世紀末な転移先で覇王に捕まりました〜この世界で生き抜くなんて無理っ!絶対無理っ!〜

三谷玲

文字の大きさ
上 下
19 / 70

.風呂に入れないなんて無理っ!絶対無理っ! 9

しおりを挟む

 さんざんなお披露目会のせいで、この一週間俺のご機嫌は斜めどころか、真横である。
 それでもなんとか上向きになることがあった。
 飯だ。
 お粥みたいなドロドロの液体から、なんとパンと肉という固形になった!

「ひさびさに形あるもの食べた……」

 味は相変わらずヒドイもんだが、それでもあのお粥よりはマシ。硬いけど小麦の味のしっかりするパンを何度も咀嚼して、歯応えを楽しんだ。
 肉は……正直なんの肉かわからない。
 バーベキューみたいに串刺しにされてでてきた。
 豚みたいだけど、もっと筋張っていて硬くて、食べられないほどじゃないけど臭みがあった。

「これ、何の肉?」
「シシでさぁ。昨夜、ハオ様が自ら北の森に狩りにいかれましてな。人の倍あろうかというもんで、ワシも分けていただけたんでさぁ」

 シシ。獅子? いや猪かな。豚に似てるし。でも人の倍ってでかいな。
 逃げるにしろ、なんにしろ、食わなきゃ。体力つけとかないと。

「こんなご馳走はめったに食えるもんじゃねぇんでさぁ」
「ふだん何食ってるんだよ……」
「そりゃムシでさぁ」
「ムシ? 虫? 無理っ! 絶対無理っ! もしかして、いままで出されたものの中にもはいってた?」
「いやさね。マナ様はハオ様とおなじでさぁ。ムシを食うのはわしらみたいな下っ端だけでさぁ」

 よかった……。虫だけは、無理っ!
 え? てことは俺、ここから出たら虫食わなきゃいけないの……?
 ハオに抱かれるのも、ハオのものになるのも嫌だけど、虫食うのはもっと嫌だ。
 脱出だけじゃなく、食糧問題も考えないと。

 腹も膨れてなにもすることのない午後。
 サイがやってきた。

「沐浴の儀式の準備が整いました」
「だから、儀式なんかじゃないって! でもようやく風呂に入れるのか……っ」
「すぐに入られますか?」
「もちろん!」

 では、とサイに渡されたのは白い布。今着てるハオに破られたのとおなじワンピースと、似たような生地でできた長いやつ。

「これを頭に被ってください。あまり他の者に顔を見せませんように」
「あんなお披露目しといていまさらじゃね?」
「だからこそ、ですよ。白い肌によからぬことを企む輩が増えてしまいましたからね、クククッ」

 ハオ様には困ったものだ、と言いつつサイは楽しそうに笑った。
 魔王の間――と言ったらサイに覇者だと訂正された――を抜けて急な階段を下る。
 そこにはだだっ広い空間の真ん中に、湯気のたつ大きな木の桶があった。
 
「風呂だっ!」

 かけよってその中を覗き込む。
 まっさらな木桶の中には透明なお湯がたっぷり。ヒノキみたいな香りがした。

「すげぇ! 温泉旅館みたいじゃんっ!」
「気に入ったか?」
「うんうん! これだよ、これっ! はいっていい?」

 聞こえた声に反射で返事をした。だって二週間入れなかったんだぞ?
 俺はワンピースを脱ぎ捨てたところで、声の主を振り返った。
 眼前にあるのは、ドヤ顔したハオだった。

「なんでお前がいんの?」
「俺もはいるからだ」
「って、なんでお前はもうすでに真っ裸なんだよっ!」

 なんだか見慣れたハオのすっぽんぽん仁王立ち。そのハオに抱き上げられて、湯船へと放り込まれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】薄倖文官は嘘をつく

七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。 そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが… □薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。 □時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...