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天降る天使の希い
明の月 その二
しおりを挟む没頭していたソルーシュの手を弄び、何事かつぶやこうとしていた蒼鷹は、突然の大声に驚いた顔をしていたが、ソルーシュは気づきもせずに言葉を続けた。
「あの、先生が欲しいのです。ワタシは何も知らないのでこの国のことや王妃のお役目を教えてくれる方です」
「……もう少し、慣れてからと考えていたんだが」
「いえ、遅いくらいではないですか? ワタシも蒼鷹のためにできることをしたいです」
なぜか握られた手を握り返して、意気込むソルーシュに蒼鷹が折れた。
本当はとっくに教えるべきことを教えずとも良いと言ったのは蒼鷹だった。
王妃になれば表に立たねばならないことも多い。
それを先延ばしにしていたのは、ソルーシュを守りたい、いや、閉じ込めておきたいという蒼鷹の勝手な思いからだった。
峰涼はもとより墨夏や長老たちからも、王妃教育はどうするのかとせっつかれていたが、本人から言われてしまえばこれ以上留めることはできない。
「わかった。本当はもっと私だけのソルーシュでいて欲しいというのは、私の我儘だったからな……。舜櫂」
呼ばれて襟を正した舜櫂が二人の前で、頭を垂れた。
「今からお前に王妃ソルーシュの指南役を命じる。側仕えと兼任となるゆえ、荷が重かろうがお前しか居らぬからな」
「もとよりそのつもりでこの任を仰せつかっておりますゆえ、謹んでお受けいたします」
拱手した舜櫂に、ソルーシュも背筋を伸ばし真剣な顔でこたえた。
「よろしくお願いします、舜櫂先生」
「ははっ。先生はよしてくだサイ。呼び名は今まで通りでお願いしますヨ」
癖のある前髪から見える瞳を細め、舜櫂が笑うと、ソルーシュもまた顔をほころばせた。
新たな主従の絆を見せつけられたようで、蒼鷹は少し、ほんの少しだけ寂しい気持ちが湧いて知らずのうちに、ソルーシュの袖を引いた。
先生を得て嬉しくなったソルーシュが蒼鷹を抱きしめることで感謝の気持ちを表すと、蒼鷹はその厚い胸板を堪能しながら溜飲を下げるのだった。
舜櫂という先生を得て、ソルーシュの一日の予定が大きく変わった。
朝は蒼鷹と共に起き、朝餉の膳につく。
院子での朝餉を気に入ったソルーシュのため、峰涼が支度の日でも、可能な限り院子でとられるのが定番になった。
朝議に向かう蒼鷹を見送り、自分も支度をする。
午前中は蓮華宮に設けられた書斎で、舜櫂の講義を受ける。
そのまま午餐となるが、ときにオーランと、ときに朝議を終えた蒼鷹ととる。
午後は厩舎でサーミと戯れ、夕刻になれば湯を浴び、蒼鷹と夕餉となる。
そんないつもの一日が始まり、朝の講義を終え、厩舎へと向かう途中だった。
「ちちうえっ!」
どんと体当たりしてきたのはソルーシュの腰までしか無い小さな子どもだった。
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