神様からのボーナスタイム

三谷玲

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大きな手にすっぽりと包まれて不思議と落ち着く

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 見るものすべてが新鮮で、ショウイチは驚きの連続だった。

 昔からあるハイブランドや有名ブランドは別として、ショウイチが買っていたファストブランドはほとんど見当たらなかった。ここ数年の流行りらしいブランド店で一通り服をそろえることになったが、もともとファッションセンスはない。シゲアキもあまりファッションに興味はないらしく、合流したノゾムが見繕ってくれて、どうにか事なきを得た。唯一、シゲアキが気に入って手にしたのはピンクグレージュのライダースジャケットだった。

「僕、こんな色の服、着たことない」

 母親から買ってもらったのは黒や青、緑といったいわゆる男の子の色が中心で、ショウイチが買うのも大して変わらない。ちょっと冒険して赤いチェックのシャツくらいだ。

「似合ってるよ! シゲアキにしてはいいチョイスだね。せっかく小柄で細身なんだから、活かしたほうが断然いいよ。うん、かわいい」

 かわいいなんて生まれて初めて言われた。ショウイチは照れながら鏡に全身を映す。ライダースジャケットは本革ではなく合皮らしいが、ショウイチには違いは分からない。ただ、とても柔らかくて着心地がいい。ノゾムが選んでくれたパンツはスリムなのにまったくきつくない。編み上げのブーツの紐は爪先で叩くと勝手にサイズ調整されたのには、驚いた。あの映画みたいだ。

 本当に似合ってるか心配だったが、鏡越しに見るシゲアキは満足そうな顔をしていて、安心する。

 ちなみに支払いもスマコンだった。それもレジがあるわけではない。欲しいものを自分のカバンに詰めるか、店内に設置されたショッピングバッグに入れたまま店を出るだけで、購入が完了されるらしい。タクシーも同じ原理で、支払いをしたそうだ。

 なので、店外に出るときは荷物はすべてシゲアキが持った。大きなショッピングバッグふたつ分。

 大きな借りが出来てしまった。この時代で、ショウイチに何ができるかはわからないけれど、働いて返そう。そう思ったところで、本当にこれからどうしたらいいか不安が過る。気落ちしていたショウイチに、なにか誤解したノゾムが声を掛けてきた。

「気にしなくていいよ。シゲアキは実家に仕送りする以外使い道がないんだから、たまには使わせないとお金が腐っちゃうから」
「余計なことを言わなくていい。それより、腹が減ったから何か食べに行くぞ」

 少し不機嫌そうに店を出るシゲアキに慌ててついていく。ショウイチの耳元でノゾムが囁く。

「シゲアキ照れてるんだよ。お母さん大好きだからね」
「マザコンなの?」

 大股で歩くシゲアキの背中を見ながらショウイチがつぶやく。ノゾムは一瞬顎を引いて驚いてから、苦笑いした。

「昔はそういう言い方もしたけど、今はしないほうがいいかな? センシティブな表現だからね」
「センシティブ……?」
「人を傷つける言葉ってところかな。本来は侮蔑的な意味を含んでいなかった言葉だけど、使われた方が侮辱と思ったら刑罰の対象になるんだ」

 刑罰と聞いてショウイチは血の気が引いた。たかが「マザコン」という言葉で罰せられるなんて……。

「難しく考える必要はないよ。人の個性に対して、尊重しろってことだから」

 ノゾムはそういって、ショウイチの肩を抱いて歩きだした。
 なんだか恐ろしいことを言われて、ショウイチが難しい顔をしているとシゲアキが振り返る。
 さっきよりもさらに機嫌が悪そうだ。もしかしてショウイチの「マザコン」という言葉が聞こえてしまったのだろうか。不安になったショウイチが眉を下げる。

「ノゾム、近い。離れろ」
「わぁ、怖い! やだなぁ。シゲアキが機嫌悪くて怖がってるショウイチを慰めてただけじゃん。ほら、また泣きそうだよ? ショウイチ」

 ちょっと違う気がするものの、確かにシゲアキのイラついているような表情にひるむ。今、シゲアキやノゾムに見捨てられたら、本当に居場所がなくなってしまう。

 自分はこんなに弱い人間だっただろうか? 未来に来てからとてつもなく心がもろくなった気がする。

 ぎゅうと締め付けられる胸を押えて見上げると、シゲアキは心底困ったという顔をしていた。

「怒ってないからな? 腹が減って殺気立ってるだけだ。ほら、行くぞ」

 胸に当てた手を握られる。大きな手にすっぽりと包まれて不思議と落ち着くが、ふと周りの目が気になった。男同士で手を繋いでるなんておかしいんじゃないかと。

 しかし特に奇異な目で見てくる人はいなかった。むしろ微笑ましいといった顔がちらほら見えて、やっぱり子どもだと思われてるに違いない、そう思った。
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