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三章「人類の樹」

36話

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☆☆☆

 ナリアと過ごす日々は本当に楽しかった。

 新しいペットを飼う気にはならなかったけど、それでもナナのことを考えても落ち込むことはなくなった。

 僕はナリアと出会って、それくらい幸せな日々を過ごしていた。

 そんなある日、僕は気づいた……

 僕はナリアのことが好きなのかもしれないと。

 絶対ではないが、そんな気がした。

 だって僕はずっとナリアのことを考えている。

 ナリアが来るだいぶ前からそわそわしながらナリアを待っていたし、ナリアが帰ってからも明日はナリアとどんなことをしようか考えていた。

 一人で食事をしていてもおいしいものを食べればナリアにも食べてもらいたいと思ったし、面白い物語に出会えばナリアにも薦めてみようと思った。

 本当に一日中、僕はナリアのことばかり考えていた。

 この感じは多くの物語に描かれている恋愛感情というのに近いと思う。

 僕はどうするべきなのだろう?

 考える。

 ナリアは僕と会うまでは名前もなくて、友達だっていなかった。

 僕たちは似ていた。互いに出会うまではずっと一人ぼっちだった。

 でも今は二人。毎日、二人一緒だ。

 だから僕は毎日が楽しかった。ナリアだって楽しそうだった。

 僕たちは心がつながっていないから、本当のところはわからないけど、それでも簡単にわかった。だっていつもナリアは楽しそうに笑っていた。

 本当にナリアは幸せそうだったんだ。

 いつもぴったり一時にモニターの中に現れて、とびっきりの笑顔で「こんにちは」って言ってくれた。その後は大抵、その日食べたお昼ご飯のことを聞いてくる。

 その中でも特に興味を持ったのは僕が好きでよく食べていたカニ缶の話だった。

 カニ缶は昔から大好物だったけど、もともとはたまにしか食べることができなかった。なぜかというと、母さんが毎日しっかり三食、料理を作ってくれているからだ。

 仕事などでどうしても料理が作れないときだけ、僕はカニ缶を食べることができた。

 それでも一度、母さんが料理を作ってくれたのにカニ缶が食べたいと言ったことがあった。

 母さんはそのとき少し悲しそうな顔をして、カニ缶を戸棚から出してくれた。きっと母さんは自分の料理よりカニ缶が食べたいと言われて悲しかったんだと思う。だから僕はあわてて、料理の中にあったあまり好きじゃなかったサラダを指差して言った。

「カニ缶を一緒にしてくれたら、サラダも食べられるかもしれない」

 そうやって誤魔化すと、母さんは笑顔でサラダの上にカニ缶を開けてくれた。

 それからはサラダのときは、いつもカニ缶が上に添えられるようになったんだ。

 そんなどうでもいい話をナリアはニコニコと笑みを浮かべて、楽しそうにしながら聞いてくれた。

 それからはお別れの時間が来るまで、ずっと一緒に遊んだ。

 そして七時の帰る時間になると、ナリアはすごく悲しそうな顔で「さようなら」って言うんだ。

 それで僕が「また明日」って言うと、「うん。また明日」って笑顔で返してくれる。

 そんな様子だったから、ナリアも僕のことを好きな可能性がある。

 もしそうでなかったとしても、これから僕のことを好きになってくれるかもしれない……そう思った。

 だから僕は少し遠まわしに言ってみることにした。

 好きな人ができたと……その人は年上でいつも優しくしてくれて一緒にいるととても楽しいんだ。だからどうしたらいいか一緒に考えて欲しいとお願いした。

 ばればれだったと思う。それでもこうやって相談するみたいにしておけば、断られたときはナリアじゃなかったことにすることができる。

 そうすれば告白がうまくいかなくても友達ではいられる。そういう作戦だった。

 ナリアは真剣に聞いてくれた。僕が全部話し終えると、どうしたらいいか考えてみると言って、その日はいつもよりずっと早くに帰ってしまった。

 そして次の日、ナリアは来なかった……

 その次の日も、また次の日もナリアは来なかった。
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