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知らないところで一からやり直したっていいじゃないか
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ピザとコーラを囲んで三人が座ってもテーブルにはゆとりがあった。腹が減ってるつもりはなかったが、バジルのいい香りがしてついつい手が伸びる。大きなサイズのピザの半分は、ショウイチが食べてしまった。昨日の昼から何も食べていなかった。……昨日と言っていいかもわからないけれど。
「過去から来た、ねぇ……。にわかには信じられないんだけど」
ノゾムはコーラを飲み干すと、肘を付いてショウイチを見ている。アイラインの入った切れ長の目が、疑いの目でこちらを見ている。
「僕だって信じられないけど、でも……本当なんだ。僕は91年生まれだし、さっきまで2011年にいて、大学に通っていて」
「2011年? オレまだ生まれてないわ。あれ? 2011年ってなにかなかったっけ? あ、シゲアキの生まれ年!」
「大震災の年だ」
大震災、そう聞いてショウイチは身体を跳ねさせた。あの瞬間、これまで体感したことのない揺れを感じた。世界が崩壊するんじゃないかと、それを願うほどの地震だった。
ノゾムはさっきシゲアキがしたようにこめかみに指をあてると、パチパチと瞬きをしてから入り口とは反対側の壁を顎で示した。
さっきまで何もない真っ白だった壁に映像が映し出される。
「過去のアーカイブから拾ってきた。どう? 覚えてる?」
どうやって映像を、と考える間もなく目が釘付けになる。
そこには……見覚えはないが口にするのも恐ろしい映像が流れる。テロップには2011年3月11日と書かれていた。
「今日だ……」
ショウイチが、飛び降りようとしたあの日、あの時。地震が起きていたのだ。文字通り日本中を震撼させる地震が。
「つまり、きみは2011年のこの日から40年、正確には39年と一日先の未来にタイムスリップしてきたと……。シゲアキはなんでそんなこと信じたわけ?」
「英桜大学の学生証というのも見せてもらったが、偽装するのにそんなもの作る必要がない。スマコンがあれば十分だからな。いまどきカード式の身分証なんて誰が信じる? 新聞やらテレビやらと、俺たちの若いころに廃れたものを証拠として欲しがるのも不自然だ。後は……嘘をつけるような子には見えなかった」
「英桜大? うわぁ頭いいんだ。確かに、嘘つきには見えない、かな? シゲアキが信じたのは、それだけでもなさそうだけど……」
ふたりの大人から視線を浴びせられて、ショウイチはたじろいだ。
「警察に連絡する?」
ノゾムはしたり顔で告げる。
「それで? 40年行方不明だった息子とご両親の再会か? 警察が信じると思うか? 詐欺か宗教か疑われるだけだろ。なんで俺がお前を呼んだと思ってるんだ!」
シゲアキの張り上げた低い美声がガラスを揺らす。言われたノゾム以上にショウイチが驚いているのを見て、シゲアキは声を落す。
「お前の得意分野だろ? SFだとかファンタジーだとかは。ショウイチがどうすれば元の時代に戻れるか、一緒に考えてくれ」
「やだ……」
拒絶の声をあげたのは、ノゾムではなくショウイチだった。
「僕、元の時代になんて戻りたくないっ! だってどこにも僕の居場所なんてないんだからっ! ここでも僕の居場所がないなら、どこかほかのところに行くから、放っておいて。あっちには、もう誰もいないんだよっ!」
ぶり返した失恋の傷が大きく開いた。
元の時代に戻ってもショウイチの隣にリョウゴはいない。家族だってそうだ。リョウゴがもし、ゲイだってことをバラしていたら……。勘当どころじゃないだろう。
それなら誰もショウイチを知らないところで一からやり直したっていいじゃないか。もともとそのつもりでデッキから飛び降りたのだから。
泣きわめくショウイチに男ふたりはなす術がなかった。
ひとしきり泣くと満たされた腹と疲れでショウイチはそのまま眠ってしまっていた。
「過去から来た、ねぇ……。にわかには信じられないんだけど」
ノゾムはコーラを飲み干すと、肘を付いてショウイチを見ている。アイラインの入った切れ長の目が、疑いの目でこちらを見ている。
「僕だって信じられないけど、でも……本当なんだ。僕は91年生まれだし、さっきまで2011年にいて、大学に通っていて」
「2011年? オレまだ生まれてないわ。あれ? 2011年ってなにかなかったっけ? あ、シゲアキの生まれ年!」
「大震災の年だ」
大震災、そう聞いてショウイチは身体を跳ねさせた。あの瞬間、これまで体感したことのない揺れを感じた。世界が崩壊するんじゃないかと、それを願うほどの地震だった。
ノゾムはさっきシゲアキがしたようにこめかみに指をあてると、パチパチと瞬きをしてから入り口とは反対側の壁を顎で示した。
さっきまで何もない真っ白だった壁に映像が映し出される。
「過去のアーカイブから拾ってきた。どう? 覚えてる?」
どうやって映像を、と考える間もなく目が釘付けになる。
そこには……見覚えはないが口にするのも恐ろしい映像が流れる。テロップには2011年3月11日と書かれていた。
「今日だ……」
ショウイチが、飛び降りようとしたあの日、あの時。地震が起きていたのだ。文字通り日本中を震撼させる地震が。
「つまり、きみは2011年のこの日から40年、正確には39年と一日先の未来にタイムスリップしてきたと……。シゲアキはなんでそんなこと信じたわけ?」
「英桜大学の学生証というのも見せてもらったが、偽装するのにそんなもの作る必要がない。スマコンがあれば十分だからな。いまどきカード式の身分証なんて誰が信じる? 新聞やらテレビやらと、俺たちの若いころに廃れたものを証拠として欲しがるのも不自然だ。後は……嘘をつけるような子には見えなかった」
「英桜大? うわぁ頭いいんだ。確かに、嘘つきには見えない、かな? シゲアキが信じたのは、それだけでもなさそうだけど……」
ふたりの大人から視線を浴びせられて、ショウイチはたじろいだ。
「警察に連絡する?」
ノゾムはしたり顔で告げる。
「それで? 40年行方不明だった息子とご両親の再会か? 警察が信じると思うか? 詐欺か宗教か疑われるだけだろ。なんで俺がお前を呼んだと思ってるんだ!」
シゲアキの張り上げた低い美声がガラスを揺らす。言われたノゾム以上にショウイチが驚いているのを見て、シゲアキは声を落す。
「お前の得意分野だろ? SFだとかファンタジーだとかは。ショウイチがどうすれば元の時代に戻れるか、一緒に考えてくれ」
「やだ……」
拒絶の声をあげたのは、ノゾムではなくショウイチだった。
「僕、元の時代になんて戻りたくないっ! だってどこにも僕の居場所なんてないんだからっ! ここでも僕の居場所がないなら、どこかほかのところに行くから、放っておいて。あっちには、もう誰もいないんだよっ!」
ぶり返した失恋の傷が大きく開いた。
元の時代に戻ってもショウイチの隣にリョウゴはいない。家族だってそうだ。リョウゴがもし、ゲイだってことをバラしていたら……。勘当どころじゃないだろう。
それなら誰もショウイチを知らないところで一からやり直したっていいじゃないか。もともとそのつもりでデッキから飛び降りたのだから。
泣きわめくショウイチに男ふたりはなす術がなかった。
ひとしきり泣くと満たされた腹と疲れでショウイチはそのまま眠ってしまっていた。
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