タカと天使の文通

天降る天使の希い

紅の月 その二

---
兄上、公務でお忙しくはありませんか？
ワタシはまだ王妃教育が進まず、表に出ることはありません。
ワタシの代わり……ではないですが紅希王太子の母である紅牡丹様が諸々取り仕切ってくださいます。
トルナヴィエとは異なることが多く、覚えられるか不安です。
兄上は不安になることはありませんか？
このところ蒼鷹も忙しいようで、国王のお勤めは大変だと改めて実感しているところです。
くれぐれも無理をなさらないでくださいね。
---

　ひとり寝に落ち着かず、ソルーシュは兄のアミールへ手紙を認めた。
　国から持ってきたペンと紙は、かたく、最近慣れた賢高の筆とは書き心地が異なる。
　懐かしさもあって、思わず心情を吐露しそうになって、何度も書き直した。
　書き上がったものは結局、愚痴のようなものになってしまったが、ソルーシュは気付いていなかった。

　蒼鷹はソルーシュを迎えるために初めて城を出た。
　それまで、引きこもってばかりの蒼鷹は、外に出られないものだとばかり思っていた長老たちはそれならばと視察に出るよう促した。
　最初は渋っていた蒼鷹だったが、国内の様子を知ることで、また少し王への自覚が芽生えたのだろう。
　この頃は率先して視察へと出向いていた。
　そうして各地を回っては蒼鷹は様々なものを土産として持って帰ってきた。
　細工が得意な国民性のためか、小さな木彫りの人形や、色とりどりの糸で刺繍された帯飾り。どれも高価なものではないが、ソルーシュはそれを喜び、その姿にまた蒼鷹も頬を緩めた。

　けれど、ソルーシュにとっては、蒼鷹が無事に帰ってくることがなによりの土産だった。

　真夏が過ぎたところで護岸工事がようやく始まった。
　冬の間に工事を進め、雪解けのころにはある程度の効果が認められるようにしたい、とは墨夏の考えだった。
　兵士や近隣の民を集めての大規模な工事になる。
　蒼鷹は彼らの意欲を高めるため、国がこの工事を重要なものだと思っていることを知らしめるために、昨日出発した。
　なので、今夜ソルーシュはひとりで床につくことになる。
　こういうときほど、サルーがいてくれたら良いのにと思う。

――元気だろうか？

　ソルーシュが十歳のころに出会ったから、もう八歳。犬にしたら高齢に当たるのではないだろうか？
　母親を知らないソルーシュに母のように寄り添い、友のように戯れ、兄弟のように競った。
　ソルーシュはその夜、これまで感じたことのない望郷の念のようなものを感じて、愛用の弓を抱えて眠りについた。