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06 孤独と焦燥
しおりを挟むラルがレイの部屋に繋がる廊下の角を曲がった時、彼女の部屋の扉が開いているのが見えた。中から飛んできたであろう血飛沫があったが、争う音もなく完全に全てが終わった後だった。
間に合わなかったとラルはその場に座り込み、床を叩いた。
まさか自分がノアと間違えられて生贄が襲われるとは思わなかった。しかし自分を揺さぶってノアの制御をなくすために生贄に手を出すことも考えられたはずだ。多くの者はラルの性格上放っておけず世話をしているだけだと思うだろうが、全員がそう思うとは言い切れない。自分の周囲の評価の良さに溺れていた。
何度も何度も拳を床に打ち付けて泣いた。
ノアと出会う前、物心ついて最初の記憶が母親の死だった。父が言うにはただの風邪だったようだが、治療薬が容易に手に入らない時代であり、本来ならば助かるはずの母親は命を落とした。
まだ死を理解していなかったラルはなんとなくとても悲しいことが起こっているとよく分からず泣きじゃくった。
なんの罪もない善人だった父親を理不尽な暴力により失った時も、平民だから仕方がないと息を殺して泣くしかなった。
…ああ。僕は無力なんだ。あの頃から何一つ変わっていない。
この地位もノア様の友人であり家族であったからこそ得られた地位であり、自らの力ではない。
結局僕も貴族と一緒だ。
他人に与えられた餌を食べて生きている。
父も俺も、小さな善意で他人ばかり救って身近な人を救えない。
ノア様のように多くの人々を救う能力など持ち合わせていないんだ。
「…ラル、“俺”が見てこよう。」
追いついたノアがラルの肩を優しく叩いた。
ノアはこういった時、「大丈夫だ。」「心配するな。」などという無責任な言葉は言わない。
「…………。」
返事をする事もできないラルは彼女の部屋に向かう彼の背中を見つめる。
彼の背中は逞しい。
父の遺体を埋めた日も、彼は何も言わず肩を叩き前へ進んでいった。
穏やかだが聡明な両親の元に王になるべく生まれた男。
彼と自分の間にある決して埋まらない距離に、近くにいるようで離れているような孤独と焦りは常に感じている。
そうして部屋の前に立ったノアは数秒微動だにせず、かと思えば誰かに話し始めた。
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