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第四幕 伝心 -Heart of Telling-
8.妖怪大王大太郎坊
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児啼爺(こなきじじい)と結託した荒羅刃刃鬼(あらはばき)は破竹の勢いで四国の妖怪を次々と配下にしていった。
抗う妖怪は問答無用で駆逐し、四国の妖怪たちは刃刃鬼の残虐性に恐れ慄いた。
そして6年の歳月を経て、四国全土を刃刃鬼が支配下に置こうとしていたその時──。
「──おのれカパトトノマト、おのれぬらりひょん……! 400年……! 妖怪大王を400年も封じおって……!」
讃岐にある嶽山(だけやま)内部の巨大な空洞にて、うずくまるようにして身を納めた巨大な人型の妖怪と、その前に立つ5人の女妖怪の姿があった。
「──オン──ドドマリ──ギャキテイ──ソワカ──オン──ドドマリ──ギャキテイ──ソワカ──」
中央に立つ年老いた骨女が一心不乱に鬼子母神のマントラを唱え、その左に立つ川姫、清姫、右に立つ山姫、橋姫も各々念じながら妖怪大王の復活を祈念した。
「……トト様、どうかお目覚めくださいませ。今や四国は悪鬼が跋扈し、闇に包まれております……!」
「……トト様、どうかお目覚めくださいませ……! 四国の妖怪は皆、トト様の力を求めております……!」
川姫と清姫が祈りながら声に出すと、山姫が隣で祈念する橋姫に声をかけた。
「橋姫……今宵、トト様が目覚めるよ」
「……わかるのですか? 姉様」
「ああ、私は山の妖女だからね。この嶽山全体が妖力に満ち溢れている。懐かしいね。これは、トト様の妖力だよ……」
岩姫が笑みを浮かべながら告げると、轟音と共に嶽山が打ち震えた。
「あああっ!」
悲鳴を上げて川姫と清姫が地面にしゃがみこむと、骨女が鬼気迫る顔で二人に向かって叫んだ。
「怯むでない! これは大太郎坊(だいだらぼう)様の目覚めの声だよッッ!! 祈り続けなさいッッ!!」
骨女は落ち窪んだ眼を大太郎坊に向け直すと、骨ばった両手をこすり合わせながら金切り声にも似た声を上げた。
「あなたァ、目覚めてくださいましィ……! あなたァ……!」
骨女の懇願を聞き届けたかのように嶽山が一層激しく震えると、うずくまって固く目を閉じていた巨人、大太郎坊が蠢き出して、体に巻き付けてあった注連縄がブチブチ──と音を立てて千切れ落ちていった。
「目覚める……! トト様が目覚める……!」
橋姫が嬉々とした声を上げると、背後から世にも恐ろしい鬼の咆哮が鳴り響いた。
「──グラァァァアアアッッ!!」
「──刃刃鬼! やれェいッッ!!」
両手を広げて5人の妖女に向かって駆け迫って来る刃刃鬼。その後方には杖を前に突き出して声を上げる児啼爺の姿があった。
「──こやつら、嶽山の結界を超えてきたのか……!?」
骨女が悲鳴のような声を上げると、児啼爺が笑いながら声を発した。
「ひっひっひ! ずっと待っておったのよ! 大太郎坊が動き出して、結界が緩むその時をのう!」
そう言って、次々に落ちていく注連縄と四つん這いになって体を起こそうとする大太郎坊の巨体を見た。
「──邪魔だァッッ!!」
「──ひィ……!」
刃刃鬼は牙をむき出しにしながら骨女めがけて突撃すると、その体を軽々と吹き飛ばして大太郎坊に向けて跳躍した。
「──テメェが妖怪大王だなッッ!! 邪魔なんだよッッ!! 四国は俺のッッ!! 荒羅刃刃鬼様の領域だッッ!!」
刃刃鬼は6年前と比べて遥かに巨大になったその鬼の肉体を余すことなく使って大太郎坊に飛びかかる。
「──ぬおう……」
その瞬間、大太郎坊が目を400年ぶりに見開いて、四姉妹に介抱される骨女の姿、そして飛びかかってくる刃刃鬼の姿を見た。
「──ぬォオオオオオオオッッ!!」
大太郎坊は常人なら聞くだけで鼓膜が破れるようなとんでもない声量の咆哮を張り上げると、飛びかかってきた刃刃鬼目掛けて右手で渾身の張り手を喰らわせた。
──ドゴォォォォォォン!!
「──っっ!?」
刃刃鬼は一瞬、自分の身に何が起きたのかわからないというように鬼の目をキョトン──と見開くと、次の瞬間、その体が砲弾のように吹き飛ばされて、嶽山の分厚い岩盤をズガガガガ──と砕いていく。
「……は、刃刃鬼っ!?」
その光景を見て、唖然としたのは児啼爺であった。刃刃鬼が貫通していった岩壁の穴を見て呆然としていると、身を起こした大太郎坊が憤怒の赤い眼で児啼爺を見下ろす。
「あ、ああ……! 偉大なる妖怪大王、大太郎坊様……! わしはかねてよりあなた様の素晴らしいお噂を聞いておりまして、ぜひお会いしたいものと……! その──」
「──ぬゥゥウウん……!!」
児啼爺はまくし立てるように言葉を発するが、大太郎坊はその大樹のような腕を伸ばして児啼爺を掴んで握りしめる。
「──あぎぎぎっっ!! お、脅されていたんです! あの悪鬼に脅されていたんですゥ……! ぎいっぎぎぎ……!」
「──ンがぁぁあああ……!!」
大太郎坊は一切の弁明を聞き入れることなく、大口を開けたその中に児啼爺を落とした。
「……お助け……! お助げっ……! げっ──」
──ガリッ、バリッ、グシャ……!!
大太郎坊の口内にて、児啼爺は胴体を石化させながら5人の妖女に向けて泣き叫ぶが、大太郎坊の強靭な顎の力を前にして石化は無力であり、難なく咀嚼されて呑み込まれた。
「……ゴクロウ……アトハ……ワレニ……マカセイ……」
四つん這いの大太郎坊は身を寄せ合った5人の妖女、妻の骨女と娘の四姉妹を見下ろしながら低い声を発した。
「あなたァ……!」
「トト様……!」
骨女と娘たちは歓喜の涙を流しながら大太郎坊の巨体を見上げた。
「──ぬンッ!」
そして、大太郎坊は岩壁に両拳をぶち当てると、山肌を引き裂くようにして嶽山の内部から巨大な顔を覗かせた。
400年ぶりに見る夜空と満月。400年ぶりに味わう四国の風を感じながら、嶽山の内部からその巨体を這いずり出して、遂に長きに渡って封じられていたその姿を現した妖怪大王、大太郎坊。
「──ぬぅぅぅぅん……」
大太郎坊が目を閉じて、気持ちよく夜風を味わっていると嶽山の山頂から鬼の咆哮が放たれた。
「──いてェじゃねェかッッ……!! このデカブツがァッッ!!」
嶽山の山頂から跳躍した刃刃鬼が油断していた大太郎坊の横顔目掛けて飛びかかると、握りしめた右拳でその頬を激しく殴打した。
──ドォォォオオンッッ!!
激しい爆発音と衝撃波が周囲に炸裂し、大太郎坊は大きくのけぞった。
「……ぬゥゥウっっ!?」
「──覚えとけッッ!! 俺が! 俺様がッッ! 四国唯一の大王! ──鬼大王様だッッ!!」
倒れていく大太郎坊の巨体にしがみついた刃刃鬼は咆哮を上げながら大太郎坊の左の眼球に鋭い鬼の牙で噛みついた。
「ぬガァァアアアッッ……!!」
「──ガゥルルルッッ!!」
叫び声を上げた大太郎坊はその場に激しく尻もちをつくと、その衝撃で周辺の家屋を吹き飛ばした。
刃刃鬼は獣のように眼球に噛みつきながら鬼の爪を伸ばした両手で眼球を握りしめる。
「あなた……!」
「トト様……!」
その壮絶な光景を嶽山の引き裂かれた山肌から出てきて、声を上げながら見る骨女と四姉妹。
「ぬんがァァアアっっ!!」
大太郎坊は激痛に泣き叫ぶような声で大気を震わせると、刃刃鬼の体を右手で掴んで自身の眼球ごと引き剥がした。
「──フゥゥ……!! グルルゥァァアッッ!!」
大太郎坊の強力な握力で全身を掴まれた刃刃鬼は、筋肉を強張らせたあと、咆哮を張り上げた。
その瞬間、刃刃鬼の両肩と背中から六枚の刃がジャキッ──と音を立てて伸びて大太郎坊の右手を斬り裂いた。
「ッッ!! ぬがぁぁああッッ!!」
まさかの攻撃方法に驚愕しながら、右手の激痛に思わず刃刃鬼を掴んでいた握力を弱めた大太郎坊。
刃刃鬼はニヤリ──と笑みを浮かべて背中の刃をチャキッ──と体内に納めて右手から這い出すと、眼球から眼孔へと繋がっている視神経の束の上を手足を使って獣のように駆け登っていった。
「ああ! 嗚呼っっ!!」
骨女と四姉妹はその光景を見ながら気を失いそうになるほどの悲鳴を上げた。
視神経を素早く登り切った刃刃鬼は大太郎坊の眼孔の中に入り込むと、全身を血で赤く染めながら肉を噛み千切り、鬼の爪で引き裂いていく。
「ぬがぁぁああッッ!! ヌガァァアアアアッッ!!」
大太郎坊は顔を両手で抑えながら遂に地面に倒れ込むと、その巨体をドシンドシン──とのたうち回らせた。
右に左にと、大太郎坊の巨体が地面に叩きつけられる度に地震のような激しい揺れが周囲に走って村の家屋を倒壊させていく。
「──なんだァ……? こりャちょっと、他とはちげェなァ……」
刃刃鬼は大太郎坊の眼孔を"掘り進んでいった"先にドクンドクン──と脈打つ桃色の巨大な肉の塊を見つけた。
「──俺の勝ちだなァ……妖怪大王さんよォ……!」
血濡れた刃刃鬼はニンマリ──とした笑みを浮かべると、両手の鬼の爪、そして鬼の牙でもって桃色の肉塊、大太郎坊の脳みそにしがみつき、噛みつき、喰い千切る。
次の瞬間、大太郎坊は残った右目をグルン──と上に向けると、大の字になって沈黙するのであった。
抗う妖怪は問答無用で駆逐し、四国の妖怪たちは刃刃鬼の残虐性に恐れ慄いた。
そして6年の歳月を経て、四国全土を刃刃鬼が支配下に置こうとしていたその時──。
「──おのれカパトトノマト、おのれぬらりひょん……! 400年……! 妖怪大王を400年も封じおって……!」
讃岐にある嶽山(だけやま)内部の巨大な空洞にて、うずくまるようにして身を納めた巨大な人型の妖怪と、その前に立つ5人の女妖怪の姿があった。
「──オン──ドドマリ──ギャキテイ──ソワカ──オン──ドドマリ──ギャキテイ──ソワカ──」
中央に立つ年老いた骨女が一心不乱に鬼子母神のマントラを唱え、その左に立つ川姫、清姫、右に立つ山姫、橋姫も各々念じながら妖怪大王の復活を祈念した。
「……トト様、どうかお目覚めくださいませ。今や四国は悪鬼が跋扈し、闇に包まれております……!」
「……トト様、どうかお目覚めくださいませ……! 四国の妖怪は皆、トト様の力を求めております……!」
川姫と清姫が祈りながら声に出すと、山姫が隣で祈念する橋姫に声をかけた。
「橋姫……今宵、トト様が目覚めるよ」
「……わかるのですか? 姉様」
「ああ、私は山の妖女だからね。この嶽山全体が妖力に満ち溢れている。懐かしいね。これは、トト様の妖力だよ……」
岩姫が笑みを浮かべながら告げると、轟音と共に嶽山が打ち震えた。
「あああっ!」
悲鳴を上げて川姫と清姫が地面にしゃがみこむと、骨女が鬼気迫る顔で二人に向かって叫んだ。
「怯むでない! これは大太郎坊(だいだらぼう)様の目覚めの声だよッッ!! 祈り続けなさいッッ!!」
骨女は落ち窪んだ眼を大太郎坊に向け直すと、骨ばった両手をこすり合わせながら金切り声にも似た声を上げた。
「あなたァ、目覚めてくださいましィ……! あなたァ……!」
骨女の懇願を聞き届けたかのように嶽山が一層激しく震えると、うずくまって固く目を閉じていた巨人、大太郎坊が蠢き出して、体に巻き付けてあった注連縄がブチブチ──と音を立てて千切れ落ちていった。
「目覚める……! トト様が目覚める……!」
橋姫が嬉々とした声を上げると、背後から世にも恐ろしい鬼の咆哮が鳴り響いた。
「──グラァァァアアアッッ!!」
「──刃刃鬼! やれェいッッ!!」
両手を広げて5人の妖女に向かって駆け迫って来る刃刃鬼。その後方には杖を前に突き出して声を上げる児啼爺の姿があった。
「──こやつら、嶽山の結界を超えてきたのか……!?」
骨女が悲鳴のような声を上げると、児啼爺が笑いながら声を発した。
「ひっひっひ! ずっと待っておったのよ! 大太郎坊が動き出して、結界が緩むその時をのう!」
そう言って、次々に落ちていく注連縄と四つん這いになって体を起こそうとする大太郎坊の巨体を見た。
「──邪魔だァッッ!!」
「──ひィ……!」
刃刃鬼は牙をむき出しにしながら骨女めがけて突撃すると、その体を軽々と吹き飛ばして大太郎坊に向けて跳躍した。
「──テメェが妖怪大王だなッッ!! 邪魔なんだよッッ!! 四国は俺のッッ!! 荒羅刃刃鬼様の領域だッッ!!」
刃刃鬼は6年前と比べて遥かに巨大になったその鬼の肉体を余すことなく使って大太郎坊に飛びかかる。
「──ぬおう……」
その瞬間、大太郎坊が目を400年ぶりに見開いて、四姉妹に介抱される骨女の姿、そして飛びかかってくる刃刃鬼の姿を見た。
「──ぬォオオオオオオオッッ!!」
大太郎坊は常人なら聞くだけで鼓膜が破れるようなとんでもない声量の咆哮を張り上げると、飛びかかってきた刃刃鬼目掛けて右手で渾身の張り手を喰らわせた。
──ドゴォォォォォォン!!
「──っっ!?」
刃刃鬼は一瞬、自分の身に何が起きたのかわからないというように鬼の目をキョトン──と見開くと、次の瞬間、その体が砲弾のように吹き飛ばされて、嶽山の分厚い岩盤をズガガガガ──と砕いていく。
「……は、刃刃鬼っ!?」
その光景を見て、唖然としたのは児啼爺であった。刃刃鬼が貫通していった岩壁の穴を見て呆然としていると、身を起こした大太郎坊が憤怒の赤い眼で児啼爺を見下ろす。
「あ、ああ……! 偉大なる妖怪大王、大太郎坊様……! わしはかねてよりあなた様の素晴らしいお噂を聞いておりまして、ぜひお会いしたいものと……! その──」
「──ぬゥゥウウん……!!」
児啼爺はまくし立てるように言葉を発するが、大太郎坊はその大樹のような腕を伸ばして児啼爺を掴んで握りしめる。
「──あぎぎぎっっ!! お、脅されていたんです! あの悪鬼に脅されていたんですゥ……! ぎいっぎぎぎ……!」
「──ンがぁぁあああ……!!」
大太郎坊は一切の弁明を聞き入れることなく、大口を開けたその中に児啼爺を落とした。
「……お助け……! お助げっ……! げっ──」
──ガリッ、バリッ、グシャ……!!
大太郎坊の口内にて、児啼爺は胴体を石化させながら5人の妖女に向けて泣き叫ぶが、大太郎坊の強靭な顎の力を前にして石化は無力であり、難なく咀嚼されて呑み込まれた。
「……ゴクロウ……アトハ……ワレニ……マカセイ……」
四つん這いの大太郎坊は身を寄せ合った5人の妖女、妻の骨女と娘の四姉妹を見下ろしながら低い声を発した。
「あなたァ……!」
「トト様……!」
骨女と娘たちは歓喜の涙を流しながら大太郎坊の巨体を見上げた。
「──ぬンッ!」
そして、大太郎坊は岩壁に両拳をぶち当てると、山肌を引き裂くようにして嶽山の内部から巨大な顔を覗かせた。
400年ぶりに見る夜空と満月。400年ぶりに味わう四国の風を感じながら、嶽山の内部からその巨体を這いずり出して、遂に長きに渡って封じられていたその姿を現した妖怪大王、大太郎坊。
「──ぬぅぅぅぅん……」
大太郎坊が目を閉じて、気持ちよく夜風を味わっていると嶽山の山頂から鬼の咆哮が放たれた。
「──いてェじゃねェかッッ……!! このデカブツがァッッ!!」
嶽山の山頂から跳躍した刃刃鬼が油断していた大太郎坊の横顔目掛けて飛びかかると、握りしめた右拳でその頬を激しく殴打した。
──ドォォォオオンッッ!!
激しい爆発音と衝撃波が周囲に炸裂し、大太郎坊は大きくのけぞった。
「……ぬゥゥウっっ!?」
「──覚えとけッッ!! 俺が! 俺様がッッ! 四国唯一の大王! ──鬼大王様だッッ!!」
倒れていく大太郎坊の巨体にしがみついた刃刃鬼は咆哮を上げながら大太郎坊の左の眼球に鋭い鬼の牙で噛みついた。
「ぬガァァアアアッッ……!!」
「──ガゥルルルッッ!!」
叫び声を上げた大太郎坊はその場に激しく尻もちをつくと、その衝撃で周辺の家屋を吹き飛ばした。
刃刃鬼は獣のように眼球に噛みつきながら鬼の爪を伸ばした両手で眼球を握りしめる。
「あなた……!」
「トト様……!」
その壮絶な光景を嶽山の引き裂かれた山肌から出てきて、声を上げながら見る骨女と四姉妹。
「ぬんがァァアアっっ!!」
大太郎坊は激痛に泣き叫ぶような声で大気を震わせると、刃刃鬼の体を右手で掴んで自身の眼球ごと引き剥がした。
「──フゥゥ……!! グルルゥァァアッッ!!」
大太郎坊の強力な握力で全身を掴まれた刃刃鬼は、筋肉を強張らせたあと、咆哮を張り上げた。
その瞬間、刃刃鬼の両肩と背中から六枚の刃がジャキッ──と音を立てて伸びて大太郎坊の右手を斬り裂いた。
「ッッ!! ぬがぁぁああッッ!!」
まさかの攻撃方法に驚愕しながら、右手の激痛に思わず刃刃鬼を掴んでいた握力を弱めた大太郎坊。
刃刃鬼はニヤリ──と笑みを浮かべて背中の刃をチャキッ──と体内に納めて右手から這い出すと、眼球から眼孔へと繋がっている視神経の束の上を手足を使って獣のように駆け登っていった。
「ああ! 嗚呼っっ!!」
骨女と四姉妹はその光景を見ながら気を失いそうになるほどの悲鳴を上げた。
視神経を素早く登り切った刃刃鬼は大太郎坊の眼孔の中に入り込むと、全身を血で赤く染めながら肉を噛み千切り、鬼の爪で引き裂いていく。
「ぬがぁぁああッッ!! ヌガァァアアアアッッ!!」
大太郎坊は顔を両手で抑えながら遂に地面に倒れ込むと、その巨体をドシンドシン──とのたうち回らせた。
右に左にと、大太郎坊の巨体が地面に叩きつけられる度に地震のような激しい揺れが周囲に走って村の家屋を倒壊させていく。
「──なんだァ……? こりャちょっと、他とはちげェなァ……」
刃刃鬼は大太郎坊の眼孔を"掘り進んでいった"先にドクンドクン──と脈打つ桃色の巨大な肉の塊を見つけた。
「──俺の勝ちだなァ……妖怪大王さんよォ……!」
血濡れた刃刃鬼はニンマリ──とした笑みを浮かべると、両手の鬼の爪、そして鬼の牙でもって桃色の肉塊、大太郎坊の脳みそにしがみつき、噛みつき、喰い千切る。
次の瞬間、大太郎坊は残った右目をグルン──と上に向けると、大の字になって沈黙するのであった。
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