神様からのボーナスタイム

三谷玲

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世界の終わりを期待した

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 一晩経っても、翔一は何もする気が起きなかった。けれど、部屋にこもっていても、夏に亮悟が遊びに来たときのことを思い出して、息が苦しくなった。翔一は着替えもせずに、ふらふらと家を出た。行く当てはない。でもここ以外ならどこでもよかった。

 高校生のころから着ているダッフルコートのポケットには定期入れが入っていて、SUICAもチャージされていた。誰も翔一を知らない場所に行きたいと、上り線に乗っていた。

 お昼過ぎの金曜日、電車は空いていた。座って流れる車窓を見ていたが、頭の中は亮悟の言葉でいっぱいだった。終点の新宿についたのは二時を回っていた。たくさんの人と行き交うが、誰も翔一を振り返る人はいない。なんとなく高いところに行きたいと思ったが、金は持っていなかった。ただでのぼれる都庁を目指すかと西口に出たが、足取りは重かった。デッキで立ち止まり、下を覗くとタクシーやトラックがぐるぐると回っているのが見える。

 めまいがしたのだと思った。
 ぐらぐらと揺れて足元が崩れる気がした。
 遠くで人の叫び声が聞こえる。

「地震だ!」

 立っていられないほどの揺れに、翔一は世界の終わりを期待した。どうせ、翔一の世界は昨日終わった。それなら道連れにみんな終わってしまえばいい。そう思った。デパートから逃げ出してきた人でデッキは溢れかえりだした。慌てふためく人たちにも翔一は見えてないのだろう。

 この高さで死ねるかな? 覗き込むようにして手すりに乗り上げた翔一に誰かがぶつかった。青空が見えるものだと思ったら、最期が吸い殻が落ちている汚いアスファルトが近づいてくる映像だなんて、ちょっと残念だなと思った。

 衝撃に備える間もなく意識は遠ざかった。

 ◇ ◇ ◇

 自分で死を選べば、地獄に落ちるのだと思っていた。死後の世界があれば、の話だが。

 ショウイチのおぼろげな意識の中で、最初に気付いたのは甘い花の香りだった。痛みはなく、苦しいこともなかった。ゆっくりと瞼を開くと、目の前には大量の色とりどりの花があった。昨日から嫌いになった花だが、それを見たショウイチは、天国って本当にあるんだと思った。死にかけて生還した人が口々にそろえて言う花畑にいるのだと。

「おい、大丈夫か?」

 天国だから天使だろうか。その割にはやけに低く掠れた男の声で、少しリョウゴに似ている気がした。

「こんなところで寝てたら襲われるぞ?」
「……男だから大丈夫でしょ?」

 死後、誰に襲われるというのだ。天使か? 鬼か? だいたい、ショウイチは男だ。誰かに襲われるとしたって金もないから少し痛めつけられるだけだろう。

 襲って欲しいと願った相手からは拒絶されたばかりだ。

 自嘲気味に答えたショウイチの頭の上から一喝する声が響いた。

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