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外山伊織のモーニングルーティン
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とある冬の日。
――四時半。
隣で眠る理を起こさないように起床。
理の寝顔をしばらく堪能したあと、健康確認。
クマ、なし。
体温、正常。
首筋に赤い痣あり。
これは昨晩自分がつけたものだから、問題なし。
カラーはこの白い肌に映える赤にしようか、一度も発せられたことのないセーフワードを思い出させる紫にするか迷っていると、理が寝返りを打った。
「い、おり……?」
まだ昨日のプレイから抜け出せていないのか、名前で呼ばれて全身が粟立つ。しかしここではじめてしまっては、理の睡眠時間を削りかねない。
まだ理が起きるまで一時間以上ある。
「まだ早いから、寝てて」
「ん……」
素直な理がすぐに寝息を立て始めたことを確認して、後ろ髪を引かれながらもそっとベッドから抜け出る。
リビングの空気清浄機の水を取り替えてから、スマホチェック。
自分のではなく、理のスマホから不要なメールを削除していくのである。
最初にあった見知った名前からのメールを見て、眉をひそめる。同期の若杉だ。
『佐伯さんと付き合うことになったんですけど、なにかアドバイスもらえませんか!? 課長、佐伯さんと同年代ですよね? 俺、年上はじめてで……』
「知るかそんなこと」
悪態をつきながら削除しようと指を伸ばしたが、思いとどまる。きっと理は部下からプライベートな話をされたと、戸惑いながらも喜ぶだろう。
恋バナなどしたこともなく勝手が分からない理が、伊織に相談してくるかもしれない。
これは、残しておく。
それから何件か広告メールが来ていたが、スルーして、残ったのは未登録の電話番号からのショートメール。
中身は、電話番号とメールアドレスが変更になったことを知らせる他愛もない内容だが、送り主の名前は美里。
理の元カノの名前だ。
これは、考える間もなく削除して着信拒否にし、メールアドレスは迷惑メールに登録しておく。
元カレにわざわざ知らせるのは、まだ未練があるかあわよくば元サヤを狙ってる可能性が高い。
開発しておいてくれたのは助かるが、彼女がDomなら理に会わせたくない。
スマホは指紋をきれいに拭いて、元の位置に戻しておく。
――五時。
オイルヒーターの電源をいれてから、社内クラウドにアクセスし、営業二課の今日のスケジュールを確認。
理は午後から新商品のプレゼン会議になっている。あのガラス工房のペンだ。
いまどき、アナログだなとは思うが、良い品が出来たとうっとりする理がかわいかったのでこれは商品化させたい。
会議に出る面子を確認して、彼らのPCにリモート接続する。
ウィルスを仕込んで、ポップアップ広告が出るよう設定。
『いまどき女子の文具事情』という偽広告が出るようにして、高級路線の文具が人気であるよう細工しておく。
理の審美眼は信じているが、世情に疎く古臭い上役たちにはこれくらいのアピールが必要だ。
――五時半。
自分の身支度を整える。
顔を洗い、歯を磨く。洗面台の水滴をきれいに拭き取って、タオルは新しいものと交換しておく。
理は昨夜の名残をシャワーで洗い流したいだろうから、風呂場を温めておく。
寒暖差は呼吸器によくない。
下着と着替を用意しながら、はじめてのプレイを思い出す。
あの時持ち帰った下着は、いまもチェストの奥にしまってある。理も気付いてはいるようだが、言及してこないのは恥ずかしがってるからだろう。
何度かネタに使ったから少し伸びてしまっているが、思い出の品だ。大事にとっておく。
そろそろ理を起こす時間だ。
コーヒーメーカーをセットし、バターを出しておく。
朝食は食べない派だった理に食べさせるようになるまで、苦労した。
夜、激しい運動で消費しているのだから朝食は必要不可欠。なのに食に興味がないせいか食べたがらなかった。
いくつか試したところ、理が気に入ったのはオーガニックの小麦で作られた食パンに、フランス産のバター、そして淹れたてのコーヒー。
興味がないわりに、こだわりは強い。
本当は絞り立てのオレンジジュースもつけたいところだが、酸っぱいものは得意ではないらしく、紫の野菜ジュースを常備することにした。
これだけは、文句も言わず飲んでくれる。
――六時。
寝室からアラームが聞こえてくる。
まだ、寝ぼけていてくれたら……かわいい理に会えるかもしれない。
伊織がそっと扉を開くと、布団の中でモゾモゾと動く理が見えた。
「理? 起きた?」
わざと名前で呼ぶと、びくりと体を跳ねさせた。
「……起こして、伊織」
はっきりとした声音は、寝ぼけているわけではなさそうだ。それでも甘えたいくらい、身体が怠いのか。今日のプレゼンにプレッシャーを感じているのかもしれない。
Subの言葉に、Commandとしての効力はもちろんない。
でも、理のかわいいおねだりに伊織が逆らえるはずもない。
「一緒にシャワー、浴びましょうね。きっと目も覚めますよ」
「……じかん、ないぞ」
布団から出した顔は、期待と困惑がいりまじった表情をしている。残念ながら、期待には応えられない。
「エッチなことはしませんよ。さあおいで」
ベッドからするりと抜け出たしなやかな裸体がからみつく。
「あ、言い忘れてました。おはようございます」
「おはよう」
出逢ってから半年。
手懐けた野良猫の頬ずりに、前言撤回。
少しくらい遅くなってもいいだろうと、出勤時間から逆算し、風呂場でどこまでできるか考えはじめる。
朝のエッチがルーティンに組み込まれのは、もう少し先のこと。
――――
ホット入りありがとうございました!
――四時半。
隣で眠る理を起こさないように起床。
理の寝顔をしばらく堪能したあと、健康確認。
クマ、なし。
体温、正常。
首筋に赤い痣あり。
これは昨晩自分がつけたものだから、問題なし。
カラーはこの白い肌に映える赤にしようか、一度も発せられたことのないセーフワードを思い出させる紫にするか迷っていると、理が寝返りを打った。
「い、おり……?」
まだ昨日のプレイから抜け出せていないのか、名前で呼ばれて全身が粟立つ。しかしここではじめてしまっては、理の睡眠時間を削りかねない。
まだ理が起きるまで一時間以上ある。
「まだ早いから、寝てて」
「ん……」
素直な理がすぐに寝息を立て始めたことを確認して、後ろ髪を引かれながらもそっとベッドから抜け出る。
リビングの空気清浄機の水を取り替えてから、スマホチェック。
自分のではなく、理のスマホから不要なメールを削除していくのである。
最初にあった見知った名前からのメールを見て、眉をひそめる。同期の若杉だ。
『佐伯さんと付き合うことになったんですけど、なにかアドバイスもらえませんか!? 課長、佐伯さんと同年代ですよね? 俺、年上はじめてで……』
「知るかそんなこと」
悪態をつきながら削除しようと指を伸ばしたが、思いとどまる。きっと理は部下からプライベートな話をされたと、戸惑いながらも喜ぶだろう。
恋バナなどしたこともなく勝手が分からない理が、伊織に相談してくるかもしれない。
これは、残しておく。
それから何件か広告メールが来ていたが、スルーして、残ったのは未登録の電話番号からのショートメール。
中身は、電話番号とメールアドレスが変更になったことを知らせる他愛もない内容だが、送り主の名前は美里。
理の元カノの名前だ。
これは、考える間もなく削除して着信拒否にし、メールアドレスは迷惑メールに登録しておく。
元カレにわざわざ知らせるのは、まだ未練があるかあわよくば元サヤを狙ってる可能性が高い。
開発しておいてくれたのは助かるが、彼女がDomなら理に会わせたくない。
スマホは指紋をきれいに拭いて、元の位置に戻しておく。
――五時。
オイルヒーターの電源をいれてから、社内クラウドにアクセスし、営業二課の今日のスケジュールを確認。
理は午後から新商品のプレゼン会議になっている。あのガラス工房のペンだ。
いまどき、アナログだなとは思うが、良い品が出来たとうっとりする理がかわいかったのでこれは商品化させたい。
会議に出る面子を確認して、彼らのPCにリモート接続する。
ウィルスを仕込んで、ポップアップ広告が出るよう設定。
『いまどき女子の文具事情』という偽広告が出るようにして、高級路線の文具が人気であるよう細工しておく。
理の審美眼は信じているが、世情に疎く古臭い上役たちにはこれくらいのアピールが必要だ。
――五時半。
自分の身支度を整える。
顔を洗い、歯を磨く。洗面台の水滴をきれいに拭き取って、タオルは新しいものと交換しておく。
理は昨夜の名残をシャワーで洗い流したいだろうから、風呂場を温めておく。
寒暖差は呼吸器によくない。
下着と着替を用意しながら、はじめてのプレイを思い出す。
あの時持ち帰った下着は、いまもチェストの奥にしまってある。理も気付いてはいるようだが、言及してこないのは恥ずかしがってるからだろう。
何度かネタに使ったから少し伸びてしまっているが、思い出の品だ。大事にとっておく。
そろそろ理を起こす時間だ。
コーヒーメーカーをセットし、バターを出しておく。
朝食は食べない派だった理に食べさせるようになるまで、苦労した。
夜、激しい運動で消費しているのだから朝食は必要不可欠。なのに食に興味がないせいか食べたがらなかった。
いくつか試したところ、理が気に入ったのはオーガニックの小麦で作られた食パンに、フランス産のバター、そして淹れたてのコーヒー。
興味がないわりに、こだわりは強い。
本当は絞り立てのオレンジジュースもつけたいところだが、酸っぱいものは得意ではないらしく、紫の野菜ジュースを常備することにした。
これだけは、文句も言わず飲んでくれる。
――六時。
寝室からアラームが聞こえてくる。
まだ、寝ぼけていてくれたら……かわいい理に会えるかもしれない。
伊織がそっと扉を開くと、布団の中でモゾモゾと動く理が見えた。
「理? 起きた?」
わざと名前で呼ぶと、びくりと体を跳ねさせた。
「……起こして、伊織」
はっきりとした声音は、寝ぼけているわけではなさそうだ。それでも甘えたいくらい、身体が怠いのか。今日のプレゼンにプレッシャーを感じているのかもしれない。
Subの言葉に、Commandとしての効力はもちろんない。
でも、理のかわいいおねだりに伊織が逆らえるはずもない。
「一緒にシャワー、浴びましょうね。きっと目も覚めますよ」
「……じかん、ないぞ」
布団から出した顔は、期待と困惑がいりまじった表情をしている。残念ながら、期待には応えられない。
「エッチなことはしませんよ。さあおいで」
ベッドからするりと抜け出たしなやかな裸体がからみつく。
「あ、言い忘れてました。おはようございます」
「おはよう」
出逢ってから半年。
手懐けた野良猫の頬ずりに、前言撤回。
少しくらい遅くなってもいいだろうと、出勤時間から逆算し、風呂場でどこまでできるか考えはじめる。
朝のエッチがルーティンに組み込まれのは、もう少し先のこと。
――――
ホット入りありがとうございました!
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Dom×Subの作品は結構見るんですけど、この作品は本当に素晴らしい!!めちゃくちゃ気に入りました!!!番外編とかあったら見てみたいなぁ〜って思いました!!将来の理は伊織に全てを管理されちゃうんだろうなぁ〜、お幸せに!!!!そして作者様の文才が素晴らしい!!!!
感想ありがとうございます〜!自分が読みたいDom/Subが刺さってもらえて嬉しいです!番外編…気長にお待ちいただければ!
DomxSubは少しにがてだったけど、「大型犬Sub...」とこのお話は全然OKです。理くんの可愛さにむふふってなってしまいました。どちらのお二人もお幸せに~!
ありがとうございます〜!おそらくどちらのカップルも受けにべた惚れな甘々攻めになると思います(◍•ᴗ•◍)