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なんで信じてくれないんだよっ
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タクシーはあっという間に目的地に着いた。すぐ隣には都庁が見える。その都庁と同じくらい高いビルがそびえたつ。シゲアキはタクシーから降りるとそのビルへとショウイチを引っ張った。
「あの、支払いは?」
もっと気になることはあるのだが――例えば運転手はどこ? とか――なのにどうでもいいことが口をついた。
「支払い? そんなこと子どもが気にする必要はない。ほら、早く」
せかされてエントランスに入ると、ショウイチは圧倒された。
そこはまるでホテルのようだった。背の高い木々は天井まで一枚で作られたガラス窓から注ぐ日の光を浴びて、大きく葉を伸ばしている。その陰は大理石の床に色濃く描かれている。
フロントに立つ女性が、シゲアキに挨拶をする。サイドを刈り上げたすっきりとしたショートカットに黒いスーツ。まるで映画に出てくるボディーカードみたいだ。シゲアキは彼女に視線だけで答えると先へと進んだ。
その先もまた、広々とした空間でショウイチは圧倒されていた。ホテルのロビーとか喫茶店のようだ。点在すソファとソファの間は広く取られ、今はショウイチたちしかいない。
いくつか並ぶソファのひとつに促され、ふかふかの座面に身体を埋める。シゲアキはその向かいに座ると花束を無造作に放り投げた。
「で、なんで家出なんかしたんだ? ご両親になにか問題でもあるのか?」
「い、家出? 違う、僕は――というか、僕、今年二十歳なんだけど?」
「嘘を言うな。どう見ても高校生だろう? いや、中学生か?」
「童顔で悪かったな!」
かぁっと顔が熱くなる。確かに童顔ではあるが、さすがに中学生と間違われるとは思ってもみなかった。ショウイチはポケットを漁り、カードケースを取り出す。そういえばこれはショウイチの進学祝いにリョウゴがくれたものだったと思い出す。また涙が込み上げそうになって、慌てて首を振る。
「ほら、これ!」
そう言って差し出したのは学生証だ。ショウイチのぼんやりした顔と英桜大学と記された下にある、生年月日を指差した。
シゲアキはそれを受け取り一瞬渋い顔をしてから、深いため息をついた。
「……こんなひどい偽造品は見たことがない」
「偽造品って、本物だよっ」
「いくらなんでも1991年生まれって……。俺の母親と変わらないじゃないか。どこでこんな骨董品つかまされたんだ? お、誕生日は俺と一緒だな」
シゲアキはショウイチの学生証をひらひらと振ってからぞんざいに突き返した。
「あ、あんたの母さんって……。どう見たってあんたおっさんだろ!」
「君から見たらおっさんだろうけど、まだ38歳だ」
「……もっと上かと思った」
38歳にしては白髪の多い髪を見て呟いたが、もしかしたら気にしてるかもしれないと、すぐに視線を外した。シゲアキは気にする様子もなく、さきほどのショウイチを真似た。
「老け顔で悪かったな。そんなことより、マキタショウイチくん? 君の親御さんに連絡しないと俺が逮捕される。未成年者略取誘拐でな」
「だから、家出じゃないって! 確かにまだ19歳だけど、なんで信じてくれないんだよっ」
「はぁ……。もしそれが本当なら58歳ってことになるんだが?」
「あの、支払いは?」
もっと気になることはあるのだが――例えば運転手はどこ? とか――なのにどうでもいいことが口をついた。
「支払い? そんなこと子どもが気にする必要はない。ほら、早く」
せかされてエントランスに入ると、ショウイチは圧倒された。
そこはまるでホテルのようだった。背の高い木々は天井まで一枚で作られたガラス窓から注ぐ日の光を浴びて、大きく葉を伸ばしている。その陰は大理石の床に色濃く描かれている。
フロントに立つ女性が、シゲアキに挨拶をする。サイドを刈り上げたすっきりとしたショートカットに黒いスーツ。まるで映画に出てくるボディーカードみたいだ。シゲアキは彼女に視線だけで答えると先へと進んだ。
その先もまた、広々とした空間でショウイチは圧倒されていた。ホテルのロビーとか喫茶店のようだ。点在すソファとソファの間は広く取られ、今はショウイチたちしかいない。
いくつか並ぶソファのひとつに促され、ふかふかの座面に身体を埋める。シゲアキはその向かいに座ると花束を無造作に放り投げた。
「で、なんで家出なんかしたんだ? ご両親になにか問題でもあるのか?」
「い、家出? 違う、僕は――というか、僕、今年二十歳なんだけど?」
「嘘を言うな。どう見ても高校生だろう? いや、中学生か?」
「童顔で悪かったな!」
かぁっと顔が熱くなる。確かに童顔ではあるが、さすがに中学生と間違われるとは思ってもみなかった。ショウイチはポケットを漁り、カードケースを取り出す。そういえばこれはショウイチの進学祝いにリョウゴがくれたものだったと思い出す。また涙が込み上げそうになって、慌てて首を振る。
「ほら、これ!」
そう言って差し出したのは学生証だ。ショウイチのぼんやりした顔と英桜大学と記された下にある、生年月日を指差した。
シゲアキはそれを受け取り一瞬渋い顔をしてから、深いため息をついた。
「……こんなひどい偽造品は見たことがない」
「偽造品って、本物だよっ」
「いくらなんでも1991年生まれって……。俺の母親と変わらないじゃないか。どこでこんな骨董品つかまされたんだ? お、誕生日は俺と一緒だな」
シゲアキはショウイチの学生証をひらひらと振ってからぞんざいに突き返した。
「あ、あんたの母さんって……。どう見たってあんたおっさんだろ!」
「君から見たらおっさんだろうけど、まだ38歳だ」
「……もっと上かと思った」
38歳にしては白髪の多い髪を見て呟いたが、もしかしたら気にしてるかもしれないと、すぐに視線を外した。シゲアキは気にする様子もなく、さきほどのショウイチを真似た。
「老け顔で悪かったな。そんなことより、マキタショウイチくん? 君の親御さんに連絡しないと俺が逮捕される。未成年者略取誘拐でな」
「だから、家出じゃないって! 確かにまだ19歳だけど、なんで信じてくれないんだよっ」
「はぁ……。もしそれが本当なら58歳ってことになるんだが?」
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