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天降る天使の希い
薫の月 その四 ♡
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「ソルーシュ!」
「蒼鷹! 無事ですか?」
本陣に近づくとすでに蒼鷹が幕から出て、出迎えてくれた。
サーミから飛び降りるとソルーシュは蒼鷹に駆け寄り、大きな身体で抱きついた。
「私は無事だ。どうしてここに?」
「紅牡丹様が……っ、壊滅したと……。蒼鷹が討たれたって……」
戦況は芳しいとは言えないが、そこまで苦戦を強いられたわけでもなく、本陣はこうして無傷なため蒼鷹はなぜそのような情報が紅牡丹から流れたのか理解出来ずにいた。
舜櫂がソルーシュの言葉に補足すると、やっと合点がいった。
「で、紅牡丹は?」
「峰涼に預けて来ましたヨ。とても良い笑顔をされていましたネェ」
「ほどほどにしておいてくれると、助かるのだが」
ソルーシュが厩舎へと駆けている間に、舜櫂が対応していたことに驚いた。
慌てて舜櫂を見れば、彼はすでにパサンとなにやら話し込んでいた。
「ソルーシュ? 大丈夫か?」
「ワタシが動転したばかりに舜櫂には迷惑をかけてしまいました」
「おかげで私は命拾いをしたし、こうしてソルーシュに逢えたのだから、問題ない。それより私はソルーシュが矢を放つところが見れなかったのが残念だ」
ソルーシュが腕を緩めると、蒼鷹はその背にある弓を見て残念がった。
「いつか、狩りに行きましょう。人は、もう……」
「そうだな。膠着状態だったが、先程捕らえたのは犀登の将のようだから、これで決着がつくだろう」
天幕へと誘われ進むと、周囲の兵が次々と膝をついた。
どういうことだとうろたえるソルーシュに、蒼鷹が笑った。
「丘の上に立つソルーシュを見たものが、言ったのだ」
天幕の外で陣を作っていた兵は、混乱して騒ぐ伏兵を発見すると、さらに矢が飛んでくるのを見た。
その方向を見ると、丘の上は光り輝いていた。
その光の中に、見えたのだという。
「白く輝く軍神が現れた、とな。これで戦いは終わると」
まさかそれが王妃であるとは誰一人思わなかったようだ。
ソルーシュたちが天幕へ入ると、外からはうめき声と舜櫂の声が聞こえてきた。蒼鷹はその声に顔を顰め、ひとりの兵を呼ぶと「もっと遠くでやるよう、舜櫂に伝えてくれ。さすがにこれを聞かせるわけにはいかない。それと少しだけふたりきりにさせてくれ」と伝えた。
ソルーシュは何が起こっているのかはわからなかったが、その声はすぐに聞こえなくなった。
「ふぅ……少しいいか?」
「え?」
答える間もなく、蒼鷹がソルーシュの胸に顔を埋めた。
初めての戦に緊張を強いられていた蒼鷹は、しばしの間ソルーシュの香りに酔いしれた。
しばらくすると天幕の外から舜櫂の声がした。
「陛下。敵将にすべて吐かせましたがいかがなさいますカ?」
「明日の朝までそのままにしておけ。朝になったらその首とともに終戦させろ。それと……」
ソルーシュから離れ、幕の外に顔を出すと小声で何かを告げていた。
戻ってきた蒼鷹が「私の部下は誰一人敬うということを知らないな」とつぶやいた。
「何を言われたのですか?」
「ほどほどにしろと、な」
「え?」
蒼鷹が何を言ったのか知りたかったのに、舜櫂の答えを聞かされてソルーシュが戸惑う間に背後から抱きしめられた。
「悪いが、少し付き合ってくれ。それと、声を出すなよ?」
二日の旅程で汚れた身体を蒼鷹の手がまさぐりはじめた。
「こ、ここで……?」
「悪い」
「あの、汚いです、し……っ」
「それは私もだ。それにしても舜櫂は出来た側仕えだな」
そういうと捲くった裳の隙間から入り込んだ手が菊座に触れた。
ぬるりとした慣れた感触に、軟膏が塗られていることに気付く。
「なんで……、っ♡ ん、んっ♡」
「少し固いが、すぐによくしてやる」
「ん、ん――♡」
自分の袖を噛むことで、声を押し込める。おかげで意識は菊座にばかり集中してしまい、呼吸もままならない。
背後にいる蒼鷹の香りはいつもと異なり、それもまた不安に感じられて思うように身体を開くことが出来ずにいた。
「ソルーシュ、すまない……」
あてがわれた熱さに驚きながらも、ソルーシュは首を横に振った。
高ぶった兵士が女を襲うこともあると聞いたことがある。きっと同じことなのだと、思った。
それに、ソルーシュとて蒼鷹が無事であることに喜びを感じている。
それを全身で感じたい。
蒼鷹の動きに合わせて呼吸をする。
ゆっくり吐いて開き、先を咥える。
またゆっくりと息を吸い、奥へと促す。
「上手だ」
何度か目ですべてを咥えこんだ菊座は、悦びにふるえていた。
「動くぞ」
合図とともに蒼鷹が動くと、ソルーシュはもう考えることをやめた。
ただただ、蒼鷹を感じて、悦びに浸っていた。
翌朝、宣言通り、敵将の首を土産に停戦を要求すると、犀登の兵が退いた。
作戦が失敗に終わったことは連戦連勝だった來毅からすれば屈辱だったのだろう。
しかしこのまま長引いて汚名を被るより、被害の少ない状況での撤退をすることが得策だと考えたようだ。
舜櫂の説明を聞いて「それならば最初から戦など起こさなければよいのでは? 無駄に兵を失っただけではありませんか?」と尋ねた。
「あの男は一度奇襲に成功したので、今回もと思ったのでしょうネェ」
「奇襲に成功……?」
「犀登の内紛ですヨ。來毅が起こしたものではありませんが、結果的にはあの男に玉座が渡った。味を占めたのでしょうネェ。紅牡丹という駒もありましたし」
この東の大陸で奇襲が成功することはない。そう歴史が物語っていた。自身が起こした奇襲ではないものの、上手くいった來毅が、今回の作戦も上手くいくと思い込んでしまっても仕方ないことかもしれない。
「軍神が現れることを、忘れていたんでしょうネェ」
そう言って舜櫂がソルーシュに笑いかけると、ソルーシュは目を見開いた。
「やめてください! 舜櫂まで!」
昨夜からずっと兵から軍神と崇められ、ソルーシュはほとほと疲れ切っていたのだった。
---
兄上、戦が終わりました。
戦場を見たときは背筋が凍る思いでしたが、蒼鷹も無事で、何より喜ばしく思います。
敵国との和睦の使者として舜櫂が向かいましたが、彼の恋人も一緒でなにやら楽しそうです。
今度、蓮華宮へ招待するつもりです。
戦に関わっていた紅牡丹様は流刑となりました。
紅希様はとても落ち込んでおられ、オーランが慰める毎日です。
---
「蒼鷹! 無事ですか?」
本陣に近づくとすでに蒼鷹が幕から出て、出迎えてくれた。
サーミから飛び降りるとソルーシュは蒼鷹に駆け寄り、大きな身体で抱きついた。
「私は無事だ。どうしてここに?」
「紅牡丹様が……っ、壊滅したと……。蒼鷹が討たれたって……」
戦況は芳しいとは言えないが、そこまで苦戦を強いられたわけでもなく、本陣はこうして無傷なため蒼鷹はなぜそのような情報が紅牡丹から流れたのか理解出来ずにいた。
舜櫂がソルーシュの言葉に補足すると、やっと合点がいった。
「で、紅牡丹は?」
「峰涼に預けて来ましたヨ。とても良い笑顔をされていましたネェ」
「ほどほどにしておいてくれると、助かるのだが」
ソルーシュが厩舎へと駆けている間に、舜櫂が対応していたことに驚いた。
慌てて舜櫂を見れば、彼はすでにパサンとなにやら話し込んでいた。
「ソルーシュ? 大丈夫か?」
「ワタシが動転したばかりに舜櫂には迷惑をかけてしまいました」
「おかげで私は命拾いをしたし、こうしてソルーシュに逢えたのだから、問題ない。それより私はソルーシュが矢を放つところが見れなかったのが残念だ」
ソルーシュが腕を緩めると、蒼鷹はその背にある弓を見て残念がった。
「いつか、狩りに行きましょう。人は、もう……」
「そうだな。膠着状態だったが、先程捕らえたのは犀登の将のようだから、これで決着がつくだろう」
天幕へと誘われ進むと、周囲の兵が次々と膝をついた。
どういうことだとうろたえるソルーシュに、蒼鷹が笑った。
「丘の上に立つソルーシュを見たものが、言ったのだ」
天幕の外で陣を作っていた兵は、混乱して騒ぐ伏兵を発見すると、さらに矢が飛んでくるのを見た。
その方向を見ると、丘の上は光り輝いていた。
その光の中に、見えたのだという。
「白く輝く軍神が現れた、とな。これで戦いは終わると」
まさかそれが王妃であるとは誰一人思わなかったようだ。
ソルーシュたちが天幕へ入ると、外からはうめき声と舜櫂の声が聞こえてきた。蒼鷹はその声に顔を顰め、ひとりの兵を呼ぶと「もっと遠くでやるよう、舜櫂に伝えてくれ。さすがにこれを聞かせるわけにはいかない。それと少しだけふたりきりにさせてくれ」と伝えた。
ソルーシュは何が起こっているのかはわからなかったが、その声はすぐに聞こえなくなった。
「ふぅ……少しいいか?」
「え?」
答える間もなく、蒼鷹がソルーシュの胸に顔を埋めた。
初めての戦に緊張を強いられていた蒼鷹は、しばしの間ソルーシュの香りに酔いしれた。
しばらくすると天幕の外から舜櫂の声がした。
「陛下。敵将にすべて吐かせましたがいかがなさいますカ?」
「明日の朝までそのままにしておけ。朝になったらその首とともに終戦させろ。それと……」
ソルーシュから離れ、幕の外に顔を出すと小声で何かを告げていた。
戻ってきた蒼鷹が「私の部下は誰一人敬うということを知らないな」とつぶやいた。
「何を言われたのですか?」
「ほどほどにしろと、な」
「え?」
蒼鷹が何を言ったのか知りたかったのに、舜櫂の答えを聞かされてソルーシュが戸惑う間に背後から抱きしめられた。
「悪いが、少し付き合ってくれ。それと、声を出すなよ?」
二日の旅程で汚れた身体を蒼鷹の手がまさぐりはじめた。
「こ、ここで……?」
「悪い」
「あの、汚いです、し……っ」
「それは私もだ。それにしても舜櫂は出来た側仕えだな」
そういうと捲くった裳の隙間から入り込んだ手が菊座に触れた。
ぬるりとした慣れた感触に、軟膏が塗られていることに気付く。
「なんで……、っ♡ ん、んっ♡」
「少し固いが、すぐによくしてやる」
「ん、ん――♡」
自分の袖を噛むことで、声を押し込める。おかげで意識は菊座にばかり集中してしまい、呼吸もままならない。
背後にいる蒼鷹の香りはいつもと異なり、それもまた不安に感じられて思うように身体を開くことが出来ずにいた。
「ソルーシュ、すまない……」
あてがわれた熱さに驚きながらも、ソルーシュは首を横に振った。
高ぶった兵士が女を襲うこともあると聞いたことがある。きっと同じことなのだと、思った。
それに、ソルーシュとて蒼鷹が無事であることに喜びを感じている。
それを全身で感じたい。
蒼鷹の動きに合わせて呼吸をする。
ゆっくり吐いて開き、先を咥える。
またゆっくりと息を吸い、奥へと促す。
「上手だ」
何度か目ですべてを咥えこんだ菊座は、悦びにふるえていた。
「動くぞ」
合図とともに蒼鷹が動くと、ソルーシュはもう考えることをやめた。
ただただ、蒼鷹を感じて、悦びに浸っていた。
翌朝、宣言通り、敵将の首を土産に停戦を要求すると、犀登の兵が退いた。
作戦が失敗に終わったことは連戦連勝だった來毅からすれば屈辱だったのだろう。
しかしこのまま長引いて汚名を被るより、被害の少ない状況での撤退をすることが得策だと考えたようだ。
舜櫂の説明を聞いて「それならば最初から戦など起こさなければよいのでは? 無駄に兵を失っただけではありませんか?」と尋ねた。
「あの男は一度奇襲に成功したので、今回もと思ったのでしょうネェ」
「奇襲に成功……?」
「犀登の内紛ですヨ。來毅が起こしたものではありませんが、結果的にはあの男に玉座が渡った。味を占めたのでしょうネェ。紅牡丹という駒もありましたし」
この東の大陸で奇襲が成功することはない。そう歴史が物語っていた。自身が起こした奇襲ではないものの、上手くいった來毅が、今回の作戦も上手くいくと思い込んでしまっても仕方ないことかもしれない。
「軍神が現れることを、忘れていたんでしょうネェ」
そう言って舜櫂がソルーシュに笑いかけると、ソルーシュは目を見開いた。
「やめてください! 舜櫂まで!」
昨夜からずっと兵から軍神と崇められ、ソルーシュはほとほと疲れ切っていたのだった。
---
兄上、戦が終わりました。
戦場を見たときは背筋が凍る思いでしたが、蒼鷹も無事で、何より喜ばしく思います。
敵国との和睦の使者として舜櫂が向かいましたが、彼の恋人も一緒でなにやら楽しそうです。
今度、蓮華宮へ招待するつもりです。
戦に関わっていた紅牡丹様は流刑となりました。
紅希様はとても落ち込んでおられ、オーランが慰める毎日です。
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