ひとりぼっちの世界、たった二人だけの星

鈴木りんご

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三章「人類の樹」

30話

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☆☆☆

 ナナが死んでから半年、僕は食事とトイレ以外では一歩も部屋を出ることはなかった。

 ずっと一人で考えていた。

 ……死とはなんだろう?

 他者の死は喪失だ。僕の生きるこの世界から、ナナは死ぬことによって消えてしまった。ナナの死によって僕はナナを失った。

 ではナナにとって、ナナの死はどんなものだったのだろう。

 それは僕にとっての僕の死と同じだ。

 それは喪失ではない。何かを失うのではなくて僕自身が消えてなくなる。僕のこの肉体ではなく、今思考しているこの意識が消えてなくなるのだ。

 それは消滅であり……無。

 僕は眠るのが好きだった。眠ってしまえば寂しさも悲しみも感じることはない。僕はこの思考を止めてしまいたくて眠るのだ。

 死のことをよく永遠の眠りと表現する。

 死が思考の終わりであるのなら……もうこれ以上一人の寂しさを感じることはない。もうこれ以上悲しみを感じることはない。

 それは僕にとって救いのように思えた。

 だって生きる意味がない。

 ナナをたった一人の友達を失って、僕は一緒に幸せも失った。

 これからやろうと思っていたことも全部できなくなった。

 それは僕がしたかったことではなくて、ナナと一緒にしたかったことだから……もうやる意味なんてない。

 僕は今……幸せではないし、やりたいことも何一つない。

 ただ……生きているだけ。死んでいないだけ。

 生きることに意味がないのだから、生きる必要も理由もない。

 それが考え、至った答え。

 だから僕は科学者である両親の名前を利用して、ナリアの種を手に入れた。ナリアの種は遅効性の毒を持っていて、水と一緒に飲むだけで苦しむことなく眠っているうちに死ぬことができる。

 でも僕にその勇気はなかった。

 僕は死ぬことすらできなかった。

 結局ナリアの種は飲むことなく、肥料と一緒に鉢に植えて部屋の中で育てた。

 そのナリアの種が芽を出して、白い綺麗な花を咲かせたある日のことだった。

 僕は窓越しに空を眺めていた。何を想うでもなく、ただ青い空を見つめていた。

 そのとき、部屋の中で不意に音がした。

 振り返ってみると、パソコンが起動を始めていた。

 そんな設定をしていただろうかと自分の記憶をたどっているうちに、パソコンは起動の処理を終えて立ち上がる。

 そして……彼女は僕の前に姿を現した。
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