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.遠征なんて無理っ!絶対無理っ! 18
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「ハオ様さすがに監視小屋ではもう少しお静かに願いますよ」
朝。開口一番監視役のおっさんにたしなめられて、俺は恥ずかしすぎてハオの陰に隠れるしかできなかった。
そうだった。ここ監視小屋だった!
しかも俺たちの寝てた部屋のすぐ上では、寝ずの番をしているおっさんがふたり。
全部、全部聞かれてたなんて……っ!
「どうして言わなかったんだよっ!」
俺は小声でハオに抗議した。
「マナが欲しいものは何でも与えるのが、俺の役目だ。悪かったな、お前たち」
「このところ、ダワラのやつらも静かですからだいじょうぶでしたけどね。こっちは興奮してこの後眠れそうにありませんよ」
そう言って、隣のおっさんに流し目するおっさん。おっさんとおっさんでこれから……? いや想像するのはやめよう。
俺はもう一度、監視小屋の壁を見上げた。うん、やっぱり「海老名」って書いてある。
昨日はいきなり見たせいで、パニくったけど、いまはどうにか落ち着いている。
朝日が、大渓谷を照らし始めていた。
ハオの馬にまたがり大渓谷に掛かる橋のたもとに来て、俺ははぁと溜息をついた。
「やっぱり、あれ鉄橋だよな」
大渓谷に掛かる橋は、三角形と逆三角形が連続した形に見える。神奈川県を東西に走る、小田急線の鉄橋だ。
いよいよもって、ここが日本だということを知らしめてくる。
大渓谷というが、川幅は思ったより狭い。それより深さがヤバイ。まったく底が見えないのである。どういうわけか、相模川が沈没したか、岸が隆起したようだ。その両岸に乗っかるようかかる鉄橋のたもとは、レンガや石垣で補強されていた。
橋自体も、補強のためか人が渡れるようにするためか。モルタルのようなもので固められていた。
「これ、ほんとに渡れるの?」
「橋が落ちたことはない。……人はよく落ちるがな」
「マジで? それって風とか? 床が抜けるとか? なあ渡んなきゃだめ?」
いやいや、この深さ、落ちたら即死じゃん? 無理無理っ! 絶対無理っ!
ハオにしがみついたからって、馬の歩みが止まるわけじゃないけど、それでもしがみつかざるを得なかった。
怯える俺を、ハオがぐいっと抱き寄せた。
「アーツに行くならこの橋を渡るほかない。迂回するとしてもだいぶ山を越えねばならぬが。安心しろ。落ちたのは戦闘中の者だけだ。しっかり掴まってろ」
「なんだよ、びっくりさせんなよ! ハオでも冗談言うんだな」
背後にいるハオを振り向いて睨み上げると、ハオはふっと鼻で笑った。
「元気が出たようだな」
くそっ! またその顔か! だから覇王様はどこ行ったんだよっ!
そんな心底ほっとしたって顔すんなっ!
見てらんなくて歯を食いしばり顔を伏せていたら、あっという間に橋を渡っていた。
辿り着いたアーツは……昔の面影どころか、ムラがあった痕跡すら見つけるのが難しいほどに、荒れ果てていた。
朝。開口一番監視役のおっさんにたしなめられて、俺は恥ずかしすぎてハオの陰に隠れるしかできなかった。
そうだった。ここ監視小屋だった!
しかも俺たちの寝てた部屋のすぐ上では、寝ずの番をしているおっさんがふたり。
全部、全部聞かれてたなんて……っ!
「どうして言わなかったんだよっ!」
俺は小声でハオに抗議した。
「マナが欲しいものは何でも与えるのが、俺の役目だ。悪かったな、お前たち」
「このところ、ダワラのやつらも静かですからだいじょうぶでしたけどね。こっちは興奮してこの後眠れそうにありませんよ」
そう言って、隣のおっさんに流し目するおっさん。おっさんとおっさんでこれから……? いや想像するのはやめよう。
俺はもう一度、監視小屋の壁を見上げた。うん、やっぱり「海老名」って書いてある。
昨日はいきなり見たせいで、パニくったけど、いまはどうにか落ち着いている。
朝日が、大渓谷を照らし始めていた。
ハオの馬にまたがり大渓谷に掛かる橋のたもとに来て、俺ははぁと溜息をついた。
「やっぱり、あれ鉄橋だよな」
大渓谷に掛かる橋は、三角形と逆三角形が連続した形に見える。神奈川県を東西に走る、小田急線の鉄橋だ。
いよいよもって、ここが日本だということを知らしめてくる。
大渓谷というが、川幅は思ったより狭い。それより深さがヤバイ。まったく底が見えないのである。どういうわけか、相模川が沈没したか、岸が隆起したようだ。その両岸に乗っかるようかかる鉄橋のたもとは、レンガや石垣で補強されていた。
橋自体も、補強のためか人が渡れるようにするためか。モルタルのようなもので固められていた。
「これ、ほんとに渡れるの?」
「橋が落ちたことはない。……人はよく落ちるがな」
「マジで? それって風とか? 床が抜けるとか? なあ渡んなきゃだめ?」
いやいや、この深さ、落ちたら即死じゃん? 無理無理っ! 絶対無理っ!
ハオにしがみついたからって、馬の歩みが止まるわけじゃないけど、それでもしがみつかざるを得なかった。
怯える俺を、ハオがぐいっと抱き寄せた。
「アーツに行くならこの橋を渡るほかない。迂回するとしてもだいぶ山を越えねばならぬが。安心しろ。落ちたのは戦闘中の者だけだ。しっかり掴まってろ」
「なんだよ、びっくりさせんなよ! ハオでも冗談言うんだな」
背後にいるハオを振り向いて睨み上げると、ハオはふっと鼻で笑った。
「元気が出たようだな」
くそっ! またその顔か! だから覇王様はどこ行ったんだよっ!
そんな心底ほっとしたって顔すんなっ!
見てらんなくて歯を食いしばり顔を伏せていたら、あっという間に橋を渡っていた。
辿り着いたアーツは……昔の面影どころか、ムラがあった痕跡すら見つけるのが難しいほどに、荒れ果てていた。
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