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すこし居心地が悪い
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都庁よりも高いマンションだ。さぞかし高層階に案内されるのかと期待していたら、十階というなんとも中途半端な位置だった。エレベータであっという間にたどり着いた部屋からは緑の隙間に都庁が見える。
なぜか昔から高いところが好きだったショウイチが残念そうなのを見て、シゲアキは申し訳なさそうな顔をした。
「本当は一階がよかったんだがな。ちょっと待っててくれ」
一階から八階までは商業施設があり、売りに出されていた中古物件で一番低いのが十階だったそうだ。ショウイチとは逆に、シゲアキは高いところが苦手らしい。
大きな窓を開けると、広々としたベランダにはさまざまな木々が並んでいた。吹き抜ける風は都心とは思えないほどすがすがしい。騒がしい車の音も聞こえてこない。
シゲアキはベランダで木々の様子を見ている。コートを脱いでチェックのシャツとデニム姿になったショウイチは、手持無沙汰に室内を見渡した。
チリ一つなく整理された広いワンルーム。大きな窓のそばにはひとり掛けの黒いソファが窓を向いて置かれている。床は何色かの斜めの板が組み合わさったヘリンボーン。真ん中に大きなテーブルと椅子がいくつか。窓とは反対側には天井から下がるカーテンで仕切られたベッドルーム。中央にキングサイズのベッドがひとつ。リビングとベッドルーム、どちらの壁にも何も飾られていない。小さな飾り棚がひとつ。家具らしい家具はそれくらいしか見当たらない。殺風景にも思えるが、不思議と温かみを感じるのはベランダの木々のおかげだろうか?
ひととおり観察が終わったショウイチの背後で玄関の閉まる音が聞こえた。
「ピザで良かった? っと、どなたかな?」
「えっと、マキタショウイチです」
「ご丁寧にどうも。オレはシゲアキの友だちでカキザキノゾム。ノゾムでいいよ。中学生? 高校生? それにしてもデニムなんて珍しいね? あ、古着好き? オレ、ビデオグラファーって仕事でね。古い映画やビデオライブラリー見るのが趣味なの。そういう恰好、昔の学生さんがよくしてたよね。最近また流行りなの? 前髪長くない? 前見えてる? オレの顔分かる?」
思わず名乗ったショウイチの前には、シゲアキより幾分は若く見える男がいた。背は高く細身で不健康そうな顔だが、へらへらとした表情や声色は陽気そのもの。何色にも色分けされたロングヘアに、花柄のゆるっとしたシャツ、時代劇にでも出てくるような袴に見えるロングスカート。まだ寒い季節に裸足だった。
ただのチェックのシャツにデニムなのに古着扱いされて面食らう。それを言うならあんたのその恰好はどうなのだとも。
「早かったな。ノゾム」
「急いで来いって。なに? 彼氏の紹介? かわいい系が好きとは知らなかったな。どうりでオレになびかないわけだ。で、どこで見つけてきたの? ナンパ?」
ノゾムは心なしかうれしそうに矢継ぎ早に話し、テーブルの上にピザの入った袋を置くと、ショウイチに向き直る。陽気な口調とは裏腹に、上から下までじろじろ見られてすこし居心地が悪い。
「やめろ。そういうのじゃない」
「違うの? ああ、マキタって親戚の子? 確か――」
「それも違う。今から説明するから――といっても俺もまだ事態が飲み込めてない」
なぜか昔から高いところが好きだったショウイチが残念そうなのを見て、シゲアキは申し訳なさそうな顔をした。
「本当は一階がよかったんだがな。ちょっと待っててくれ」
一階から八階までは商業施設があり、売りに出されていた中古物件で一番低いのが十階だったそうだ。ショウイチとは逆に、シゲアキは高いところが苦手らしい。
大きな窓を開けると、広々としたベランダにはさまざまな木々が並んでいた。吹き抜ける風は都心とは思えないほどすがすがしい。騒がしい車の音も聞こえてこない。
シゲアキはベランダで木々の様子を見ている。コートを脱いでチェックのシャツとデニム姿になったショウイチは、手持無沙汰に室内を見渡した。
チリ一つなく整理された広いワンルーム。大きな窓のそばにはひとり掛けの黒いソファが窓を向いて置かれている。床は何色かの斜めの板が組み合わさったヘリンボーン。真ん中に大きなテーブルと椅子がいくつか。窓とは反対側には天井から下がるカーテンで仕切られたベッドルーム。中央にキングサイズのベッドがひとつ。リビングとベッドルーム、どちらの壁にも何も飾られていない。小さな飾り棚がひとつ。家具らしい家具はそれくらいしか見当たらない。殺風景にも思えるが、不思議と温かみを感じるのはベランダの木々のおかげだろうか?
ひととおり観察が終わったショウイチの背後で玄関の閉まる音が聞こえた。
「ピザで良かった? っと、どなたかな?」
「えっと、マキタショウイチです」
「ご丁寧にどうも。オレはシゲアキの友だちでカキザキノゾム。ノゾムでいいよ。中学生? 高校生? それにしてもデニムなんて珍しいね? あ、古着好き? オレ、ビデオグラファーって仕事でね。古い映画やビデオライブラリー見るのが趣味なの。そういう恰好、昔の学生さんがよくしてたよね。最近また流行りなの? 前髪長くない? 前見えてる? オレの顔分かる?」
思わず名乗ったショウイチの前には、シゲアキより幾分は若く見える男がいた。背は高く細身で不健康そうな顔だが、へらへらとした表情や声色は陽気そのもの。何色にも色分けされたロングヘアに、花柄のゆるっとしたシャツ、時代劇にでも出てくるような袴に見えるロングスカート。まだ寒い季節に裸足だった。
ただのチェックのシャツにデニムなのに古着扱いされて面食らう。それを言うならあんたのその恰好はどうなのだとも。
「早かったな。ノゾム」
「急いで来いって。なに? 彼氏の紹介? かわいい系が好きとは知らなかったな。どうりでオレになびかないわけだ。で、どこで見つけてきたの? ナンパ?」
ノゾムは心なしかうれしそうに矢継ぎ早に話し、テーブルの上にピザの入った袋を置くと、ショウイチに向き直る。陽気な口調とは裏腹に、上から下までじろじろ見られてすこし居心地が悪い。
「やめろ。そういうのじゃない」
「違うの? ああ、マキタって親戚の子? 確か――」
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