口下手な詩人と傲岸不遜の月の女神

三谷玲

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詩を支配する

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 部屋に入ってからのロアはこれまでの躊躇いを払拭するかのように私に口づけて来た。大きな掌で私を抱きしめて強く離さない。
 それなのにいざ私の裸体を目の前にしても優しく触れるだけでそれ以上のことはしてこなかった。
 しないのではなく、わからないようだった。

「男の経験は……なさそうだな」

 そう言うと小さくうなずいたが、その顔で男だけではなさそうなのが十分見て取れた。
 なぜか優越感を感じた。
 ウブな私を染めていったフェルナンドの気持ちが少し分かった。

 男同士で繋がるためには潤滑剤が必要だったが、この部屋にそれらしいものは見当たらなかった。料理をすることもないだろう小さなキッチンには油もなかった。
 すっかり成長したロアの陰茎が足に触れた。
 精液では油の代用にはならないが、ないよりマシだと思った。
 その陰茎に唇を寄せる。
 驚いたロアの腰が退きかけたので、陰茎を握り舌を這わせて押し留めた。

「あ、っ……♡ かーてぃす、っだめ、っ♡」

 顔を両手で隠して声を抑えながらも、ロアは私から目を離すことはなかった。ことさら丁寧に、いやらしく舌で舐めていくと、陰茎からは先走りが溢れた。
 先端に舌をあてたままできる限り深くまで咥える。入り切らない根本を指で締め付けて、頭を動かすと、ロアの陰茎から白濁が飛び出した。
 焦っているロアの目の前で掌へと吐き出した。
 これだけあれば、なんとかなるだろう。
 早かったことを恥じているロアを更に恥ずかしがらせたくてわざと「早いな」と言うと、ワナワナと唇を震わせて顔を顰めた。

 男にかわいいと思う日が来るとは思わなかった。
 ロアは口数はとてつもなく少ない分、なんでも表情に現れた。
 コロコロ変わる表情は見ていて飽きないし、思っていることがわかりやすい。
 教えてやると、なぜ? とあからさまに驚いた顔をした。本当にわかりやすい。

 乾かないうちに吐き出した精液を後孔へと送り込む。
 ロアの腹の上で膝立ちになり体をわざと見せつけるようにして、見えない後ろからはいやらしい音が聞こえるようにして情欲を唆るように、淫靡に。
 それなのに、ロアは私の顔を見ていた。
 セックスをしている最中とは思えない、殉教者のような純粋な瞳だった。

 ゾクゾクした。

 ロアを、この目を支配していると思うと、心の奥底から欲しいと思った。

「その目で、見られる、と……良い。最初から、そう。

そんなに、私の顔が、好みだったか?」
 それにも素直にうなずいている瞳は月明かりを反射してグレーがかって見えた。
 多分、これが本来の彼の瞳の色なのだと思った。
 曇り空では黒にしか見えないが、青空のもとではどんな色を見せるのか、知りたかった。

 増やした指で拡げて、わざと陰茎を揺らすとようやく目に入ったのかロアが体を起こした。
 犬のように舌を伸ばしてペロリと舐める。
 一度舐めはじめると今度は止まらない。本当に犬みたいだった。

「んっ、ふ……、ぁっ♡ ロア、犬みたいだ」

 私だったらこんなことを言われたら怒りたくなるものだが、ロアは顔を輝かせた。嬉しいらしい。
 ただペロペロと舐めるだけだったのが、舌先でくすぐったり、押し付けるように這わせたりと要領が分かってきたようだった。
 私はロアの鳥の巣のような頭を掴んだ。

「ああロア、気持ちいい、いい♡ あ、っ♡ 上手だ、ロア」

 褒めれえば褒めるほど、ロアは熱心に口淫に励んだ。躾をしている気分だった。
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