世紀末な転移先で覇王に捕まりました〜この世界で生き抜くなんて無理っ!絶対無理っ!〜

三谷玲

文字の大きさ
上 下
68 / 70

.遠征なんて無理っ!絶対無理っ! 18

しおりを挟む
「ハオ様さすがに監視小屋ではもう少しお静かに願いますよ」

 朝。開口一番監視役のおっさんにたしなめられて、俺は恥ずかしすぎてハオの陰に隠れるしかできなかった。
 そうだった。ここ監視小屋だった!
 しかも俺たちの寝てた部屋のすぐ上では、寝ずの番をしているおっさんがふたり。
 全部、全部聞かれてたなんて……っ!

「どうして言わなかったんだよっ!」

 俺は小声でハオに抗議した。

「マナが欲しいものは何でも与えるのが、俺の役目だ。悪かったな、お前たち」
「このところ、ダワラのやつらも静かですからだいじょうぶでしたけどね。こっちは興奮してこの後眠れそうにありませんよ」

 そう言って、隣のおっさんに流し目するおっさん。おっさんとおっさんでこれから……? いや想像するのはやめよう。
 俺はもう一度、監視小屋の壁を見上げた。うん、やっぱり「海老名」って書いてある。
 昨日はいきなり見たせいで、パニくったけど、いまはどうにか落ち着いている。
 朝日が、大渓谷を照らし始めていた。



 ハオの馬にまたがり大渓谷に掛かる橋のたもとに来て、俺ははぁと溜息をついた。

「やっぱり、あれ鉄橋だよな」

 大渓谷に掛かる橋は、三角形と逆三角形が連続した形に見える。神奈川県を東西に走る、小田急線の鉄橋だ。
 いよいよもって、ここが日本だということを知らしめてくる。
 大渓谷というが、川幅は思ったより狭い。それより深さがヤバイ。まったく底が見えないのである。どういうわけか、相模川が沈没したか、岸が隆起したようだ。その両岸に乗っかるようかかる鉄橋のたもとは、レンガや石垣で補強されていた。
 橋自体も、補強のためか人が渡れるようにするためか。モルタルのようなもので固められていた。

「これ、ほんとに渡れるの?」
「橋が落ちたことはない。……人はよく落ちるがな」
「マジで? それって風とか? 床が抜けるとか? なあ渡んなきゃだめ?」

 いやいや、この深さ、落ちたら即死じゃん? 無理無理っ! 絶対無理っ!
 ハオにしがみついたからって、馬の歩みが止まるわけじゃないけど、それでもしがみつかざるを得なかった。
 怯える俺を、ハオがぐいっと抱き寄せた。

「アーツに行くならこの橋を渡るほかない。迂回するとしてもだいぶ山を越えねばならぬが。安心しろ。落ちたのは戦闘中の者だけだ。しっかり掴まってろ」
「なんだよ、びっくりさせんなよ! ハオでも冗談言うんだな」

 背後にいるハオを振り向いて睨み上げると、ハオはふっと鼻で笑った。

「元気が出たようだな」

 くそっ! またその顔か! だから覇王様はどこ行ったんだよっ!
 そんな心底ほっとしたって顔すんなっ!
 見てらんなくて歯を食いしばり顔を伏せていたら、あっという間に橋を渡っていた。

 辿り着いたアーツは……昔の面影どころか、ムラがあった痕跡すら見つけるのが難しいほどに、荒れ果てていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...