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僕の知ってる新宿じゃないっ
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「男も女も関係ないっ! バカなこと言って、さては酒でも飲んでるのか? 危ないから早く帰りなさいっ!」
どうやらここは地獄のようだ。天使がこんなに激高するとは思えない。花束を持った鬼が、地面に座り込んだショウイチの前に立ちはだかった。下を向いた花束は、いくら髪で視界を遮っても視界に入りいらだつ。ショウイチからリョウゴを奪った花屋の女のことを思い出すからだ。息が苦しくなる。死んでも、辛いなんて死に損だ。ショウイチはこみあげてくるものを抑えることが出来なかった。
「帰りたくても帰れないんだよっ! もう僕なんていらないって、僕の居場所なんてないんだからっ! どうしろって言うんだよ! 僕には、もう……っ、うっ……う、うわぁぁぁぁぁっ」
リョウゴのところには帰れない。リョウゴの隣にはもう自分の居場所なんてない。
ショウイチは人目もはばからず子どものように泣き叫んだ。どうせここには自分を知る人間はいない。どこにいても誰からも相手にされなかったのだ。まるで透明人間のように。
リョウゴだけだったのだ。ショウイチを見てくれたのは……。
また、胸が苦しくなって、ひきつけを起こしながら泣いた。
「ひっ、ひっく、ふ、あ……っ、ひ、……っ。もうやだ……、なんで死んで、まで、辛いの……っ」
「おい……、おいっ!」
鬼がショウイチの腕を掴んだ。この段階になってはじめてショウイチは男の顔を見た。
ショウイチの父と同じくらいか。ほとんど白髪のオールバックだが、おっさんくささは感じない。むしろ、不精髭と相まって渋みがある。天使は流行りのイケオジってやつなんだな、と思った。着崩されたスーツはショウイチが入学式で着たものとは大違いの、光沢のある高級そうな生地だ。ショウイチを掴む右手は大きく、力強い。ただどことなく陰のある男だった。
「こんなところで、泣くな、泣かないでくれ。頼む、な? これじゃ、俺が泣かせたと思われるじゃないか」
困った顔で男は左右を見ていた。
つられてショウイチも周囲を見渡すと、遠巻きにではあるが人々の視線がこちらに集まっていた。なにやらざわついた様子の野次馬が、男を指差す。
「あれ、キタムラシゲアキじゃない? 確かこのQビルで個展やるって」
「確かに! わたし彼のこと好きなのよねぇ。恋人かしら? 痴話げんか?」
その声に気付いた男、シゲアキは、舌打ちをした。
「ここでは人目がつきすぎる。立て。行くぞ」
「え? ちょっと、待って……、行くってどこに? あの、まさか、閻魔大王のとこ、ですか?」
「……は? お前まさか酒じゃなくて薬でもやってるのか?」
「だってここ、地獄、なんでしょ? 僕、自殺したから……」
「俺が掴んでいるのは遺体か? その足はなんだ? ここは新宿西口。今から行くのは……俺の家だ」
腕を引かれたショウイチが見上げると、そこにはさっきまでいたはずのデパートのデッキはなかった。
代わりにあるのは見上げても最上階が見えないくらいに高いガラス張りのゴールドとシルバーのビルだ。
「ど、どこ? ここ」
「だから、西口だって言っているだろう? とにかくついてこい。今、悪目立ちするのは困る」
見たこともない街並みに呆然とするショウイチを引き連れ、シゲアキはタクシーに乗り込んだ。
タクシーは音も匂いもなく走り出した。
ショウイチは車内で振り返る。
「ここ、どこ? 僕の知ってる新宿じゃないっ」
どうやらここは地獄のようだ。天使がこんなに激高するとは思えない。花束を持った鬼が、地面に座り込んだショウイチの前に立ちはだかった。下を向いた花束は、いくら髪で視界を遮っても視界に入りいらだつ。ショウイチからリョウゴを奪った花屋の女のことを思い出すからだ。息が苦しくなる。死んでも、辛いなんて死に損だ。ショウイチはこみあげてくるものを抑えることが出来なかった。
「帰りたくても帰れないんだよっ! もう僕なんていらないって、僕の居場所なんてないんだからっ! どうしろって言うんだよ! 僕には、もう……っ、うっ……う、うわぁぁぁぁぁっ」
リョウゴのところには帰れない。リョウゴの隣にはもう自分の居場所なんてない。
ショウイチは人目もはばからず子どものように泣き叫んだ。どうせここには自分を知る人間はいない。どこにいても誰からも相手にされなかったのだ。まるで透明人間のように。
リョウゴだけだったのだ。ショウイチを見てくれたのは……。
また、胸が苦しくなって、ひきつけを起こしながら泣いた。
「ひっ、ひっく、ふ、あ……っ、ひ、……っ。もうやだ……、なんで死んで、まで、辛いの……っ」
「おい……、おいっ!」
鬼がショウイチの腕を掴んだ。この段階になってはじめてショウイチは男の顔を見た。
ショウイチの父と同じくらいか。ほとんど白髪のオールバックだが、おっさんくささは感じない。むしろ、不精髭と相まって渋みがある。天使は流行りのイケオジってやつなんだな、と思った。着崩されたスーツはショウイチが入学式で着たものとは大違いの、光沢のある高級そうな生地だ。ショウイチを掴む右手は大きく、力強い。ただどことなく陰のある男だった。
「こんなところで、泣くな、泣かないでくれ。頼む、な? これじゃ、俺が泣かせたと思われるじゃないか」
困った顔で男は左右を見ていた。
つられてショウイチも周囲を見渡すと、遠巻きにではあるが人々の視線がこちらに集まっていた。なにやらざわついた様子の野次馬が、男を指差す。
「あれ、キタムラシゲアキじゃない? 確かこのQビルで個展やるって」
「確かに! わたし彼のこと好きなのよねぇ。恋人かしら? 痴話げんか?」
その声に気付いた男、シゲアキは、舌打ちをした。
「ここでは人目がつきすぎる。立て。行くぞ」
「え? ちょっと、待って……、行くってどこに? あの、まさか、閻魔大王のとこ、ですか?」
「……は? お前まさか酒じゃなくて薬でもやってるのか?」
「だってここ、地獄、なんでしょ? 僕、自殺したから……」
「俺が掴んでいるのは遺体か? その足はなんだ? ここは新宿西口。今から行くのは……俺の家だ」
腕を引かれたショウイチが見上げると、そこにはさっきまでいたはずのデパートのデッキはなかった。
代わりにあるのは見上げても最上階が見えないくらいに高いガラス張りのゴールドとシルバーのビルだ。
「ど、どこ? ここ」
「だから、西口だって言っているだろう? とにかくついてこい。今、悪目立ちするのは困る」
見たこともない街並みに呆然とするショウイチを引き連れ、シゲアキはタクシーに乗り込んだ。
タクシーは音も匂いもなく走り出した。
ショウイチは車内で振り返る。
「ここ、どこ? 僕の知ってる新宿じゃないっ」
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