世紀末な転移先で覇王に捕まりました〜この世界で生き抜くなんて無理っ!絶対無理っ!〜

三谷玲

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.遠征なんて無理っ!絶対無理っ! 6

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「遠征なんてさぁ、必要あんの? ようは戦争だろ? 俺、争い事は……」
「……あんたは、自分さえよけりゃいいんだな」

 え?
 小さいその声に聞き返そうとしたら、ちょうど木立ちの切れ目にたどり着いた。ハルはそのまま先を行ってしまった。
 取り残された俺は、ハルを追いかけるか迷ったところで、声をかけられた。

「なんだい、あんたまた来たのかい。アンダーウォーカーっての暇なんだね」

 デジャブ?
 そこにいたのは、ふわふわの毛皮の塊だった。

「ひっ! なに? 化け物?」
「失礼だね。あたしだよ、リノ」

 塊の隙間からたしかにリノの顔が見えた。

「このあいだの、狩りで獲たヤギの毛を干してたところさ。それで、あんたは何しに来たんだい?」
「ユウはどうやってレオを覇者にしたのか、教えて欲しくて」
「とりあえず、これからお茶の時間だから飲んでいきな」

 この間昼飯をごちそうしてもらった広間には、女たちが車座になって話に花を咲かせていた。

「お茶なんて久しぶりだね」
「ここのところ忙しかったから、たまにはいいよ」
「そうそう、材料が豊富だからねえ」
「仕事があるってのはいいことさ」

 楽しそうな笑い声が響いていた。
 用意してくれたのはお茶というよりジュースみたいな液体だった。

「なにで出来てるの?」
「ミカンだよ。あの林の木は時期になると実を付けるのさ。それを煮詰めて保存してある。あたしらもたまにしか飲めないけど、悩んでるときに甘いもんは効くだろ?」

 悩んでることがバレている。リノおそるべし。

「で、ユウがなにをしたか、だっけ? さあてねぇ。なんせ二百年前のことだよ。具体的になにをしたのかはあたしだって知らないねぇ」
「さっき、ハルくんが遠征しろって」

 戦国時代なら合戦みたいなもんか。群雄割拠の時代に天下布武を目指した信長とか秀吉とか。

「ハルの母親はダワラの出だからね。恨みもあるんだろうよ」
「それであんなこと……」
「ダワラでは相変わらず女は奴隷のような扱いだからね。ハルの母親は命からがら逃げてきたけど、父親は途中で殺されたそうだよ」

 う……。それで自分さえよければなんて言われたのか。
 でも、戦ったからって勝つとは限らないわけで。
 かといって、いまも虐げられている人たちがいるかと思うと……。
 うんうんと唸っていると、リノに背中を叩かれた。痛い。

「そんなことはあんたが悩む問題じゃないよ」
「え? でもハルくんは……」
「アンダーウォーカーが戦いになんの役に立つっていうんだい。するかしないかはハオが決めることさ」

 いやそりゃ俺じゃ戦力になんかならないのは分かってる。
 でも、なんにもしないでいるのは、ダワラで苦しむ人たちを見捨てることになるじゃないか。
 話し合いで解決できれば、それが一番いいけど……。常識が違うこの世界で俺の話なんて聞いてもらえるとは思えない。

「ユウだってここから一歩も外に出てないんだ。あんたができることなんて、ハオのやる気を出させることくらいだよ」
「やる気ねぇ……」
「狩りだって発掘だって、あんたのためだろ? おかげであたしらも仕事が増えて大助かりさ」
「別にそれだって俺がしろって言ったわけじゃない。ハオが勝手に……」
「ははっ! ハオは相当あんたに夢中だね」
「はぁ? 違うだろ? 俺がアンダーウォーカーだからってだけでっ!」
「なんだい。あんた、アンダーウォーカーだからハオが構ってくれてるって思って悩んでたのかい? あんたも十分、ハオに夢中なんだねぇ」
「ち、違うっ! 別に俺はっ!」

 違うって言ってるのにリノはまったく聞く耳を持ってくれなかった。
 
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