世紀末な転移先で覇王に捕まりました〜この世界で生き抜くなんて無理っ!絶対無理っ!〜

三谷玲

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.争いごとなんて無理っ!絶対無理っ! 5

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「サイ、その手……どうしたのっ?」
「生まれつきですよ。このあたりでは多いんです。指なし、足なし。ほかにも口が裂けているものや、逆に開かないもの。そんなに驚くことではありません」
「でもっ!」
「そうですね、この手では武器は持てません。右手だけで勝てるほど、ヘダは弱くもありませんし。ですから、走って寝室に逃げてください」

 でも俺が逃げたら、サイはどうなる?
 躊躇う俺を、サイが背中で押した。護衛が押され始めている。

「いいですね? わたしたちのことは気にせず、逃げるんです」

 ゴクリ、思わず唾を呑む。
 それくらい、サイの声は切迫していた。のんきで平和ボケしている日本人の俺でもわかるくらい、いまはおそらく危険な状況なのだろう。
 あの、ヘダに捕まったらどうなるんだろう?
 いまだって、囚われの身だけど、なんとなく嫌な予感がする……。
 じりじりと押される護衛に、俺たちも一歩、一歩と後ずさる。
 寝室までは近くなったものの、隙が見当たらない。
 サイも、チャンスをうかがっているのだろう。
 グローブみたいな手が、まだだと伝えてくる。

「ふんっ! なにをぐずぐずしているっ! アンダーウォーカーを手に入れたらきさまらにも褒美で一度くらいは抱かせてやろう」
「勝手に決めんなっ!」
「威勢がいいオンナはいい。堕ちたときとの落差が楽しめるからな、フハハハ!」

 あんなやつのモノになるなんて、無理っ! 絶対無理っ!
 でも、すでに俺達に後はない。
 サイも右手に持った鉄パイプで応戦してるけど、俺を庇いながらの戦いは苦しいのだろう。
 寝室に逃げるって言っても……。
 ちらりと横目で入口を見ると、緞帳がふわっと揺れた。
 風か?
 そう思ったときだった。
 ビュンというおおきな音と、風を切る気配がしたかと思うと、片腕の男が倒れた。

「いまです!」

 ふいに背中を押されて、俺は緞帳まで飛び出した。
 そこには身体の小さなジジが立っていた。

「ヒヒャヒャッ! ヒヒャッ! こりゃ愉快なことになってまさぁな」
「ジジも逃げよう?」
「なにを言っておるんでさぁ。このジジ、マナ様を守るために置かれていたんでさぁ。早くあちらへ」

 いやでも! ジジなんて戦力になんてならないだろ?
 心配する俺を見向きもせずに、ジジは俺を寝室へと押し込んだ。

「なぁに、ヘダなんぞわしがおしめを取り替えてやった小童でさぁ。そんなもんに負けはしやせんさね。中から閂ができるようにしておきやしたから、ハオ様のお帰りまで、開けてはいけやせん」
「ジジ!」

 バタンと扉がしまった。
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