桃姫様 MOMOHIME-SAMA ~桃太郎の娘は神仏融合体となり、関ヶ原の戦場にて花ひらく~

羅心@桃姫様&桃姫BLACK

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第三幕 覚心 -Heart of Awakening-

34.仏薬と仏桃

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「──極光っっ──天衣っっ──神仏っッ──神仏、融合体ィぃいイッっ!!──」

 黄金の光の粒子に全身を包まれながら、白く極光する桃姫の姿を見て、血相を変えた役小角が咆哮するように叫んだ。
 師匠の役小角がここまで激しく狼狽した姿を初めて目撃した弟子の道満と晴明は唖然とした。

「道満、"神仏融合体"とはなんぞや……?」
「……知らぬ」

 晴明が道満にたずねると道満は首を横に振って答えた。

「……お、御大様……"神仏融合体"とは、如何なる者で……?」

 初めて聞く言葉を耳にした晴明が恐る恐る役小角にたずねた。
 しかし、役小角は晴明を見向きもせず、ただ見開いた漆黒の眼球から黒液の涙を垂れ流して打ち震えるのみであった。
 一方その頃、五郎八姫のいる松尾山城は、松尾山の斜面を黒液に取り囲まれて今まさに陥落寸前の危機的状況にあった。
 城内は避難してきた人々で溢れかえり、城壁の上に立つ槍や刀、弓や火縄銃で武装した武者たちは次々に伸びてくる黒液の手を撃退するが、不意を突かれて槍の柄を掴まれ、黒液の海の中に引きずり落とされる者もいた。
 どんどん増していく黒液の量に対して、松尾山城が黒液の海に沈むのはもはや時間の問題。誰しもがそう観念していた時であった。

「……あ、あれは何だっ!?」

 城壁の上に立つ物見櫓にて、弓を構えた武者の一人が関ヶ原の中央、灰色の分厚い雲を割って天から降り注ぐ黄金の光の柱を発見して声を上げた。

「……な、なんだァ、ありゃァ……!」

 物見櫓からの声を合図にして城壁の上の武者たちが皆一斉に光の柱の存在に気づき始めてにわかにざわつき出すと、伸びてきた黒液の腕を夜桜で斬り捨てた五郎八姫が、その光の柱を振り返り見て、茶褐色の独眼を大きく見開いた。
 そして、城壁の縁に駆け寄って身を乗り出すと、涙を流しながら黄金の光の柱、その渦中で白く極光する親友に向かって喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

「──ももォォオオッッ!!」

 五郎八姫の叫ぶ声が桃姫の元に届く。桃姫は松尾山城の方角をちらりと見やったあと、桃配山の山頂に立つ"大悪路王"に視線を戻した。

「──いろはちゃん、お待たせ──すぐに、終わらせるからね──」

 桃姫は黄金の光を放つ白い波紋が走った濃桃色の瞳を輝かせると、救済のほほ笑みを浮かべながら告げて極光天衣の背中から八本の光の羽衣をブワァッ──と花開くように全方位に伸ばして揺らめかした。

「──天衣五体合掌──」

 桃姫が目を閉じながら、両手を合わせてそう告げると、八本の光の羽衣は、先端が人の手のように割れ、それぞれが対になって組み合わさるように合掌した。
 そして、桃姫の体を中心に、五つの合掌が現れた瞬間、桃姫の両腕と八本の光の羽衣からみめうるわしい光の花々が次々と咲き誇り、百花繚乱の様相を呈していく。

「──役小角──不思議だよね──いまの私──」

 合掌した桃姫はゆっくりと白黄金に極光する濃桃色の瞳を開きながら役小角に向けて宣告する。 

「──絶対に負ける気がしないんだ──」

 宣告した桃姫の瞳が一段と極光を放った瞬間、桃姫は全身の合掌を解いて、八本の光の羽衣で軌跡を描きながら関ヶ原の戦場を飛翔した。
 桃姫が飛翔すると共に、天空から降り注ぐ黄金の光の柱が後を追うように続き、灰色の分厚い雲を斬り裂くように割ると、雲に隠されていた蒼天と太陽が姿を現した。
 飛翔する桃姫の後を追う黄金の光の柱は黒液に汚染された関ヶ原の大地に向けて降り注ぐと、へばりついた黒液を引き剥がし、吹き飛ばすように黄金の光の粒子で瞬く間に浄化していく。

「……御大様っっ!?」
「……御大様ッッ!!」

 晴明と道満が黄金の光の粒子を撒き散らし、八本の光の羽衣をうねらせながら蒼天を飛翔する桃姫の姿を見て役小角に声を掛けるが、役小角は呆然とした顔で口をあんぐりと開いたままであった。
 関ヶ原の上空で神楽を舞うように軽やかに飛翔しながら黒く染まった大地を見る見るうちに浄化していく桃姫の姿を見て、役小角はようやく一言漏らす。

「──こりゃ、かなわん──」
「──天衣神仏千花──」

 役小角の呆けたような声と桃姫が"大悪路王"に対して告げる声はほぼ同時であった。
 桃姫は空中を飛び跳ねるように高速飛翔しながら両手を組み合わせると、背中から伸ばした八本の羽衣を組み合わせた両拳にまとわせるように重ね合わせた。
 光の花々が咲いた桃姫の両腕と羽衣とが一体となり、桃姫の手には極光を放つ千花の花束が咲き誇った。

「──ヤエエエエェェェエエエッッ!!」

 桃姫は裂帛の声を放ちながら、高速飛翔すると、一回転したあとに、桃配山の頂上に立つ"大悪路王"の胸目掛けて千花の花束を全力で叩き込んだ。
 ──ドッゴォオオオオオオオン──。
 桃配山全体を震わせる猛烈な衝撃波が轟音と共に鳴り響き、桃姫の腕に咲く千花が極光を放ちながら白黄金の光の粒子で作られた花びらを周囲に撒き散らす。
 花びらが霧散して、目が眩むほどの閃光が収まると、"大悪路王"の胸から上が木っ端微塵に吹き飛ばされていた。
 更に、桃配山の山肌にへばりついて汚染していた黒液までもが神仏融合体となった桃姫の渾身の一撃による衝撃波によって引き剥がされ、上空に吹き飛ばされ、白黄金の光の粒子の中に溶けて浄化していく。

「……あ、ああ、ああ……!」
「……だ、だめだ……逃げますよ、道満っ」

 "大悪路王"の上体が吹き飛ばされ、内部にいた役小角、道満、晴明の姿が蒼天の下にあらわになると、声を震わせた道満に向けて晴明が声を発した。
 そして、道満と晴明は黒液の中から自身の両足を引っこ抜くと、"大悪路王"の崩壊した胸部から飛び出して行く。

「──ま、待て──おぬしらっっ──」

 慌てた役小角が二人の背中に向けて声を上げるが、顔に貼られた赤と緑の呪符を引き剥がした道満と晴明が、役小角に向けて声を発した。

「日ノ本にこのような存在がおるとは、我ら聞いておりませぬゆえッ!」
「御大様、あとはお任せしますッ! 失敬ッ!」

 一方的に言い放った道満と晴明は素早く手で印を結んで大きな赤虎と緑龍の姿に変化した。
 そして、赤虎は空を駆け、緑龍は空を泳ぎながら関ヶ原から飛び去っていく。

「──わ、わしを──ひとりにするなぁっっ──」

 役小角が遠ざかる赤虎と緑龍に向けて力なく言うと、八本の羽衣を拳から解いて広げた桃姫が困惑する役小角の姿を見ながら口を開いた。

「──役小角──あなたも温羅巌鬼と同じ──ずっとひとり、だったのですね──」

 白黄金に光る濃桃色の瞳で役小角を見下ろした桃姫。役小角は漆黒の瞳で桃姫の姿を見上げながら笑みを浮かべた。

「──桃の娘──わしをあんな子鬼と一緒にするでない──わしは役小角──千年の時を生きた──伝説の修験僧ぞ──」

 役小角の悔し紛れの言葉に桃姫は哀れみを感じながらも開いた両手を役小角に向けて告げた。

「──そうですか──ですが、今日で──その伝説は終わります──」

 桃姫はふわりと役小角に向けて近づくと、黄金の光の花を咲かせた右手を役小角の左頬にあてがった。

「──神心掌ッッ──」
「──ぐぉおおおおおっっ──」

 そして、白い光の花を咲かせた左手を役小角の右頬にあてがった。

「──仏心掌ッッ──」
「──がぁぁあああああっっ──」

 両頬に神仏の裁きの光を受けた役小角は漆黒の眼を大きく広げながら叫び声を上げた。しかし、役小角は叫び声を高笑いに転じると、桃姫と目を合わせた。

「──くかかかっっ──くかかかかかっっ──桃の娘、残念だったのうっっ──わしの体は神と一体となっておるっっ──わしは不死身っっ──わしを殺すことはかなわんっっ──」

 役小角の言葉を受けて、桃姫は両眼を激しく極光させながら告げた。

「──ならば消し去るまでッ──神仏の光の粒子で粉々にッ──完膚なきまでに細かく砕いてッ──あなたの存在ごと消し去るッ──」
「──っっ──があああああああああああっっ──」

 桃姫の両手に咲き誇る神仏の力が増すと、役小角は雄叫びを上げながら漆黒の眼球をグルン──とひっくり返した。

「──役小角ッ──消える前に一つだけッ──私の質問に答えなさいッ──」

 眩い閃光に周囲を包まれながら、役小角に対して桃姫が叫ぶように問い質す。

「──なぜ私と父上ッ──私と桃太郎の血にはッ──仏の力が流れているのかッ──答えてッ──」

 桃姫の言葉を受けた役小角が満面の笑みを浮かべながら口を開いた。

「──ああっっ──答えようっっ──答えてしんぜようっっ──"仏薬"と"仏桃"についてっっ──のうっっ──桃の娘よっっ──」

 役小角がそう言った瞬間、壮絶な極光の奔流が桃姫と役小角を飲み込んだ。
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