ひとりぼっちの世界、たった二人だけの星

鈴木りんご

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三章「人類の樹」

46話

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☆☆☆

 僕はいったいどうしたらいいのだろう……

 このままずっとここに留まるべきだろうか?

 それとも町で道具を集め、人類の樹ユグドラシルに穴を開けて無理やりにでもナリアに会いに行くべきだろうか?

 旅を再開するという選択肢だってある。この世界にはナリアがいた。もしかしたら彼女みたいな存在が他にもいるかもしれない。

 本当に僕は……どうしたらいいのだろう。

 大地の上に仰向けになりながら、空を見上げていた目を閉じる。

 まぶたでふたをしてみても、太陽の光を全てを遮ることはできない。

 目を閉じていても、空は相変わらずに眩しい……

 わかっていた。どれだけ考えても、どれだけ迷ってみても……僕には答えは出せない。

 僕は今、決意を固めてここに留まっているわけじゃない。ただ答えを見いだせず、ここから動けないでいるだけだ。

 ナリアが消えて、もう二ヶ月がたつ。日差しは強く、ずいぶんと暑くなった。この二ヶ月間、僕はこれからどうするべきなのか……それだけを考えていた。

 もちろんずっとここにいたわけではない。食料がなくなればメッセージを地面に書いて、食料調達にも行った。

 それでもやっぱり僕はここに帰ってきた。

 人類の樹ユグドラシルを見る。

 そして想像してみた。もし僕がもう一度、旅を再開したとする。その次の日、この中からナリアが出てきたら……彼女は悲しむだろう。そしてどうするだろうか。彼女は僕を探してくれるだろうか? それともまた人類の樹ユグドラシルの中に戻ってしまうのだろうか?

 だから僕はここを離れることができない。

 いったい、僕はどうしたらいい……

 その言葉を頭の中で何度も問いかける。

 どれだけ考えてみても僕には答えが出せない。ただずっと考えて、迷ってそれを繰り返していくだけだ。

 また目を閉じて考える。

 何か違うことを考える。

 そういえば、かーくんに貰った芋虫はどうしているだろう。

 かーくんはだいたい週に一回くらいのペースで遊びに来てくれる。最近はかーくんだけじゃなくて、他のカラスたちも一緒に遊びに来るようになった。

 そのたびにかーくんたちは何かしらお土産を持ってきてくれる。キラキラ光るガラスの小石、人間が使っていたアクセサリー。そして芋虫……

 小石や宝石は宝箱の中に入れてある。芋虫は初めの一匹以外は食べずに、大きな箱の中に土を入れて、その中に入れてある。

 ナリアが戻ってきたら、まとめて調理してやろうと思う。

 ……そう、ナリアが戻ってきたらだ。

 目を瞑ったまま、体の向きを変える。

 肩に何かがぶつかった。

 ここには僕にぶつかるものなんて何もなかったはずだった。

 目を開く。

「――!」

 あまりの驚きに、僕は飛び上がるようにして立ち上がった。

 今、僕の視界の中には……ナリアがいた。

 とてもうれしそうに涙を流しながら、僕を見つめるナリアの姿がそこには在った。

 意味が分からない。

 これは幻覚なのだろうか?

 今、僕の目の前にいるのは人類の樹ユグドラシルへと消えていった小さなナリアではなくて、僕が恋をしたここにいるはずのないナリアだった。

 幻覚に違いない。僕はそう確信していた。

 彼女がここにいるわけがなかったし、何よりも今目の前にいる彼女の姿は七年前と何も変わっていない。

「久しぶりだね、シン。涙ってこんなに熱いんだ……知らなかったよ」

 そう言ってナリアはひまわりみたいな満面の笑みを浮かべた。
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