日向の花 _生贄となった英雄_

pote

文字の大きさ
上 下
7 / 10

07 王の対面

しおりを挟む




…ラルに嫌われちゃうかな。

レイの周りには5人の男が横たわっていた。家具には血飛沫が飛び散りレイが座っている場所は血溜まりの真ん中だ。

せめてこの世界のことを把握するまではここにいられるよう、王の次に決定権を持っているであろう善人らしい彼を利用させてもらうことにした。

言語を教えてもらうのも半分は言語獲得までの効率化のため。もう半分は彼の満たされていない部分を満たし懐に入り込むためだ。

男性というものは多くの場合、自分よりもか弱い女性を好むものだ。この世界が血生臭い世界であればいいが、そうでなければこんな赤色の女性は論外だろう。

全く、どうして死んでまで命の危機に晒されなければならないのか。

「………………。」

机の上に置いてあるラルから借りた本が目に入った。

時間を忘れるほどたった一つのことに集中することはレイの心に安息を与えた。

私は死にたかったわけじゃない。

“普通“になりたかったの…。

ここを立ち去ろうと腰を上げようとした時、部屋の扉の前に人影が現れた。残党かと敵の持っていた武器を握り相手の顔を見るが、身動きが取れなくなった。

晴天を思わせる輝く太陽とガラス玉のように透き通り光を含むスカイブルー。先程まで気配を全く感じさせなかった彼は相対した途端、立ち振る舞いと面持ち、覇者としての重圧、全身からその崇高さを示していた。

生物としての格が違いすぎる。

彼が王だと確信した。

「どうした、声も出せないのか。」

本能は逃走を命じるが体は硬直し、目を逸らせば瞬く間に襲われる恐怖で瞬きも忘れていた。

これが捕食される側の感情か。

黙っていると見かねた彼は鼻で笑い、近づいてきた。

「こいつらを1人で殺した人間はどれほどかと思ったが、期待外れだな。…しかしお前は人間か?」

重低音の声が脳に響く。嫌な汗が首を伝い、鎖骨から谷間に流れ込む。怪訝な顔でこちらを覗き込もうと距離が縮まる度に、喉がヒュゥと鳴った。

「レイちゃん!!」

そこへノアの反応がどういう意味か読み取れず恐る恐る室内を見たラルがレイを見つけて駆け寄った。

「!!」

ラルは思いきりレイを抱きしめ、それによってレイの硬直も溶ける。

「よかった……っ!」

…この人は、本当に優しい人なんだ。

彼の善意を利用した断罪としてレイはそのまま遠くの壁の一点を見ながら冷静に話を始めた。

「私ね、軍人だったの。軍人というか、兵器。戦の才能のあった私はもちろん命ぜられるままに戦争でも多くを殺したし、この見た目を利用して人を騙して陥れた。国家に人質に取られていた家族が殺され、枷が外れた私は同志と共に国家討伐の計画を練って成功させたのち、死ななければならない私は仲間に後を任せた。最後にこの忌々しい命で1人でも救いたくて、馬鹿げた信仰の犠牲者である生贄の子とすり替わって死ぬはずだった。王様の言う通り、私の体は時を止められました。この能力と見た目を衰えさせない為に、多くの犠牲の末未完成に終わった禁忌の薬を投薬され、成功しました。」

二人にとって俄かに信じがたい話であったが、目の前の女性はノアの目にはただの人間には見えなかった。

「お前は人間の業の塊なわけか。」

ノアは人間がその領域まで達していたことが興味深かった。

「ノア!そんな言い方はないだろ!」

ノアは彼女が来てから浮ついているラルをレイから引き離した。

「ラルは頭を冷やせ。もうすぐ人が集まる。手綱を握っているお前がその状態ではが困る。」

「…申し訳ありません、ノア様。」

少ない言葉のやり取りだが二人は言葉数以上に見えないやり取りがあり、ノアからラルに向けられる優しい眼差しは彼らの関係の深さを感じた。

ノアはレイの目の前に片膝を付くと顎を掴んでじっくりと彼女を見た。

「お前はその美貌が憎いか?私は何度も鏡を割った。今日の会議でも色目を使ったと言われた。しかし認めたくはないが今まで有利になったこともある。街に逃げてその美貌で人々を狂わせ度々襲われその手を汚すか、ここで私の加護を受けて平穏に暮らすか。」

王が立ち上がると生贄は両手両膝を床につけ、額を血溜まりの中につけた。

「私を貴方様のお側に置かせてください。」

「お前は誰のものだ。」

「私は貴方様のものです。」

彼は満足そうに左の口角を上げ、扉の方向へ歩いた。

しかし部屋を出る直前

「ですが、私の心は私のものです。」

振り返ると顔を上げた彼女がにっこりと笑っていた。

「期待外れと言ったが、度胸のある人間だ。私は会議の後処理をする。生贄は今日から私の部屋で生活をさせる。ラルは生贄と部屋の移動をしろ。」

ラルは笑って返事をした。

彼女は王の支配欲と闘争心を煽ったが、どうやら気に入った様子だ。これで彼女が放置されることもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...