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.争いごとなんて無理っ!絶対無理っ! 15
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丸太は一度で落ち着いてくれた。よかった……。
ハオは隣の部屋にいるサイに、俺の服と水を用意するよう指示していた。
サイはすでに用意していたらしく、ニヤニヤしながら手渡してきた。
覇王の間の片付けも、終わったらしい。
片付けって、そういうことだよな。
あんな横柄なおっさんのモノになるのは、絶対無理だけど、殺されるほどのことだったんだろうか。
目の前の男は、俺にしぼった布を手渡して自分は粗雑に肩口で血を拭っていた。
「ハオ、お前に言っておきたいことがある」
乾いた血はぱりぱりと粉のように落ちていき、まだ胸元や首のあたりでは取り切れない汚れが残っている。
「とうとう俺のモノになる気になったか?」
「ちげぇよ。まず、今後、服は破るな。毎回毎回破いていたら、布がいくらあっても足りないだろ? 素材は知らないけど、育てるのも大変なんだろ? もったいない」
「わかった。次からは脱がせてやる」
「そうしてくれ……って違う! 脱ぐ必要なんて本当はないんだから、脱がせるのもダメっ!」
あやうく脱がせて欲しいみたいになったけど、そうじゃない。
今回は、ヘダに襲われたり、獣頭のハオにビビったりして、冷静じゃなかったから、だから流されてヤっちゃったけど、こんなことはもうこりごりだ。
なんかちょっと新しい扉開いちゃった気もするけど、忘れよう。忘れたい……。
「それと、ベッドは汚すな」
「中に出せばよかったのか?」
「そういうことじゃないっ! どっか、床とか外に出せばいいだろ? この敷布もう使い物にならないじゃねぇか! ていうかあんなの飲んだら、俺死ぬからね?」
「一度おぼれたやつがいたから、しゃぶらせるのは勃たせるためだけにしていた」
うわぁ……。水もないところで溺死とか、笑えない。
もうあんなことすることはないと思うけど、気を付けないと……。
それとこれも言っておかないと。俺の精神衛生上よろしくない。
「あと……人は、殺すな」
サイは一発で仕留めたって言っていた。ヘダの断末魔すら聞こえなかった。
どうやったかは知らないし、知りたくもない。遺体を見ずに済んだのはいいけれど、こうして落ち着いて振り返ったら、また思い出す。あの血の海が臭いを……。
それだけでまた吐き気がした。
「ヘダは狩りの仕事を放棄し、俺のモノに手を出した。死は当然の報いだ」
「それでもダメ! いいか、今後お前が誰かを殺してみろ。俺の心は一生手に入らないと思えっ! 人だって、貴重な資源なんだからなっ!」
この世界の常識なんて知るか。俺は平和で安全な日本で暮らしてきたんだ。
殺人事件なんてテレビの中の出来事で、めったなことではケガすらしない。
血が怖いなんて思ったことなかったのに、いまじゃハオの首に残っている赤黒い汚れすら、見ていられない。
「……約束はできない。が、マナのためなら努力しよう」
「ああ、そうしてくれ……」
俺は手にしていたおしぼりでハオについた穢れを拭った。
ハオはこれまで何度も人を殺してきたのだろう。
こんなことをしたってその穢れがすべて浄化できるわけじゃない。
分かっていても、俺はハオの身体を拭かずにはいられなかった。
ハオは隣の部屋にいるサイに、俺の服と水を用意するよう指示していた。
サイはすでに用意していたらしく、ニヤニヤしながら手渡してきた。
覇王の間の片付けも、終わったらしい。
片付けって、そういうことだよな。
あんな横柄なおっさんのモノになるのは、絶対無理だけど、殺されるほどのことだったんだろうか。
目の前の男は、俺にしぼった布を手渡して自分は粗雑に肩口で血を拭っていた。
「ハオ、お前に言っておきたいことがある」
乾いた血はぱりぱりと粉のように落ちていき、まだ胸元や首のあたりでは取り切れない汚れが残っている。
「とうとう俺のモノになる気になったか?」
「ちげぇよ。まず、今後、服は破るな。毎回毎回破いていたら、布がいくらあっても足りないだろ? 素材は知らないけど、育てるのも大変なんだろ? もったいない」
「わかった。次からは脱がせてやる」
「そうしてくれ……って違う! 脱ぐ必要なんて本当はないんだから、脱がせるのもダメっ!」
あやうく脱がせて欲しいみたいになったけど、そうじゃない。
今回は、ヘダに襲われたり、獣頭のハオにビビったりして、冷静じゃなかったから、だから流されてヤっちゃったけど、こんなことはもうこりごりだ。
なんかちょっと新しい扉開いちゃった気もするけど、忘れよう。忘れたい……。
「それと、ベッドは汚すな」
「中に出せばよかったのか?」
「そういうことじゃないっ! どっか、床とか外に出せばいいだろ? この敷布もう使い物にならないじゃねぇか! ていうかあんなの飲んだら、俺死ぬからね?」
「一度おぼれたやつがいたから、しゃぶらせるのは勃たせるためだけにしていた」
うわぁ……。水もないところで溺死とか、笑えない。
もうあんなことすることはないと思うけど、気を付けないと……。
それとこれも言っておかないと。俺の精神衛生上よろしくない。
「あと……人は、殺すな」
サイは一発で仕留めたって言っていた。ヘダの断末魔すら聞こえなかった。
どうやったかは知らないし、知りたくもない。遺体を見ずに済んだのはいいけれど、こうして落ち着いて振り返ったら、また思い出す。あの血の海が臭いを……。
それだけでまた吐き気がした。
「ヘダは狩りの仕事を放棄し、俺のモノに手を出した。死は当然の報いだ」
「それでもダメ! いいか、今後お前が誰かを殺してみろ。俺の心は一生手に入らないと思えっ! 人だって、貴重な資源なんだからなっ!」
この世界の常識なんて知るか。俺は平和で安全な日本で暮らしてきたんだ。
殺人事件なんてテレビの中の出来事で、めったなことではケガすらしない。
血が怖いなんて思ったことなかったのに、いまじゃハオの首に残っている赤黒い汚れすら、見ていられない。
「……約束はできない。が、マナのためなら努力しよう」
「ああ、そうしてくれ……」
俺は手にしていたおしぼりでハオについた穢れを拭った。
ハオはこれまで何度も人を殺してきたのだろう。
こんなことをしたってその穢れがすべて浄化できるわけじゃない。
分かっていても、俺はハオの身体を拭かずにはいられなかった。
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