を仕掛けて来た。

戦うのはポチだ、事前に手加減を伝えているし。俺はサポートと観察に集中する。



タンクは勢いそのまま突きを放つが、ポチは危なげなく敵の右横に避ける。

見た感じ彼は右利きだ、ポチもそう思って避けたに違いない。しかし、それはブラフだった。薄く彼が笑うのが見える。突き入れ前、半歩分、左足を前に踏み出すと、左手から強烈な切り払いをしてきた。



予想外だったが、ポチはその程度では慌てない。

素早く地面に伏せ、剣尖の芯からずれつつ、触手でいなす。

思い切り振った渾身の一撃だったのか、彼は体を半回転させ、ステップを踏んでポチから距離を取ろうとしたが。ポチは好機とみて、横腹の隠し触手で、脚を打った。きちんと手加減はしたみたいだが、脛は痛いだろう。

それでも彼は、歯を食い縛り顔をしかめながらも、距離を取ることに成功した。



(ここら辺の弱点も向こうと同じだな)



まぁほぼ変わりが無い姿形をしてる時点で、構造がそう変わるとも思えないが。



そして、そこからの戦いは、やはりというかポチの優勢で進んだ。彼の攻撃を1つ避ける度に、関節部に1発触手を打ち据える。

彼が体力と気力を無くし、膝をついたのは、戦闘開始から20分後の事だった。

大健闘だと思う。自分だったら、2分保たない自信がある。
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