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三十分は長い?短い?
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月曜日
社会人一年目、たかだか三十分だが満員電車もようやく慣れてきた気がする。いつもの時間のいつもの車両に乗り込み、出来る限り女性の少ないところへ移動する。つり革が掴めればいいほう。大抵はそれさえもすでに埋まっている。
最近はこの退屈な時間も筋トレだと思うことにして揺れに耐えられるよう足腰に力を入れて立っていた。
その下半身に違和感を覚える。
(ん、なんか当たってる…満員だし仕方ないか。男にチカンなんてないよな)
乗車率120%を誇る都心へ向かう私鉄だ。座席と座席の通路はすでに三列。何かがぶつかってもおかしくない。
夏用のスーツは薄く、触れる部分から熱が伝わる。
火曜日
今日も同じ時間の同じ車両に乗り込んだ。やはりつり革を掴むことは出来なかった。車両のほぼ中央に陣取って揺れに耐えていた。周りに女性はほとんど見受けられない。
目の前に禿げたおっさんの頭が見える。俺の鼻息でふわふわと揺れてしまう頭頂部に申し訳無さを感じていたら、また尻に違和感を感じた。
昨日と同じように尻に触れる部分から熱が伝わってきた。ちょっと気持ち悪いなぁと思っていたらその熱が動き出した。
最初は尻たぶにたまにぶつかる程度だったそれが密着すると、より熱を感じた。その熱は俺の尻を上下に動いては離れ、また密着し、今度はより早い動きで尻に触れていた。
電車が緩いカーブを曲がった瞬間だった。
むぎゅ
鍛えて硬いはずの俺の尻が誰かの手に掴まれていた。
(チカンだったチカンだった! これどうしたら……)
「まもなく終点、終点でございます。どなた様もお忘れ物のないようご支度願います」
俺が焦っている間に電車は終点に到着し、俺は何も分からぬまま人の波に流された。
水曜日
昨日のあれは一体なんだったんだろうか? 眠れぬ夜を過ごした俺は眠い目をこすりながらも定刻通りに着いた電車に乗り込んだ。
今日は運がいいことにつり革に掴まれた。かばんを棚に上げ両手で掴むと目を閉じて、軽く眠ることにした。
しばらくしてまた尻に熱が触れた。今日は昨日よりも大胆に、最初からむぎゅむぎゅと俺の尻を揉んでいた。
(また触られてる…んっ…)
これは一言言わなければと思うが男の俺が痴漢だと叫んだところで誰が信じるだろう? ましてや俺は180センチの大柄でどうみてもパグのような顔立ちをしたブサイクだ。つり革を握った腕の間に顔をうずめ俺は耐えた。
(次は終点だから、もう少しの我慢だ)
その間も俺の尻を揉む手は一向に止む気配がない。丸く円を描くように揉んだかと思えばそれをそのまま上へと持ち上げられて、また下ろされる。予測の出来ない動きに意識が集中してしまう。
『次は終点、終点でございます。進行方向向かって左側の扉が開きます。ご注意ください』
アナウンスが響くと痴漢はさっと手を離した。どんなやつか拝んでやろうと思ったところで扉が開く。人の波に流されかけたところで棚の上のかばんを思い出した。はっとしたところで乗客は次々に降りていってしまった。
木曜日
二日連続の寝不足で頭が働いていなかったのだろう。違う電車に乗れば、違う車両に乗ればいいのだとあとになって気付いたが、身体は慣れた電車の慣れた車両に向かっていた。
昨日は寝ていたから痴漢がどこから触ってきたかはっきりしない。しかし流石に乗り込んだすぐということはないだろう。それなら次の駅に着いたときにでも場所を移動すればいいのだ。そう思って俺は扉のそばに陣取った。
ふぅと一息ついた瞬間、俺の尻はまたしても痴漢の手の中にあった。
(まさか最初から乗っていたのか? それとも同じ駅の利用者?)
痴漢の手は昨日と違い、揉むというよりは指でなぞるような動きをしていた。扉のガラスに額を付けて、耐える。外側から内側へと下がっていく指が割れ目を通りまた外側へと上がっていく。何度も何度も往復するうちにだんだんと割れ目の中へと指が伸びる。
『この先、急なカーブにご注意ください』
アナウンスの声が響き、電車は右へと傾いた。右、つまり俺の後方へ。俺の身体が扉から少し離れる。その分、背後の痴漢のほうへと倒れ込んでしまった。
(そこ、だめ……あっ♡)
ちょうど割れ目の真ん中に押し付けられていた指が薄いスーツとブリーフ越しに俺の尻の孔に触れた。元の体勢に戻そうとして身体を扉に傾かせるとごつんという音ともに俺の身体は扉に押し付けられた。
扉と痴漢に挟まれた俺は身動きが取れない。尻の割れ目に差し込まれた指が前後に動いた。割れ目の間を何度も擦られる。孔と会陰と金玉を何度も何度も。
『次は○○、〇〇駅です。本日臨時列車通過待ちのため右側の扉が開きます。ご注意ください』
なんで? いつもなら左側の扉が開くはずなのに。ここで開かなければ終点まで開かない。これ以上触られたら俺は……。
金曜日
いつもの時間のいつもの車両に乗り込み、出来る限り女性の少ないところへ移動する。連結部分近くまで乗り込み、手すりを掴んだ。前に座っているのは太ったおっさんだった。長くもない足を大きく開きかばんを抱えたまま眠っていた。
(あっ♡キたっ♡)
慣れた手付きで俺の尻を揉む手に、俺は軽く足を開いた。
終点まであと三十分。
俺の尻は俺のものではもうない。
社会人一年目、たかだか三十分だが満員電車もようやく慣れてきた気がする。いつもの時間のいつもの車両に乗り込み、出来る限り女性の少ないところへ移動する。つり革が掴めればいいほう。大抵はそれさえもすでに埋まっている。
最近はこの退屈な時間も筋トレだと思うことにして揺れに耐えられるよう足腰に力を入れて立っていた。
その下半身に違和感を覚える。
(ん、なんか当たってる…満員だし仕方ないか。男にチカンなんてないよな)
乗車率120%を誇る都心へ向かう私鉄だ。座席と座席の通路はすでに三列。何かがぶつかってもおかしくない。
夏用のスーツは薄く、触れる部分から熱が伝わる。
火曜日
今日も同じ時間の同じ車両に乗り込んだ。やはりつり革を掴むことは出来なかった。車両のほぼ中央に陣取って揺れに耐えていた。周りに女性はほとんど見受けられない。
目の前に禿げたおっさんの頭が見える。俺の鼻息でふわふわと揺れてしまう頭頂部に申し訳無さを感じていたら、また尻に違和感を感じた。
昨日と同じように尻に触れる部分から熱が伝わってきた。ちょっと気持ち悪いなぁと思っていたらその熱が動き出した。
最初は尻たぶにたまにぶつかる程度だったそれが密着すると、より熱を感じた。その熱は俺の尻を上下に動いては離れ、また密着し、今度はより早い動きで尻に触れていた。
電車が緩いカーブを曲がった瞬間だった。
むぎゅ
鍛えて硬いはずの俺の尻が誰かの手に掴まれていた。
(チカンだったチカンだった! これどうしたら……)
「まもなく終点、終点でございます。どなた様もお忘れ物のないようご支度願います」
俺が焦っている間に電車は終点に到着し、俺は何も分からぬまま人の波に流された。
水曜日
昨日のあれは一体なんだったんだろうか? 眠れぬ夜を過ごした俺は眠い目をこすりながらも定刻通りに着いた電車に乗り込んだ。
今日は運がいいことにつり革に掴まれた。かばんを棚に上げ両手で掴むと目を閉じて、軽く眠ることにした。
しばらくしてまた尻に熱が触れた。今日は昨日よりも大胆に、最初からむぎゅむぎゅと俺の尻を揉んでいた。
(また触られてる…んっ…)
これは一言言わなければと思うが男の俺が痴漢だと叫んだところで誰が信じるだろう? ましてや俺は180センチの大柄でどうみてもパグのような顔立ちをしたブサイクだ。つり革を握った腕の間に顔をうずめ俺は耐えた。
(次は終点だから、もう少しの我慢だ)
その間も俺の尻を揉む手は一向に止む気配がない。丸く円を描くように揉んだかと思えばそれをそのまま上へと持ち上げられて、また下ろされる。予測の出来ない動きに意識が集中してしまう。
『次は終点、終点でございます。進行方向向かって左側の扉が開きます。ご注意ください』
アナウンスが響くと痴漢はさっと手を離した。どんなやつか拝んでやろうと思ったところで扉が開く。人の波に流されかけたところで棚の上のかばんを思い出した。はっとしたところで乗客は次々に降りていってしまった。
木曜日
二日連続の寝不足で頭が働いていなかったのだろう。違う電車に乗れば、違う車両に乗ればいいのだとあとになって気付いたが、身体は慣れた電車の慣れた車両に向かっていた。
昨日は寝ていたから痴漢がどこから触ってきたかはっきりしない。しかし流石に乗り込んだすぐということはないだろう。それなら次の駅に着いたときにでも場所を移動すればいいのだ。そう思って俺は扉のそばに陣取った。
ふぅと一息ついた瞬間、俺の尻はまたしても痴漢の手の中にあった。
(まさか最初から乗っていたのか? それとも同じ駅の利用者?)
痴漢の手は昨日と違い、揉むというよりは指でなぞるような動きをしていた。扉のガラスに額を付けて、耐える。外側から内側へと下がっていく指が割れ目を通りまた外側へと上がっていく。何度も何度も往復するうちにだんだんと割れ目の中へと指が伸びる。
『この先、急なカーブにご注意ください』
アナウンスの声が響き、電車は右へと傾いた。右、つまり俺の後方へ。俺の身体が扉から少し離れる。その分、背後の痴漢のほうへと倒れ込んでしまった。
(そこ、だめ……あっ♡)
ちょうど割れ目の真ん中に押し付けられていた指が薄いスーツとブリーフ越しに俺の尻の孔に触れた。元の体勢に戻そうとして身体を扉に傾かせるとごつんという音ともに俺の身体は扉に押し付けられた。
扉と痴漢に挟まれた俺は身動きが取れない。尻の割れ目に差し込まれた指が前後に動いた。割れ目の間を何度も擦られる。孔と会陰と金玉を何度も何度も。
『次は○○、〇〇駅です。本日臨時列車通過待ちのため右側の扉が開きます。ご注意ください』
なんで? いつもなら左側の扉が開くはずなのに。ここで開かなければ終点まで開かない。これ以上触られたら俺は……。
金曜日
いつもの時間のいつもの車両に乗り込み、出来る限り女性の少ないところへ移動する。連結部分近くまで乗り込み、手すりを掴んだ。前に座っているのは太ったおっさんだった。長くもない足を大きく開きかばんを抱えたまま眠っていた。
(あっ♡キたっ♡)
慣れた手付きで俺の尻を揉む手に、俺は軽く足を開いた。
終点まであと三十分。
俺の尻は俺のものではもうない。
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