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第四幕 伝心 Heart of Telling

9.荒羅刃刃鬼一家のたくらみ

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「──カカ様、カカ様……?」

 嶽山の空洞内にて、遠い目をしながらロウソウが灯る祭壇の上に四つ並んだ頭骨を撫でていた橋姫の背中に声がかけられた。

「……ん? なぁに、断魔鬼(たつまき)」

 振り返った橋姫がほほ笑みながら、断魔鬼と呼ばれた燃えるような赤い髪に朱色の肌を持つ美女に声を返した。

「なんかボーッとしてたからさ、どしたん?」
「……ふふっ、刃刃鬼様と初めて会った日のことを思い返していたのよ」

 橋姫はそう言って、左端の頭骨を手に取ると自身の顔の前に掲げた。

「それって、トト様がジジ様を殺して喰らった日のこと?」

 断魔鬼は言いながら祭壇に寄りかかると、橋姫は頷いてから口を開いた。

「ええ、そうよ。あなたたちのジジ様、大太郎坊も勿論強かったけどね、それよりも遥かに獰猛で強かったのが刃刃鬼様だったの……私はその猛々しい姿を見て……ふふ、一目惚れてしまったの」

 橋姫はうっとりしながらそう話すと、手に持った頭骨を眺めた。

「ねぇ、カカ様……? 私のこと、恨んでいる? 刃刃鬼様にカカ様と三人の姉様を捧げたこと、恨んでいる……?」

 骨女の頭骨と祭壇に並んだ川姫、清姫、山姫の頭骨は物言わずにジッと四女の橋姫を見つめていた。

「でも、カカ様と姉様には出番を用意してあるから。今しばらくそこに居てくださいませ」

 橋姫はそう言って、手にしていた骨女の頭骨を祭壇の上に置いた。
 それを見た断魔鬼は頭骨をポンポンと叩くと、淡い緑色の肌に深緑色の長い髪をした美女が姿を現した。

「……カカ様、鬼ヶ島への道が見つかりました」
「渦魔鬼(うずまき)、あなたは本当に天才ね」
「姉やん、マジで天才」

 渦魔鬼と呼ばれた美女が凛とした声で告げると、橋姫と断魔鬼は渦魔鬼の後を追って祭壇を離れた。
 開かれた空洞の奥には巨大な赤い玉座があり、その玉座には更に巨大な朱色の肌をした大鬼、荒羅刃刃鬼が鎮座していた。

「──橋姫、渦魔鬼が鬼ヶ島を見つけたぞッッ!!」

 刃刃鬼は29年間に渡って四国中の妖怪を喰らって巨大化したその肉体を張り上げながら咆哮のような声を発した。

「ええ、誇らしいですわ。さすが私たちの娘。鬼と妖怪の融合体」

 橋姫はそう言って刃刃鬼の巨体に飛び乗ると、膝の上に座って発達した胸筋にしなだれかかった。

「──まさしく。おい、断魔鬼、すねるな。渦魔鬼は橋姫に似たが、お前は俺に似ている」

 姉の渦魔鬼が褒められてつまらなそうにしていた妹の断魔鬼に気づいた刃刃鬼がそう言って手招きをした。

「トト様……! そうだ、あたしはトト様似なんだ!」

 断魔鬼は嬉しそうに言いながら駆け寄ると、玉座に座る刃刃鬼の左隣に寄り添った。

「その背中に背負った大ナタ。元は俺が若い頃に妖怪退治に使っていたものだが、お前にくれてやった。俺以外にはお前しか使いこなせるものはいないからだ。そうだな、断魔鬼?」
「そうさ……! こいつはあたしの身長よりデカいから、振り回すのも精一杯だけど、こいつでトト様の邪魔するやつらを蹴散らすって決めたんだ!」

 刃刃鬼の言葉を受けて、断魔鬼は背中に背負っていた大ナタをドスン──と地面に落とし、片足を乗っけて宣言するように叫んだ。

「その粋よ、断魔鬼。刃刃鬼様の力になることがあなたたち姉妹のお役目なのだからね……さて、渦魔鬼。さっそく見せてもらってもいいかしら」
「はい、カカ様」

 橋姫にうながされた渦魔鬼がしなやかに玉座の前までやってくると、胸元が開いた黒い着物の中に手を差し入れて赤い呪札の束を取り出して宙空にばらまいた。

「──オン──マユラギ──ランテイ──ソワカ──」

 そして、孔雀明王のマントラを唱えながら指先で円を描くと、呪札が門を形作り、呪札門が完成する。

「姉やんすっげぇ!」

 断魔鬼が橙色の瞳を見開きながら声を上げる。開かれた呪札門の向こう側には鬼ノ城の姿がそびえ立っていた。

「……鬼ヶ島に行けば残された役小角の遺産がある。その遺産を用いれば、日ノ本全土を鬼大王の領域にすることが叶う」

 渦魔鬼は言いながら、玉座の右隣に歩み寄って刃刃鬼の巨大な右手に寄り添った。
 橋姫、渦魔鬼、断魔鬼の三人が玉座に鎮座する荒羅刃刃鬼に寄り添うと、刃刃鬼は凶悪に発達した長い牙を持つ大口を開いた。

「──俺が巌鬼の"予備"じゃねぇってことを、日ノ本全土に教え込んでやる」

 刃刃鬼が力強く宣言した巨大な玉座の背後には白骨化した大太郎坊の死骸がうずくまるように置かれていた。
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