大型犬Subのしつけは射精管理が大事

三谷玲

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第二話

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 堂本は俺と同じ年の25歳。それなのにさすがDomというべきか、出版社の社長をしていた。学生のころにいち早く電子書籍販売の会社を立ち上げて、いまでは業界最大手とまで言われている。堂本の会社が出している本は俺のアプリにもいくつか入っていた。
 俺の会社と繁華街を挟んで反対側の高層マンションが、堂本の自宅だった。
 豪華なシャンデリアがあるかと思ったが、部屋の中はシンプルにまとめられた、出来る男の部屋そのものだった。
 二方を大きな窓に囲まれた、だだ広い角部屋。窓の下に備え付けられた腰高の本棚には、多種多様の本が並べられている。
 その手前にはL字の黒のソファ。中央のテーブル代わりのトランクの上には、小さな観葉植物が置かれている。
 ソファの一角に座るよう促され、腰を下ろすと堂本は少し離れたところに座った。

「セーフワードを決めておこう」
「セーフワード? それって必要っすか?」
「必要だろ。そんなヘマはしないつもりだが、僕がサブの嫌がることをしないとも限らない」

 忘れないけれど普段は言わないような言葉がいいらしい。なにがいいかと考えていたら自己紹介されたときに驚いた「社長」という言葉になった。

「『社長やめて』ってなんだかセクハラされてるOLもののAVみたいっすね」
「……そういうのが好きなのか?」
「あー割と好きっすね。でもどっちかって言うと黒いピンヒールが似合う女教師とか白衣がやらしい保険医の手ほどき系のほうが抜けるっすね」

 聞いてはみたが、興味はないようだ。そっけなくふぅんと言うと堂本はほかにもいくつか決めることがあると言った。

「プレイは週に一度。金曜日でいいか。セックスはなし。お互いが満足できる頃合いを見極めながらするが、初心者だろ? 徐々に馴らしていくぞ」
「週に一度? そんなにもらっていいんっすか?」
「欲がないな、サブは。Kneelおすわり

 憧れのKneelだ! 俺はソファから降りると堂本の足元にぺたんと座ろうとした。しかし、悲しいかな俺の身体はぺたんこ座りには適していない。
 どうしようかと逡巡した結果、一番慣れている形になった。
 俺のKneel姿に堂本はぎょっとした後、声を殺して笑った。

「はじめて見たよ、うんこ座りするSubは」
「これはキャッチャー座りっす! 俺もともとキャッチャーだったんで」
「それでガタイがいいんだ? そうだな、手は前にして。もう少し腰を下ろして。そうそう犬みたいに。うん、それなら悪くない」

 堂本の指示通りに膝の間に腕をおろし、床に手を付く。確かにこのままケツを床に付ければ、犬のお座りだ。
 悪くない、はおそらく堂本からの褒め言葉なのだろう。上手にできた俺の姿に満足そうな表情を浮かべている。
 褒められた。
 嬉しい。
 腹の底のマグマが煮えたぎる音が聞こえてきそうだ。

「……おい、勃起してるぞ?」
「え? あ、マジだ! すげぇ……」

 従うことが快感だとは思っていたが、たった一言でここまで勃つなんて、DomのCommandの威力たるや。俺が感動すら覚えていると堂本が頭を抱えた。

「はぁ……。すげぇじゃねぇよ、すげぇじゃ。先が思いやられるな」

 さっきまで満足げな表情だった堂本の顔が一気に曇ると、俺の気持ちも一気に冷めた。
 心臓がぎゅっと締め付けられるようだ。そうか、Domの期待に応えられないと、Subはこんな気持ちになるのか。思わず「くぅーん」と鳴きたくなる。

「仕方ないか。ある意味童貞みたいなものだからな。処理するなら、風呂に行け」
「だいじょうぶっす……。スイマセン」
「謝らなくていい。想定していなかった僕が悪いんだから。でも今度からは抜いてきてからプレイしたほうがよさそうだな。できるか?」

 勃起させた俺が悪いのに……。最初に聞いた痴話げんかが嘘のように堂本は優しい。
 堂本の一言一言に感情がジェットコースターのように乱高下する。こんな気持ちになるのは、はじめてだ。
 俺は返事をする代わりに、何度も頭を下げた。

「いい子だ」

 微笑みとともに言われたその一言に結局俺は嬉ションならぬ嬉射精をして、また堂本に頭を抱えさせた。
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