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.風呂に入れないなんて無理っ!絶対無理っ! 1
しおりを挟む肩を落としたハオを見送ると、俺の背後で薄気味悪い笑い声が聞こえてきた。
「ヒヒャヒャっ。ハオ様を足蹴にするとは、アンダーウォーカーってのは怖いもの知らずなんですなぁ」
「うるさいよ、ジジイ」
「ジジイではなく、ジジでさぁ」
ジジイ、もといジジは俺につけられた世話人だ。前歯くらいしか残っていない、干からびたじいさんだからジジイでいいだろう?
あの転移したであろう日から五日が経っていた。
二回戦どころか四回戦が終わったところで、俺はぶっ倒れた。むしろよく四回戦までイけたよね?
それも疲れたとかじゃなくて、脱水だった。
最期の言葉が「み、水……」で死ぬところだった。
ハオが飲ませてくれたけど、その水は油同様、汚い濁った色をしていた。しかも臭い。
それでもようやくありつけた水分だ。飲まないという選択肢はなかった。
が、おかげで俺のケツは噴火した。
いや、この噴火のおかげで五回戦がなかったと言っても過言ではない。
ハオが出したものと一緒に、腹にあったものを全部吐き出してしまったのだ。
「ほれ、沸かした水持ってきやしたさ」
「ありがと……」
「マナ様は、女みたいに軟弱でさぁな、ヒヒャヒャっ」
うるさい、言ってろ。あんな臭い水飲んでも腹を壊さないお前らのほうがおかしいんだ。
あの水を飲んで二日は腹を壊して死にかけていた。
薄汚れたシャツ一枚で起き上がると、すこしぬるい水を飲んだ。
安心して飲める水のありがたさが身に染みる。
――二日前。
ようやく俺の腹が落ち着いた。
意識がはっきりして最初に目にしたのが、この歯抜けのジジイ。ビックリして叫んだら、ハオがやってきた。
「起きたか、アンダーウォーカー」
「だから、俺はアンダーウォーカーじゃない。学だ、河瀬学!」
違うって言ってるのにしつこいんだよ。
「カワセマナブ? アンダーウォーカーはみな、そんなに長い名前なのか?」
「六文字だぞ? 漢字にしたらたった三文字だ。それにアンダーウォーカーなんて呼ぶよりまだ学のほうが楽だろ?」
カタコトの外人みたいに呼ばれて変な感じだ。せめて学にして欲しい。なのに、
「マナブ……マナでいいだろう」
「なんで略すんだよっ!」
「名は二文字と決まってる」
「決まってるからって人の名前を略すな……けほっ!」
まだ本調子ではないから、叫ぶとノドが焼けるように痛む。噴火したとき、口からも洪水が起きたからな……。胃酸でやられてる。
「水を飲め、マナ」
「イヤ、だ。また腹壊す……」
「これは地下水を沸かした水だから、だいじょうぶだ。昨日も飲んでいる」
確かに色もなければ臭いもない。
昨日までは意識が朦朧としていたから覚えてなかった。
おそるおそる口をつけると、普通の水だった。
でもいまはそれがなによりも、嬉しい。
「うま……」
「どうだ? これでお前の心は手に入ったか?」
心? なんのことだ?
まさか、俺を手に入れるために、この水を用意したってことか?
偉そうにふんぞり返るハオに俺は言ってやった。
「たかが水一杯で、絆されるわけねぇだろっ!」
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