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天翔る鷹の想い
九十五日目
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タカに託された、ストールありがとうございます。
ワタシのとは違い、とても柔らかい生地ですね。これが蚕という虫が作ってるとオーランに聞きました。
それにとても、いい匂いがします。
これはあなたの匂いですか?
とてもいい匂いです。
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緩んだままの顔がもとに戻ることのない蒼鷹を薄目で見ながら、峰涼はその黒髪を梳いていた。
峰涼はもともとは後宮の髪結師の息子であった。峰涼を産んですぐ儚くなった母を悲しみ、途方に暮れていた父に宦官になって後宮に来ないかと誘ったのは蒼鷹の母、蒼蘭だ。もともと峰涼の母親は蒼鷹の乳母になる予定だったが、母が亡くなったことで逆に峰涼は蒼蘭から乳をもらっていた。
母を愛していた父だが、子育ての能力は皆無。聞いたときはなにも宦官にならなくても良いのでは? と峰涼は思ったが、男の象徴を失ってでも、育ててくれたことに感謝していた。
後宮で男が出世するため、妾妃に仕えるには宦官になる必要があったが、峰涼がその決断をする直前に蒼鷹が王に即位した。蒼鷹が不要と断じたため、峰涼は宦官にならずに済んだ。
蒼鷹の身の回りの世話をすること、そして彼を守ること。これが蒼蘭から与えられた峰涼の仕事だった。
『峰涼、蒼鷹のことよろしくね』
育ての母である蒼蘭もまた、前国王の手の者に弑された。そのことを峰涼が知ったのはまだ幼いころ。厩舎裏で前国王の側近が間者と金銭の受け取りをしているのを目撃したからだ。
それ以来、蒼鷹を守ることが峰涼にとって一番となった。
彼を王にすること。
それが蒼蘭への最大の供養と考えていた。
跡継ぎが誕生し浮かれていた前国王の酒にほんの数滴混ぜるだけで、事は為した。
後は蒼鷹が王妃を迎え、後宮の主になること。そう思っていた。
まさか峰涼に相談もなく、王妃に条件を付けるとは。宣言後に抗議をしたとき蒼鷹は苦しげに言った。
『憎しみの連鎖はどこかで断たなければならないんだ、峰涼。呑んでくれ』
峰涼はそこでようやく蒼鷹が峰涼の望むべく王に足る人物だと思った。
自分が望む王というものを間違えていたことを知った。
「土手に植える木に紫玉蘭ですか? あれは移植が難しい樹木と聞いていますが……」
「数本、いや一本でもかまわない。花があれば土手もにぎやかになろう」
朝議のあとに墨夏を執務室へといざなうと、蒼鷹は個人的な頼みとして、紫玉蘭を植えるよう伝えた。
ソルーシュが気に入った香りだ。
「確かに花を見に人が集まれば、土手も踏み固められるのでより効果が期待できるかもしれませんね。なんなら季節ごとに花が咲くように何種類か植えるのも良いかもしれません」
最初は逡巡を見せた墨夏だったが、蒼鷹の言葉に考えを巡らせると、すぐさま植樹する樹木の変更を加えるため、資料を探してくると辞去する際、扉を開いて振り向いた。
「それにしても陛下をここまで骨抜きにした王子とはどんな方なんでしょうね」
官吏らしく細い身体をしなやかに捩り、振り向く様は、長老たちも魅了する妖しさに満ちていたが、蒼鷹には何の感情も沸かせなかった。
「さぁな」
「姿形は想像されないので?」
「したところで本物には敵わないだろう?」
思わぬ惚気を聞かされて、墨夏は廊下を歩くのに笑いを堪えねばならず、いつもの倍の時間がかかってしまった。
---
それは紫玉蘭という花で作られた香だ。
春先に紫色の蓮に似た大きな花を咲かせる。
後宮の花はもう終わったが来年は一緒に見よう。
練香も入れておいたので、楽しむといい。
私の一番気に入りの香りだ。
後宮でも養蚕をしているので、蚕も今度見せよう。
蟲は大丈夫だろうか?
幼虫が蛹になる際に作る繭が絹糸となる。
強く靭やかな糸だ。
賢高は四季に富んでいる。
色とりどりに花咲く春
夏は樹木がお生い茂り
実り多い秋があり
冬には真白の雪が降る
ソルーシュはどの季節が気にいるだろうか?
旅の無事を祈っている。
私の天使、ソルーシュへ。
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タカに託された、ストールありがとうございます。
ワタシのとは違い、とても柔らかい生地ですね。これが蚕という虫が作ってるとオーランに聞きました。
それにとても、いい匂いがします。
これはあなたの匂いですか?
とてもいい匂いです。
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緩んだままの顔がもとに戻ることのない蒼鷹を薄目で見ながら、峰涼はその黒髪を梳いていた。
峰涼はもともとは後宮の髪結師の息子であった。峰涼を産んですぐ儚くなった母を悲しみ、途方に暮れていた父に宦官になって後宮に来ないかと誘ったのは蒼鷹の母、蒼蘭だ。もともと峰涼の母親は蒼鷹の乳母になる予定だったが、母が亡くなったことで逆に峰涼は蒼蘭から乳をもらっていた。
母を愛していた父だが、子育ての能力は皆無。聞いたときはなにも宦官にならなくても良いのでは? と峰涼は思ったが、男の象徴を失ってでも、育ててくれたことに感謝していた。
後宮で男が出世するため、妾妃に仕えるには宦官になる必要があったが、峰涼がその決断をする直前に蒼鷹が王に即位した。蒼鷹が不要と断じたため、峰涼は宦官にならずに済んだ。
蒼鷹の身の回りの世話をすること、そして彼を守ること。これが蒼蘭から与えられた峰涼の仕事だった。
『峰涼、蒼鷹のことよろしくね』
育ての母である蒼蘭もまた、前国王の手の者に弑された。そのことを峰涼が知ったのはまだ幼いころ。厩舎裏で前国王の側近が間者と金銭の受け取りをしているのを目撃したからだ。
それ以来、蒼鷹を守ることが峰涼にとって一番となった。
彼を王にすること。
それが蒼蘭への最大の供養と考えていた。
跡継ぎが誕生し浮かれていた前国王の酒にほんの数滴混ぜるだけで、事は為した。
後は蒼鷹が王妃を迎え、後宮の主になること。そう思っていた。
まさか峰涼に相談もなく、王妃に条件を付けるとは。宣言後に抗議をしたとき蒼鷹は苦しげに言った。
『憎しみの連鎖はどこかで断たなければならないんだ、峰涼。呑んでくれ』
峰涼はそこでようやく蒼鷹が峰涼の望むべく王に足る人物だと思った。
自分が望む王というものを間違えていたことを知った。
「土手に植える木に紫玉蘭ですか? あれは移植が難しい樹木と聞いていますが……」
「数本、いや一本でもかまわない。花があれば土手もにぎやかになろう」
朝議のあとに墨夏を執務室へといざなうと、蒼鷹は個人的な頼みとして、紫玉蘭を植えるよう伝えた。
ソルーシュが気に入った香りだ。
「確かに花を見に人が集まれば、土手も踏み固められるのでより効果が期待できるかもしれませんね。なんなら季節ごとに花が咲くように何種類か植えるのも良いかもしれません」
最初は逡巡を見せた墨夏だったが、蒼鷹の言葉に考えを巡らせると、すぐさま植樹する樹木の変更を加えるため、資料を探してくると辞去する際、扉を開いて振り向いた。
「それにしても陛下をここまで骨抜きにした王子とはどんな方なんでしょうね」
官吏らしく細い身体をしなやかに捩り、振り向く様は、長老たちも魅了する妖しさに満ちていたが、蒼鷹には何の感情も沸かせなかった。
「さぁな」
「姿形は想像されないので?」
「したところで本物には敵わないだろう?」
思わぬ惚気を聞かされて、墨夏は廊下を歩くのに笑いを堪えねばならず、いつもの倍の時間がかかってしまった。
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それは紫玉蘭という花で作られた香だ。
春先に紫色の蓮に似た大きな花を咲かせる。
後宮の花はもう終わったが来年は一緒に見よう。
練香も入れておいたので、楽しむといい。
私の一番気に入りの香りだ。
後宮でも養蚕をしているので、蚕も今度見せよう。
蟲は大丈夫だろうか?
幼虫が蛹になる際に作る繭が絹糸となる。
強く靭やかな糸だ。
賢高は四季に富んでいる。
色とりどりに花咲く春
夏は樹木がお生い茂り
実り多い秋があり
冬には真白の雪が降る
ソルーシュはどの季節が気にいるだろうか?
旅の無事を祈っている。
私の天使、ソルーシュへ。
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