タカと天使の文通

三谷玲

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天翔る鷹の想い

百一日目

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あなたはとても恥ずかしいことを言う。
やっと自分で読めるようになってよかったです。
これをオーランから聞かされていたらワタシは身悶えて転げ回り奇声をあげていたかもしれません。
でも、嬉しいです。
ワタシも、あなたが好きです。
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 鷹が運んだ手紙を読み終えると蒼鷹は墨夏を呼ぶよう、峰涼に告げた。

「なにか問題でもありました?」
「これを見ろ! ソルーシュが私を好きだと!」

 それこそ身悶え転げ回り奇声をあげんばかりの勢いの蒼鷹に、峰涼は少し冷めた目を向けた。
 こんなにはしゃぐ蒼鷹を見るのははじめてかもしれない。
 恋を知った蒼鷹に喜ぶべきか、王としての威厳を問うべきか迷ったが、峰涼が望む王は蒼鷹そのものであることを思い出し、だからどうしたと問うた。

「だからどうしただと? お前は私の一番の腹心ではないのか? 乳兄弟のくせに」

 先日感じた主従の絆はまがい物だったかと顔を顰めた蒼鷹に、峰涼もまた同じ顔をした。

「私も治水の現地調査に向かう!」
「はい?」

 突然の王の宣言に、峰涼は聞き違えたかと思った。なんせ、生まれてこの方、城を出たことがないのだ。
 自室と執務室、朝議の間。それから御膳部と厩舎。それが蒼鷹の狭い世界だった。
 それが現地調査と聞けば驚くのも無理はない。
 広い城内の馬場で乗り回していたため、馬には乗れる。しかしそれとて安全な城内でのこと。

「お呼びでございますか? おや? 峰涼は面白い顔をしていますね」

 宦官に案内された墨夏は明日の出立の準備を終えて、最終調整をしている最中だった。
 峰涼の困惑した顔を見て、笑いを抑えるために袖で顔を隠していたが、声音に漏れていた。

「おかしな顔は元からだ! そんなことより陛下をお止めするのを手伝ってくれ。共に現地へ赴くなどと……」
「陛下が? 馬には乗れます? 安宿になりますが……ご自分でご支度出来ます?」

 止めろという峰涼の言を受けて、墨夏が蒼鷹に問うと、蒼鷹は大きくうなずいた。

「無論だ」

 峰涼にさせているのは朝議のための支度であり、自分のことは自分でできる。王になる前はそれが当たり前だったのだ。

「夕刻までにお支度願いますね。できる限りの軽装で。陛下の馬の支度は……」

 迅速に必要事項を伝えると、同行の者たちにも伝えてくると墨夏はすぐさま辞去した。

「陛下っ! 明日からの朝議はどうされるのですか!」
「居ても居なくても構わんだろう。今日とて、やれ後宮の意義だのなんだの……。そんなものより王妃を迎えに行くほうがよっぽど良い。それに、私がソルーシュを迎えに行くとなれば、奴らだって私がどれだけソルーシュを愛しているか分かるはずだ」

 後宮の規模縮小について朝議は難航していた。
 王妃はソルーシュ一人と宣言した蒼鷹の意向は伝わったが、今残っている前国王の妾妃たちの処遇や次代の王である甥の話になると、各々の利害がぶつかり、思うように話が進まなかった。
 特に甥を産んだ前国王の妾妃、紅牡丹の父親はその権勢を保持するために強硬に反対していた。
 今ここで蒼鷹が朝議に出なければ、むしろ反対派が勢いづく恐れもある。峰涼はそれを恐れていた。

「朝議での発言に留意してくれ。ここで私が居らぬだけで反対派に寝返るような長老がいれば、それは信に足らぬ輩だ。そうではない、本当に私を王として認める者がどれだけいるのか、私は知りたい」
「ですが……」
「なに、誰もおらずとも、お前だけは私の味方だろう?」

 臣下を試す。

 王としてはいささか悪手ではあるが、蒼鷹には他に手段がない。信じられるのは己だけだったのだから。
 いや、今は一人……いや三人いる。
 当然のことながら王妃となるソルーシュと、峰涼、そして墨夏である。
 いきなり三倍に増えたのだ。それだけでも快挙なのだ。
 任された峰涼は、襟を正した。

「陛下。くれぐれもご無事で。厩舎へ陛下の馬を差配してまいります」

 峰涼は手を併せ、深々と頭を下げ辞去すると、蒼鷹は「ああ、頼んだぞ」と一言告げ文箱から紙をとりだし返事をしたためた。

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これで心置きなくソルーシュへの愛を語れると思うが、言葉が出てこない。
不思議なものだ。
しばらく忙しくなるが、君への気持ちは変わらないと信じてほしい。
髪を一房、共に届ける。
私の愛する王妃ソルーシュへ。
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 夕刻、蒼鷹ははじめて、城を出た。
 見上げた薄青の空に、白く細い雲がたなびき、目指すべき先の稜線には茜が差していた。
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