世紀末な転移先で覇王に捕まりました〜この世界で生き抜くなんて無理っ!絶対無理っ!〜

三谷玲

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.遠征なんて無理っ!絶対無理っ! 14

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「着いたぞ」
「……おう」

 監視小屋についたのは日がどっぷり暮れた頃。小屋の前のたいまつと、月明かり、それから双子山から流れる溶岩の赤が遠くに見えるだけだった。
 ほっとした俺が馬から降りると、膝からがくりと落ちた。

「うぉ……っ! 乗馬って、すげぇ筋肉使うんだな……」
「大丈夫か?」
「へーき、へーき。ちょっと力が抜けただけ」

 馬をおっさんに預けたハオに支えられて、なんとか立ってるけど、ぶっちゃけ歩くのも面倒なくらい。
 あれからハオのマントの中でできる限り外を見ないようにしていた。
 見ちゃいけない気がしたからだ。
 でも、これだけ暗きゃ、見たくても見えない。
 監視小屋だって、鉄パイプと鉄板を組んだ簡素なもんだ。こんなの、どこにだってある。
 安心しきった俺は太ももや膝を震わせながら、あたりを見渡した。

「外壁、新しくしたのか?」
「へぇ。こないだ新しい板見つけやしてね。変な模様がありやすがでかくて丈夫そうでやしたから」

 ハオが監視小屋を見上げて、おっさんに聞いてる。つられて俺も、見上げたら、膝が限界を迎えた。
 さらさらした砂――多分火山灰――の上に膝が触れる。腹の底から得体のしれない、それこそ火山のように熱いものがこみあげてきて、一気に吹き出した。

「ぶ、うぇぇぇ、ぐぇ、っ……うぇ」
「マナ? 馬に酔ったのか?」

 それには、首を横に振るしか答えられない。また、吐く。

 無理。
 無理。
 絶対、無理。

 ずっと、目を背けてきた。
 カタカナも、開かれる口が正しく紡ぐ日本語だって、ゲームの世界ならあり得る。
 ハオは例外として、ジジやレンのいかにも平らなアジア人顔は、モブだから。
 聞き覚えがあるような地名は、気の所為だって聞き流した。
 技術のそぐわないモノはオーパーツなんだと、ごまかして。
 それでも目の前にある、ところどころに緑色の塗料の残る鉄板が俺に現実を突きつける。
 何年、何百年経ったのか知らない。
 サビが全体に侵食してるにもかかわらず、俺にだけは読み取れる文字が書かれている。

――海老名JCT.

「うっ、ゔはっ……、ぐ、っえ」
「おいっ! 水……はマズいな。なにか酒はあるか?」

 俺の背をさすりながら、ハオがおっさんに指示を出す。水と聞いて俺が、震えたのを察したのか酒を用意させている。
 ただの水よりは酒のほうが断然いい。

 いっそ酔ってしまいたい。
 記憶を失くすくらいに……。

 ここは地球だ。
 しかも日本で、関東で、俺のよく知る神奈川で……。

 俺は、ほんとに世紀末な世界に飛ばされていたらしい。
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