107 / 121
第四幕 伝心 Heart of Telling
7.四国の鬼大王
しおりを挟む
「……な、なんだぁ……こりゃぁ……」
刃刃鬼から遅れること10分、猿猴(えんこ)の砦に到着した武装した川獺(かわそ)たちはその光景を見て愕然とした。
「──遅かったなァ、もう終わっちまったぞ」
返り血を浴びて、朱色の体を真っ赤に染めた刃刃鬼が、手に握った瀕死の猿猴の頭を握りつぶす。
「──俺が強過ぎるのか、この猿どもが弱過ぎるのか、まるで歯ごたえがなかったぜ」
「……ううっ」
川獺たちは刃刃鬼の言葉を聞きながら凄惨な状態になっている砦を見回して声を漏らした。
森の木々の間に組まれた猿猴の砦。その端々に物言わぬ猿猴の残骸が飛び散ってぶらさがっていた。
「最初の数十匹を軽く蹴散らしただけで、残りは悲鳴を上げながら森の奥に逃げていっちまった……ったく、こんなのがのさばってるなんて、よほど平和だったんだな、四国ってのは」
刃刃鬼はそう言って、握りしめた猿猴の死骸を口元に運ぶと、ぼたぼたと垂れる鮮血を喉を鳴らして飲み始めた。
「んぐんぐ……! ぷはっ、悪くねェ、悪くねェ……! ──あぐッ、がぶッ!」
そして、遂には猿猴の肩に喰らいついてその肉を噛みちぎっては飲み込んでいく刃刃鬼。
川獺たちはその狂気の光景を戦慄しながら小さく口を開いた。
「妖怪の肉を……喰らってる……」
「鬼からしたら、妖怪も獣も変わらんのだろう……」
「私ら、とんでもねぇバケモンを拾っちまったんでねぇのか?」
「今更どうすることもできねぇ……"刃刃鬼様"に従って、川獺が生き残ることを第一に考えるしかねぇ……」
川獺たちがひそひそ声で話し合っていると、刃刃鬼が猿猴の残骸を放り投げて、地面に捨てる。
そして、川獺たちの元まで歩いてくると、川獺たちがザザッ──と一斉に道を開けた。
「さァてと……おいッ! 残ったのはてめぇだけだッ! さっさと変化を解けッ!」
刃刃鬼は石化したままの児啼爺(こなきじじい)に向けて吼えるように声を向けた。
「──それとも、俺と力比べするかァ?」
そう言って笑みを浮かべた刃刃鬼は、両手を広げて児啼爺の石化した頭を掴もうとする。
「ひぃぃ……! 参った、参ったぁ……! わしの負けじゃ! わしの負けっ!」
悲鳴を上げながら石化を解いた児啼爺が、半べそをかきながら尻もちをついて両手を上げた。
刃刃鬼の鬼の爪による初撃を喰らったハゲ頭の左右には大きな斬り裂き傷が出来ていた。
「降参する……! 四国から出ていく! 許してくれぇ……!」
「刃刃鬼様っ、騙されないでくださいませ……! そいつは平気で嘘をつきます!」
「余計なことを言うなぁあっっ!!」
両手を合わせて命乞いをする児啼爺に対して川獺が声を上げると、児啼爺はハゲ頭に血管を浮かばせながら激昂した。
「俺はジジイに嫌な思いをさせられててな、お前みたいなジジイは端から生かしちゃおけねェんだ──」
刃刃鬼は役小角の顔を思い浮かべながらそう言うと、鬼の爪を伸ばした両手を児啼爺に向けて伸ばしていく。
「──ま、待てぇっ……! おぬしにわしの"知恵"を貸そうっっ!!」
「あン……?」
児啼爺は血走った目を大きく見開きながら、わめくように叫んだ。
「おぬしの"鬼の力"と! わしの"知恵"があれば! もはや止められる者はこの四国にはおらんぞっっ!! さすればおぬしは四国の王! 鬼大王になれるのじゃっっ!!」
「──四国の鬼大王」
刃刃鬼はその言葉を味わうように口にすると、目を閉じて両手を降ろした。
「刃刃鬼様、そんなやつの言うこと信じちゃいけねぇ……!」
「ッ!」
川獺が声を上げると、児啼爺が水を差すなとでも言いたげにキッと睨みつけた。
「……俺はこいつの言うことを信じたわけじゃねェ……俺は俺の"自力"だけを信じている。ああ、確かに俺は"自力"で"四国の鬼大王"になれるだろうよ──」
「──だが、わしなら"もっと早く"、おぬしを鬼大王にできる」
刃刃鬼の言葉を受けた児啼爺は立ち上がってそう告げると、まだ年若く、成熟してない鬼である刃刃鬼の顔を見上げながら右手を伸ばした。
「──その言葉、気に入ったぜ」
刃刃鬼はニヤリと笑いながら右手を伸ばして児啼爺と固い握手を交わした。しかし、その余りの握力の強さに児啼爺は脂汗をかきながら引きつった笑みを浮かべた。
──い、命拾いした……! まったく、わしの肝を冷やしおって……!
──利用してやる……徹底的に利用してやるぞ、鬼の小僧め……!
児啼爺はニンマリとした笑みを浮かべながら内心では、"鬼の力"を利用して成り上がることを考えていた。
刃刃鬼から遅れること10分、猿猴(えんこ)の砦に到着した武装した川獺(かわそ)たちはその光景を見て愕然とした。
「──遅かったなァ、もう終わっちまったぞ」
返り血を浴びて、朱色の体を真っ赤に染めた刃刃鬼が、手に握った瀕死の猿猴の頭を握りつぶす。
「──俺が強過ぎるのか、この猿どもが弱過ぎるのか、まるで歯ごたえがなかったぜ」
「……ううっ」
川獺たちは刃刃鬼の言葉を聞きながら凄惨な状態になっている砦を見回して声を漏らした。
森の木々の間に組まれた猿猴の砦。その端々に物言わぬ猿猴の残骸が飛び散ってぶらさがっていた。
「最初の数十匹を軽く蹴散らしただけで、残りは悲鳴を上げながら森の奥に逃げていっちまった……ったく、こんなのがのさばってるなんて、よほど平和だったんだな、四国ってのは」
刃刃鬼はそう言って、握りしめた猿猴の死骸を口元に運ぶと、ぼたぼたと垂れる鮮血を喉を鳴らして飲み始めた。
「んぐんぐ……! ぷはっ、悪くねェ、悪くねェ……! ──あぐッ、がぶッ!」
そして、遂には猿猴の肩に喰らいついてその肉を噛みちぎっては飲み込んでいく刃刃鬼。
川獺たちはその狂気の光景を戦慄しながら小さく口を開いた。
「妖怪の肉を……喰らってる……」
「鬼からしたら、妖怪も獣も変わらんのだろう……」
「私ら、とんでもねぇバケモンを拾っちまったんでねぇのか?」
「今更どうすることもできねぇ……"刃刃鬼様"に従って、川獺が生き残ることを第一に考えるしかねぇ……」
川獺たちがひそひそ声で話し合っていると、刃刃鬼が猿猴の残骸を放り投げて、地面に捨てる。
そして、川獺たちの元まで歩いてくると、川獺たちがザザッ──と一斉に道を開けた。
「さァてと……おいッ! 残ったのはてめぇだけだッ! さっさと変化を解けッ!」
刃刃鬼は石化したままの児啼爺(こなきじじい)に向けて吼えるように声を向けた。
「──それとも、俺と力比べするかァ?」
そう言って笑みを浮かべた刃刃鬼は、両手を広げて児啼爺の石化した頭を掴もうとする。
「ひぃぃ……! 参った、参ったぁ……! わしの負けじゃ! わしの負けっ!」
悲鳴を上げながら石化を解いた児啼爺が、半べそをかきながら尻もちをついて両手を上げた。
刃刃鬼の鬼の爪による初撃を喰らったハゲ頭の左右には大きな斬り裂き傷が出来ていた。
「降参する……! 四国から出ていく! 許してくれぇ……!」
「刃刃鬼様っ、騙されないでくださいませ……! そいつは平気で嘘をつきます!」
「余計なことを言うなぁあっっ!!」
両手を合わせて命乞いをする児啼爺に対して川獺が声を上げると、児啼爺はハゲ頭に血管を浮かばせながら激昂した。
「俺はジジイに嫌な思いをさせられててな、お前みたいなジジイは端から生かしちゃおけねェんだ──」
刃刃鬼は役小角の顔を思い浮かべながらそう言うと、鬼の爪を伸ばした両手を児啼爺に向けて伸ばしていく。
「──ま、待てぇっ……! おぬしにわしの"知恵"を貸そうっっ!!」
「あン……?」
児啼爺は血走った目を大きく見開きながら、わめくように叫んだ。
「おぬしの"鬼の力"と! わしの"知恵"があれば! もはや止められる者はこの四国にはおらんぞっっ!! さすればおぬしは四国の王! 鬼大王になれるのじゃっっ!!」
「──四国の鬼大王」
刃刃鬼はその言葉を味わうように口にすると、目を閉じて両手を降ろした。
「刃刃鬼様、そんなやつの言うこと信じちゃいけねぇ……!」
「ッ!」
川獺が声を上げると、児啼爺が水を差すなとでも言いたげにキッと睨みつけた。
「……俺はこいつの言うことを信じたわけじゃねェ……俺は俺の"自力"だけを信じている。ああ、確かに俺は"自力"で"四国の鬼大王"になれるだろうよ──」
「──だが、わしなら"もっと早く"、おぬしを鬼大王にできる」
刃刃鬼の言葉を受けた児啼爺は立ち上がってそう告げると、まだ年若く、成熟してない鬼である刃刃鬼の顔を見上げながら右手を伸ばした。
「──その言葉、気に入ったぜ」
刃刃鬼はニヤリと笑いながら右手を伸ばして児啼爺と固い握手を交わした。しかし、その余りの握力の強さに児啼爺は脂汗をかきながら引きつった笑みを浮かべた。
──い、命拾いした……! まったく、わしの肝を冷やしおって……!
──利用してやる……徹底的に利用してやるぞ、鬼の小僧め……!
児啼爺はニンマリとした笑みを浮かべながら内心では、"鬼の力"を利用して成り上がることを考えていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
亡国の系譜と神の婚約者
仁藤欣太郎
ファンタジー
二十年前に起こった世界戦争の傷跡も癒え、世界はかつてない平和を享受していた。
最果ての島イールに暮らす漁師の息子ジャンは、外の世界への好奇心から幼馴染のニコラ、シェリーを巻き込んで自分探しの旅に出る。
ジャンは旅の中で多くの出会いを経て大人へと成長していく。そして渦巻く陰謀、社会の暗部、知られざる両親の過去……。彼は自らの意思と無関係に大きな運命に巻き込まれていく。
☆本作は小説家になろう、マグネットでも公開しています。
☆挿絵はみずきさん(ツイッター: @Mizuki_hana93)にお願いしています。
☆ノベルアッププラスで最新の改稿版の投稿をはじめました。間違いの修正なども多かったので、気になる方はノベプラ版をご覧ください。こちらもプロの挿絵付き。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JK LOOPER
ネコのうた
ファンタジー
【最初にドーン!】
現代の地球にて、突如、[神のデスゲーム]が執行されてしまいます。
日本の、とある女子高生が、ひょんなことから、タイムループしたり、ジョブチェンジしつつ、終末に挑んでいく事になりました。
世界中を巻き込んでの、異形の者たちや人類との戦いの果てに、彼女らは未来を変えられるのか?!
それとも全滅してしまうのか??
といった、あらすじです。
【続いてバーン!】
本編は、現実世界を舞台にしたファンタジーです。
登場人物と、一部の地域や企業に団体などは、フィクションであり、実在していません。
出来るだけグロい描写を避けていますが、少しはそのような表現があります。
一方で、内容が重くならないように、おふざけを盛り込んだりもしていますが、やや悪ノリになっているのは否めません。
最初の方は、主人公が情緒不安定気味になっておりますが、落ち着いていくので、暖かく見守ってあげてください。
【最後にニャ―ン!】
なにはともあれ、楽しんでいただければ幸いです。
それではこれより、繰り返される時空の旅に、お出かけください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる