原石の欠片たち

三谷玲

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ルイ13世の愛人

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 行きつけのバーのマスターは僕の父親と同じか少し若いくらい。でも父親とは違って線が細く、華奢で、色気があった。父親と反発して家を飛び出してから十年。可もなく不可もなくやってきた人生だったが、まさかその父親と同年代のそのマスターに恋に堕ちるとは。

 営業後の深夜二時。偶然を装ってマスターに声を掛けた。店ではきちっとオールバックにした髪を下ろしラフな格好をしたマスターは幾分若く見えた。マスターはかなり驚いた顔をして僕を見て、うつむいた。それはそうだろう。今、マスターが入ろうとした店はこの界隈では有名なゲイの集まるバーで、マスターからすればわざわざ変装しただろう格好なのにすぐにバレたのだから。正直、バレてないと思ってるのは本人だけだが。
 黙ったままのマスターの手を取ると、動揺しているのか、拒絶するのも忘れ、なすがままに僕に着いてきた。
 たどり着いたのは近くのラブホ。もちろんゲイもオッケーなとこ。

 部屋に連れ込んだところでやっとマスターが正気に戻った。

「あの、これ一体……?」

 この後に及んで悠長なことを言ってるマスターが可愛い。カウンターの中ではキビキビと働き、酒を作り、客の相手をしているマスターが戸惑っている様子がたまらない。

「好きです」

 握ったままの手を両手で握り直して、マスターの目を見て告げるとマスターはまた驚いた顔をしてうつむき首を振った。でもその耳元は赤く、熟れた果実のように僕を誘う。

「こんなおじさん、からかわないでくれ」
「僕は本気です! こうしたら分かってくれますか?」

 乾いた唇を塞ぐと、そこからブランデーの甘い香りがした。上客から貰ったレミーマルタン、ルイ13世。芳醇な香りの中に漂う熟成された味わいだというが、僕はもちろん飲んだことはない。マスターと同じ、複雑で深みがあり、花の香りとバニラの甘さ。僕が惹かれたマスターそのもののような気がした。
 僕がマスターの口内を堪能していたせいで、マスターの身体から力が抜けた。これから一晩の相手を探すつもりだったのだろう。官能を刺激するとすぐに溶け出した。
 僕の思いが伝わるように丁寧な愛撫を施し、全身に触れた。線の細い身体は敏感で、触れる先々で反応を返した。あのストイックな制服の下にこんな淫らな身体を隠していたのか。
 無理はしたくない。させたくない。
 三本の指がすっぽり収まり、マスターが身も世もなく喘ぐようになってやっと、僕は自身をその鞘に収めた。カサついた身体からは想像もつかないほど湿り気を帯びて僕を包んだ。

「あっ♡あっ♡いいっ♡だめ、も、またっ♡あっ♡」

 とっくに前からは色のない水が溢れ、中が痙攣し、何度も絶頂を迎えているマスター。僕も何度か吐き出したせいで、そこからは湧き出す泉のようなこぽこぽという音が鳴っていた。

「も、わかった!わかったからぁっ♡」

 何度もイって辛いのか、泣き言言うマスター。しかし僕の気持ちも身体も到底足りてない。もっと、もっとだ。

「まだです、僕の本気はこんなもんじゃないですから!」
「うそっ、まだそんな…あぁっ♡」

 もう自ら動けなくなった身体を持ち上げるとマスターが僕に身を預けた。
 そのまま心まで預けてくれたらいいのに。
 そう思いながら、マスターの身体が悲鳴を上げるまで、僕は思いの丈をぶつけたのだった。
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