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第三幕 覚心 -Heart of Awakening-
10.ドーマン・セーマン・鬼封じ
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「……何を言ってやがる……クソジジイ」
「ふっ。どこまでも鈍い鬼だな、こいつは」
目を細めながら言う巌鬼に対して道満が嘲笑するように言った。
「桃太郎はわしが育てた。そして鬼ヶ島に送った。鬼退治をさせるために──これが真実じゃ、温羅坊」
役小角の言葉を聞いた巌鬼は目をカッと見開き大口を開けて吼えるように叫んだ。
「なぜ、そのような……! そのようなことを……! ならば、なぜキサマは今……! 鬼ヶ島にいるのだッッ!!」
巌鬼は役小角に訴えるように叫ぶが、役小角は笑みを絶やさず左右に侍る陰陽師も嘲笑を浮かべるのみであった。
「いや、20年だ! キサマは20年以上、鬼ヶ島で俺と共に悪行をしたではないかッ! あれはなんだッッ!?」
「──"大空華"のためよ。すべては"関ヶ原"で"大空華"を咲かせるため。そのための桃太郎、そのための温羅巌鬼……千年に渡る謀(はかりごと)よ」
「どういう、ことだ……鬼を殺して……鬼を助けるなど……何を考えている」
役小角の言葉を聞いてなお、巌鬼にはその理解が及ばなかった。
それと同時に、巌鬼の脳内に走馬灯のようにして役小角との思い出が駆け巡った。
桃太郎の虐殺を逃れ、餓えが極まって母鬼を喰らおうとした自分を黄金の錫杖で制した役小角。
教育係として鬼蝶をよこした役小角。日ノ本を地獄に変えるという己の望みに共感してくれた役小角。
「なぜだ……! なぜ、あの日、俺を助けたッッ!! クソジジイッッ!!」
「くかかか……! 知らんほうが良いこともある──温羅坊」
「俺の名を……! 俺の名を気安く呼ぶなァッッ!!」
雄叫びを上げながら両手を広げて役小角に飛びかかった巌鬼、その瞬間、役小角と道満、晴明が手で印を結びながら三人同時に声を上げた。
「──ドーマン・セーマン・鬼封じッッ!!」
その瞬間、巌鬼の足元、玉座の間の中央に紫光する五芒星の陣が浮かびあがり、五本の太い鎖が伸びて巌鬼の両腕と両脚、そして開いた口に絡みついて拘束した。
「ッッ!? ガアァッッ!! ガアアッッ!!」
両腕と両脚、そして口を五芒星の陣から伸びる紫光する鎖に拘束され、ギリギリ──と締め上げられながら唸り声を上げた巌鬼。
「悪鬼め、我らが平安の日ノ本にて、何百体の鬼を封じてきたと思うておるのだ」
「しかし、これはなかなか……! 御大様、立派に育てましたねぇッ!」
道満が拘束された巌鬼を見上げながら言うと、晴明は歓心したというように巨体に育て上がった巌鬼を見て声を上げた。
「そうであろう、そうであろう。この大鬼が……丹精込めて育て上げた温羅巌鬼こそが、"千年儀式"の総仕上げには必要なのよォッ!! くかかかかっっ!!」
「ガガアアアアッッ!! ガアアアアッッ!!」
高笑いする役小角の言葉を耳にしてキツく拘束されてなお、もがき暴れる巌鬼。
紫光する太い鎖がギチギチ──と音を立て、五芒星の陣から引きちぎれそうになる。
「こやつ……なんて怪力だ……! 我ら三人がかりの鬼封じを、己が剛力一つで破ろうとしておる……!」
巌鬼の力量に目を見張った道満は手で結ぶ印に力を込めて更なる呪力を五芒星の陣に向けて送った。
「道満、晴明、全力で行けッ! 破られれば、わしらはこやつに喰い殺されるぞッッ!! ──オン!」
「御意ッッ!! ──オン!」
「御意にッッ!! ──オン!」
役小角の呼びかけに、道満と晴明が応えて返し、三人がかりで印相を極めて五芒星の陣を紫色に極光させた。
そして鎖は更に太く強くなり、巌鬼の五体を完全に拘束せしめて巌鬼は瞳孔をぐるんと上に向けて、鎖を噛み締めた口の端からボタボタとよだれを垂らしながら気絶した。
「よし……仕上げじゃ」
言った役小角が懐から黒い球体を取り出すと、巌鬼に向けてふわりと宙空へ放った。
黒い球体はふわふわと巌鬼に向かって漂いながら飛んでいくと、巌鬼の胸の手前で止まる。
「──ノウボウ──アキャシャ──キャラバヤ──オン──アリキャ──マリボリ──ソワカ──」
役小角は全身全霊を込めて虚空蔵菩薩のマントラを唱え上げると、黒い球体の中に渦を巻きながらズズズ──と、巌鬼の巨体が吸い込まれて行く。
「おお、お見事。御大様」
「御大様特製の"鬼捕珠"。千年ぶりにお目にかかれましたな」
役小角の左右に侍る道満と晴明が嬉々とした声を上げながらその様子を見届けた。
巌鬼の体が鬼捕珠に完全に吸い込まれると、ふわふわと役小角の元に戻り、パシリと手で掴む。
「よし、これにて"千年儀式"の三種の神器が一つ、"鬼ヶ島の頭領"が手に入ったぞ……くかかかかっっ!!」
そう言って笑った役小角は巌鬼を捕えた鬼補珠を愛おしそうに撫でると懐にしまった。
そして、道満と晴明に告げる。
「二人共、ご苦労じゃったの。鬼封じで呪力を使い果たしただろう。しばし、休むがよろしい」
「御意」
「用がありましたらお呼びくだされ」
役小角の言葉を受け、拱手して道満と晴明が応えて返すと、二人が立ち去っていった玉座の間で役小角が目を細めて呟いた。
「……さて、桃の娘はどうするかのう」
言った役小角は満面の笑みを浮かべると、黄金の錫杖を突いて、チリンチリンと金輪を鳴らしながら玉座の間を後にした。
「ふっ。どこまでも鈍い鬼だな、こいつは」
目を細めながら言う巌鬼に対して道満が嘲笑するように言った。
「桃太郎はわしが育てた。そして鬼ヶ島に送った。鬼退治をさせるために──これが真実じゃ、温羅坊」
役小角の言葉を聞いた巌鬼は目をカッと見開き大口を開けて吼えるように叫んだ。
「なぜ、そのような……! そのようなことを……! ならば、なぜキサマは今……! 鬼ヶ島にいるのだッッ!!」
巌鬼は役小角に訴えるように叫ぶが、役小角は笑みを絶やさず左右に侍る陰陽師も嘲笑を浮かべるのみであった。
「いや、20年だ! キサマは20年以上、鬼ヶ島で俺と共に悪行をしたではないかッ! あれはなんだッッ!?」
「──"大空華"のためよ。すべては"関ヶ原"で"大空華"を咲かせるため。そのための桃太郎、そのための温羅巌鬼……千年に渡る謀(はかりごと)よ」
「どういう、ことだ……鬼を殺して……鬼を助けるなど……何を考えている」
役小角の言葉を聞いてなお、巌鬼にはその理解が及ばなかった。
それと同時に、巌鬼の脳内に走馬灯のようにして役小角との思い出が駆け巡った。
桃太郎の虐殺を逃れ、餓えが極まって母鬼を喰らおうとした自分を黄金の錫杖で制した役小角。
教育係として鬼蝶をよこした役小角。日ノ本を地獄に変えるという己の望みに共感してくれた役小角。
「なぜだ……! なぜ、あの日、俺を助けたッッ!! クソジジイッッ!!」
「くかかか……! 知らんほうが良いこともある──温羅坊」
「俺の名を……! 俺の名を気安く呼ぶなァッッ!!」
雄叫びを上げながら両手を広げて役小角に飛びかかった巌鬼、その瞬間、役小角と道満、晴明が手で印を結びながら三人同時に声を上げた。
「──ドーマン・セーマン・鬼封じッッ!!」
その瞬間、巌鬼の足元、玉座の間の中央に紫光する五芒星の陣が浮かびあがり、五本の太い鎖が伸びて巌鬼の両腕と両脚、そして開いた口に絡みついて拘束した。
「ッッ!? ガアァッッ!! ガアアッッ!!」
両腕と両脚、そして口を五芒星の陣から伸びる紫光する鎖に拘束され、ギリギリ──と締め上げられながら唸り声を上げた巌鬼。
「悪鬼め、我らが平安の日ノ本にて、何百体の鬼を封じてきたと思うておるのだ」
「しかし、これはなかなか……! 御大様、立派に育てましたねぇッ!」
道満が拘束された巌鬼を見上げながら言うと、晴明は歓心したというように巨体に育て上がった巌鬼を見て声を上げた。
「そうであろう、そうであろう。この大鬼が……丹精込めて育て上げた温羅巌鬼こそが、"千年儀式"の総仕上げには必要なのよォッ!! くかかかかっっ!!」
「ガガアアアアッッ!! ガアアアアッッ!!」
高笑いする役小角の言葉を耳にしてキツく拘束されてなお、もがき暴れる巌鬼。
紫光する太い鎖がギチギチ──と音を立て、五芒星の陣から引きちぎれそうになる。
「こやつ……なんて怪力だ……! 我ら三人がかりの鬼封じを、己が剛力一つで破ろうとしておる……!」
巌鬼の力量に目を見張った道満は手で結ぶ印に力を込めて更なる呪力を五芒星の陣に向けて送った。
「道満、晴明、全力で行けッ! 破られれば、わしらはこやつに喰い殺されるぞッッ!! ──オン!」
「御意ッッ!! ──オン!」
「御意にッッ!! ──オン!」
役小角の呼びかけに、道満と晴明が応えて返し、三人がかりで印相を極めて五芒星の陣を紫色に極光させた。
そして鎖は更に太く強くなり、巌鬼の五体を完全に拘束せしめて巌鬼は瞳孔をぐるんと上に向けて、鎖を噛み締めた口の端からボタボタとよだれを垂らしながら気絶した。
「よし……仕上げじゃ」
言った役小角が懐から黒い球体を取り出すと、巌鬼に向けてふわりと宙空へ放った。
黒い球体はふわふわと巌鬼に向かって漂いながら飛んでいくと、巌鬼の胸の手前で止まる。
「──ノウボウ──アキャシャ──キャラバヤ──オン──アリキャ──マリボリ──ソワカ──」
役小角は全身全霊を込めて虚空蔵菩薩のマントラを唱え上げると、黒い球体の中に渦を巻きながらズズズ──と、巌鬼の巨体が吸い込まれて行く。
「おお、お見事。御大様」
「御大様特製の"鬼捕珠"。千年ぶりにお目にかかれましたな」
役小角の左右に侍る道満と晴明が嬉々とした声を上げながらその様子を見届けた。
巌鬼の体が鬼捕珠に完全に吸い込まれると、ふわふわと役小角の元に戻り、パシリと手で掴む。
「よし、これにて"千年儀式"の三種の神器が一つ、"鬼ヶ島の頭領"が手に入ったぞ……くかかかかっっ!!」
そう言って笑った役小角は巌鬼を捕えた鬼補珠を愛おしそうに撫でると懐にしまった。
そして、道満と晴明に告げる。
「二人共、ご苦労じゃったの。鬼封じで呪力を使い果たしただろう。しばし、休むがよろしい」
「御意」
「用がありましたらお呼びくだされ」
役小角の言葉を受け、拱手して道満と晴明が応えて返すと、二人が立ち去っていった玉座の間で役小角が目を細めて呟いた。
「……さて、桃の娘はどうするかのう」
言った役小角は満面の笑みを浮かべると、黄金の錫杖を突いて、チリンチリンと金輪を鳴らしながら玉座の間を後にした。
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