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.風呂に入れないなんて無理っ!絶対無理っ! 9
しおりを挟むさんざんなお披露目会のせいで、この一週間俺のご機嫌は斜めどころか、真横である。
それでもなんとか上向きになることがあった。
飯だ。
お粥みたいなドロドロの液体から、なんとパンと肉という固形になった!
「ひさびさに形あるもの食べた……」
味は相変わらずヒドイもんだが、それでもあのお粥よりはマシ。硬いけど小麦の味のしっかりするパンを何度も咀嚼して、歯応えを楽しんだ。
肉は……正直なんの肉かわからない。
バーベキューみたいに串刺しにされてでてきた。
豚みたいだけど、もっと筋張っていて硬くて、食べられないほどじゃないけど臭みがあった。
「これ、何の肉?」
「シシでさぁ。昨夜、ハオ様が自ら北の森に狩りにいかれましてな。人の倍あろうかというもんで、ワシも分けていただけたんでさぁ」
シシ。獅子? いや猪かな。豚に似てるし。でも人の倍ってでかいな。
逃げるにしろ、なんにしろ、食わなきゃ。体力つけとかないと。
「こんなご馳走はめったに食えるもんじゃねぇんでさぁ」
「ふだん何食ってるんだよ……」
「そりゃムシでさぁ」
「ムシ? 虫? 無理っ! 絶対無理っ! もしかして、いままで出されたものの中にもはいってた?」
「いやさね。マナ様はハオ様とおなじでさぁ。ムシを食うのはわしらみたいな下っ端だけでさぁ」
よかった……。虫だけは、無理っ!
え? てことは俺、ここから出たら虫食わなきゃいけないの……?
ハオに抱かれるのも、ハオのものになるのも嫌だけど、虫食うのはもっと嫌だ。
脱出だけじゃなく、食糧問題も考えないと。
腹も膨れてなにもすることのない午後。
サイがやってきた。
「沐浴の儀式の準備が整いました」
「だから、儀式なんかじゃないって! でもようやく風呂に入れるのか……っ」
「すぐに入られますか?」
「もちろん!」
では、とサイに渡されたのは白い布。今着てるハオに破られたのとおなじワンピースと、似たような生地でできた長いやつ。
「これを頭に被ってください。あまり他の者に顔を見せませんように」
「あんなお披露目しといていまさらじゃね?」
「だからこそ、ですよ。白い肌によからぬことを企む輩が増えてしまいましたからね、クククッ」
ハオ様には困ったものだ、と言いつつサイは楽しそうに笑った。
魔王の間――と言ったらサイに覇者だと訂正された――を抜けて急な階段を下る。
そこにはだだっ広い空間の真ん中に、湯気のたつ大きな木の桶があった。
「風呂だっ!」
かけよってその中を覗き込む。
まっさらな木桶の中には透明なお湯がたっぷり。ヒノキみたいな香りがした。
「すげぇ! 温泉旅館みたいじゃんっ!」
「気に入ったか?」
「うんうん! これだよ、これっ! はいっていい?」
聞こえた声に反射で返事をした。だって二週間入れなかったんだぞ?
俺はワンピースを脱ぎ捨てたところで、声の主を振り返った。
眼前にあるのは、ドヤ顔したハオだった。
「なんでお前がいんの?」
「俺もはいるからだ」
「って、なんでお前はもうすでに真っ裸なんだよっ!」
なんだか見慣れたハオのすっぽんぽん仁王立ち。そのハオに抱き上げられて、湯船へと放り込まれた。
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