ひとりぼっちの世界、たった二人だけの星

鈴木りんご

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三章「人類の樹」

44話

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☆☆☆

 やっとのことで開いた宝箱の中には……鍵だけしか入ってはいなかった。

 でもそれは空ける前からわかっていたことだ。鍵穴から中を覗いてみても鍵以外は何も見当たらなかった。

 それにしてもこの宝箱は不思議な作りをしている。

 鍵が中にあったことはもちろんだが、他にもいろいろおかしい。外側が赤いツヤツヤの生地で覆われていたのに、内側は木がむき出しだ。

 しかしだからといって内側が適当な作りになっているわけではない。木には細かな模様が彫られているし、淵は金色の金属であしらってあって、豪勢で重厚にできている。

 なんだか内側と外側があべこべになっているような感じだ。

 そうやって、内側をじっくり観察していると鍵穴の横、外から覗いたときには見えない場所に小さなカードがくっついていた。

 そのカードには印刷された文字でこう書いてある。「世界を詰めた宝箱」と……

 そういえば母さんからの手紙にもそんなようなことが書いてあった。

 いったいどういう意味なのだろう……

 鍵を外して、内側をよく確かめてみても他には何も入ってはいない。

 それなのにこの宝箱の中には全てが、世界が入っているという。

 鍵に何か秘密があるのではないかと、調べてみるが特別変わったところは見られない。

 カードにも「世界を詰めた宝箱」という文字以外は何も記されてはいない。

 考えてみる。

 宝箱の中に世界が入っている……中にあったのは鍵とカード……普通鍵は外にある……内側と外側が逆になったような作り……

 なるほど……わかったような気がした。

 宝箱を横に置いて、僕は立ち上がる。そして逆立ちをした。

 これは僕がまだ自分が特別であると知らなかった、子供の頃にやった遊びだ。

 僕は今、逆立ちをしている。

 しかし見方を変えれば僕は今、地球を持ち上げているようにも見えるはずだ。

 逆立ちを止めて、宝箱を手に取る。

 この宝箱もきっとそういうことなんだと思う。だから宝箱の中に鍵があったんじゃない。しっかりと鍵は外にあった。

 僕や、世界のほうがこの宝箱の中に入っていたんだ。

 だから僕がこの宝箱を開いたことによって、僕と世界は解き放たれた。今まで閉じ込められていた宝箱の中から自由になったんだ。

 空を見上げる。

 あたりを見回す。

 僕の視界の中に世界は在った。

 目を瞑る。

 世界は僕の視界から消えた。

 それでも僕は知っている。僕の周りに世界は存在していることを。

 そして世界をまぶたの奥で思い描くことができる。

 そう……世界は僕の中にこそ在った。
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