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三章「人類の樹」

43話

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☆☆

 人間はその溢れる感情を涙に変える。

 涙でなくても大きな声を出したり、体を動かしてみたりと様々な方法でその想いを吐き出してコントロールする。

 しかし私にはそれができない。この大きすぎる、私の中にはとても収まりきらない想いを別のエネルギーに変換して放出する術を私は持っていない。

 シンが生きていた……

 シンが生きていた……

 シンが生きていた……

 シンが生きていた……

 シンが生きていた……

 その言葉だけで意識の全てが埋め尽くされてしまう。そして溢れてくる様々な感情。

 この想いは最高のスペックを持つ私でも、とても処理仕切れない。

 もう……他に何も考えられなかった。

 しばらくの間、私は「シンが生きていた」という事実を表した言葉と、その事実から生み出された感情の中で溺れていた。

 それでも時間がたてば少しずつ意識のコントロールが可能になってくる。

 私はシンの姿を求めて、少女の記憶の閲覧を始めた。

 少女の、この小さな私の中に在った記憶は……

 少女の見た世界の記憶ではなかった。

 それはシンと見た世界の記憶だった。

 世界の美しさ、おいしいご飯の記憶なんてほんのわずかだった。

 それよりずっとたくさん、美しい世界を見たときのシンの笑顔、おいしいご飯食べたときにシンと話したことが記録してあった。

 あぁ……なんて彼女は私なんだろう。

 少女はまぎれもなくもう一人の私だった。きっと私は何度初めからやり直しても、何度生まれ変わってもシンに恋をするのだろう……

 シンは生きている。早く会いたかった。少しでも早く言葉を交わしたかった。

 しかし今になって私は気がついた。私にはそのための手段がない。

 以前はパソコンを介してコンタクトを取っていたが電力供給のない今、それは不可能だ。

 小さな私を作ったみたいに、私用の体を作って会いに行くという方法も考えられるが、それには時間がかかる。

 シンが人類の樹ユグドラシルに到着して既に三日経過している。いまだこの場所に留まっているのかどうかも私には確認することができない。もしまだここにいたとしても、いつまでいるかはわからない。

 だから少しでも早く一度、コンタクトを取る必要があった。

 少女の体が残っていれば彼女で連絡を取ることもできたのだろうが、帰還してすぐ彼女の記憶を回収し体はナノマシンプラントで分解してしまった。

 どうすればいい……考える。

 とにかく人類の樹ユグドラシル単体ではできることが少なすぎる。人類の樹ユグドラシル人類の樹ユグドラシルにしかできない機能に特化していて、他の施設や機器で可能な機能は一切搭載されていない。

 人類が滅びる前であれば他のコンピューターをオンラインで作動させて何でもできた。しかし今は、それができない。

 私自身で何とかできる方法を探さなければならなかった。

 どれだけ考えても早く連絡を取る方法は見出せない。

 だから私はいい方法を模索しながら、同時に私の体をナノプラントで生成を始めた。

 以前のように適当な理由をでっち上げる必要もない。私は人間の最後の生き残りであるシンに会うために体を必要としていた。

 それはまぎれもなく、この世界の全ての人類のために必要なことだったのだから。
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