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本編
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「あの……本当によろしいんですか?」
眉を落とし、不安そうに壇上の玉座に座っている男性を見つめる女性。
彼女はこの国の聖女であり、魔王の侵攻からこの国を守っていた。
「あぁ。構わない」
玉座に座る男性はこの国の王であった。
彼はこの国の聖女が唯一魔王を倒せるほどの聖魔法を放てるという事を知って、聖女にそれを命じたのだ。
「ですが、先ほども言ったようにこの魔法を使う際には国全体の結界の維持ができず、結界は徐々に解除され、国土の半分は魔王に侵略されてしまいます!」
聖女は再度自身の魔法による被害について説明し、王に考え直すように説く。
「大丈夫だ。国土の半分に住む民には、避難をするように命令する。たとえ半分の国土を侵略されようとも、すぐに復興できる」
そうゆっくりと聖女を納得させるように説く王。
そして静寂が部屋を支配する。
「……分かりました。皆様が覚悟のうえでしたら、私もこれ以上は言いません」
聖女は何かを祈るように目を閉じ、そして目を開けると静かに王を見つめた。
「私はこれより魔王消滅の為の聖魔法の準備に取り掛かります。結界によって教会の祈りの間を封鎖し、三日三晩の祈りの後、魔王は滅ぶでしょう。では、ご無事をお祈りしております、陛下」
そう言って聖女は王の間から退出する。
しばらくの後、王の間で王とそこにいた貴族が笑い始める。
「いや、まさか我が国の聖女が唯一魔王を亡ぼす魔法を使えるとは」
王は先ほどの厳粛な顔を一変させ、ニタニタとした薄気味悪い笑みを浮かべる。
「これで我が国は『魔王を亡ぼした国』として他国に優位に立てるわ!」
「王よ、しかし先ほど聖女に『国土の半分に住む民は避難させる』と言っていたではありませんか?あれはどうするので?国土の半分に住む民をかくまえる場など、この王都しか……」
不安そうに側近の者が発言すると、王の間にいる貴族たちがざわつき始める。
「何!?平民が王都に来るだと!?」
「そんなことが有ってたまるか!」
「王都は高貴な者のみが住めれば良いのだ!」
「静かに!」
ざわめきは、王の一喝によって静められた。
「なに、別に避難させる気はない。聖女には、『民は最後まで自分の土地を守るために戦った』と言っておけばよい。最後まで生き残るのは我々貴族と王族のみで充分であるからな」
「なるほど!」
「王は賢いですな!」
そう言って貴族たちは笑いあう。
結界の一番内側にいる我々は、安泰であると。
「これでこの国はさらに栄えていくことでしょう……!」
——そして聖女が教会で祈りを始めた夜。
突如として王都に激震が走った。
「魔王が、攻めてきたぞ!?」
魔王が王都の中心地に出現し、その残虐の限りを尽くしている。
貴族たちは我先にと逃げまどい、魔王の配下たちに次々と殺されていく。
聖女がいるからと胡坐を掻き、訓練すらサボってきた王都の兵士たちは、屈強な魔王軍になすすべなくやられていく。
そして魔王の魔の手は、王の喉元まで迫ってきていた。
王は、自分を守るために兵を配置し、自身は王城を脱し聖女のいる教会へと逃げていた。
王は教会にある祈りの間に赴き、その扉を叩く。
「おい!?どういうことだ!話が違うぞ!!」
王は汗をだらだらと流し、自分の腕が疲れるのも無視してドアをたたき続ける。
しかし、そこから聖女は出てこない。
「おい!聖女よ!出てこい!」
「そこに聖女がいるのか?」
おどろおどろしい声が部屋の前でこだまする。
王が恐る恐る振り返ると、そこにはおぞましい風貌をした怪物がいた。
「ひっ!ま、魔王……」
「そうか、聖女はあれを使うつもりだな?」
魔王は納得したように頷く。
「な、なぜ魔王がここにいる!ここには聖女の結界が……」
「それはもう解けているが?」
「へ?」
王が訳が分からないと言わんばかりに首を傾げると、魔王はポンと手を打った。
「そうか、知らなかったのか」
そう言うと、魔王は「カッカッカ!」と笑い出した。
「聖女の結界は、聖女が術を解除した中心地から徐々に解けていくのだ」
「な、何!?結界は外側から消えていくものでは!?」
「結界を張る核がいなくなるのだからな。一番外側の方が力が届くのが遅くなる、つまり外側が最後まで結界が続くのは当然だろう。特にこの規模の結界であればな」
「そ、そんな……」
王たちはその事を知らなかった。いや、知ろうとはしなかった。しかし、聖女もそのことを知っており、そして知ろうと思えば、王たちも知ることができたことである。
王は膝から崩れ落ちる。
魔王はそれを見て再び笑った。
「不勉強な王よ。最後に言う事はあるか?」
「い、命だけは……」
「くだらないな」
そう言って魔王は王の首をはねた。
そして聖女がいる祈りの間をじっと見つめ、自らの最大限の力を持って扉を破ろうとした。
しかし、扉には傷一つつかない。
「……ちっ。この俺でも破れない結界か」
魔王は自らの終わりを悟った。
このレベルの聖女ならば己を亡ぼすことなど容易くできるだろうと。
「ならば、死ぬまでの間にこの国の民をできる限り虐殺してやろう」
そう言って、魔王はその場を後にした。
——この三日後、魔王は消滅し、そして一つの国の王都が滅んだ。
三日後、すべてを終えた聖女は、祈りの間から姿を現した。
そこには、祈りの間以外のすべての建物が崩れ、そしてあちこちに貴族の死体がある凄惨な光景が広がっており、聖女の息が止まる。
目の前には、王の死体があった。
「これは、私を守るために……?」
聖女は王の亡骸に駆け寄って膝をつくと、その姿に涙する。
「……逃げても、問題は無かったですのに……」
確かに、今代の魔王は歴代でも最強と呼ばれるほどの猛者であり、聖女が準備を整えている間に結界を破られて殺される可能性はあった。
それを予期した王や貴族たちはきっと、自分を守るために兵を用意し、魔王と剣を交えたのだろう。
そう確信した聖女は、目を閉じて両手を合わせ、天に祈りをささげた。
「どうか、この者たちが良き旅立ちを迎えられますよう……」
空は青く晴れ渡り、平和になったこの世界を優しく包み込んでいた——。
眉を落とし、不安そうに壇上の玉座に座っている男性を見つめる女性。
彼女はこの国の聖女であり、魔王の侵攻からこの国を守っていた。
「あぁ。構わない」
玉座に座る男性はこの国の王であった。
彼はこの国の聖女が唯一魔王を倒せるほどの聖魔法を放てるという事を知って、聖女にそれを命じたのだ。
「ですが、先ほども言ったようにこの魔法を使う際には国全体の結界の維持ができず、結界は徐々に解除され、国土の半分は魔王に侵略されてしまいます!」
聖女は再度自身の魔法による被害について説明し、王に考え直すように説く。
「大丈夫だ。国土の半分に住む民には、避難をするように命令する。たとえ半分の国土を侵略されようとも、すぐに復興できる」
そうゆっくりと聖女を納得させるように説く王。
そして静寂が部屋を支配する。
「……分かりました。皆様が覚悟のうえでしたら、私もこれ以上は言いません」
聖女は何かを祈るように目を閉じ、そして目を開けると静かに王を見つめた。
「私はこれより魔王消滅の為の聖魔法の準備に取り掛かります。結界によって教会の祈りの間を封鎖し、三日三晩の祈りの後、魔王は滅ぶでしょう。では、ご無事をお祈りしております、陛下」
そう言って聖女は王の間から退出する。
しばらくの後、王の間で王とそこにいた貴族が笑い始める。
「いや、まさか我が国の聖女が唯一魔王を亡ぼす魔法を使えるとは」
王は先ほどの厳粛な顔を一変させ、ニタニタとした薄気味悪い笑みを浮かべる。
「これで我が国は『魔王を亡ぼした国』として他国に優位に立てるわ!」
「王よ、しかし先ほど聖女に『国土の半分に住む民は避難させる』と言っていたではありませんか?あれはどうするので?国土の半分に住む民をかくまえる場など、この王都しか……」
不安そうに側近の者が発言すると、王の間にいる貴族たちがざわつき始める。
「何!?平民が王都に来るだと!?」
「そんなことが有ってたまるか!」
「王都は高貴な者のみが住めれば良いのだ!」
「静かに!」
ざわめきは、王の一喝によって静められた。
「なに、別に避難させる気はない。聖女には、『民は最後まで自分の土地を守るために戦った』と言っておけばよい。最後まで生き残るのは我々貴族と王族のみで充分であるからな」
「なるほど!」
「王は賢いですな!」
そう言って貴族たちは笑いあう。
結界の一番内側にいる我々は、安泰であると。
「これでこの国はさらに栄えていくことでしょう……!」
——そして聖女が教会で祈りを始めた夜。
突如として王都に激震が走った。
「魔王が、攻めてきたぞ!?」
魔王が王都の中心地に出現し、その残虐の限りを尽くしている。
貴族たちは我先にと逃げまどい、魔王の配下たちに次々と殺されていく。
聖女がいるからと胡坐を掻き、訓練すらサボってきた王都の兵士たちは、屈強な魔王軍になすすべなくやられていく。
そして魔王の魔の手は、王の喉元まで迫ってきていた。
王は、自分を守るために兵を配置し、自身は王城を脱し聖女のいる教会へと逃げていた。
王は教会にある祈りの間に赴き、その扉を叩く。
「おい!?どういうことだ!話が違うぞ!!」
王は汗をだらだらと流し、自分の腕が疲れるのも無視してドアをたたき続ける。
しかし、そこから聖女は出てこない。
「おい!聖女よ!出てこい!」
「そこに聖女がいるのか?」
おどろおどろしい声が部屋の前でこだまする。
王が恐る恐る振り返ると、そこにはおぞましい風貌をした怪物がいた。
「ひっ!ま、魔王……」
「そうか、聖女はあれを使うつもりだな?」
魔王は納得したように頷く。
「な、なぜ魔王がここにいる!ここには聖女の結界が……」
「それはもう解けているが?」
「へ?」
王が訳が分からないと言わんばかりに首を傾げると、魔王はポンと手を打った。
「そうか、知らなかったのか」
そう言うと、魔王は「カッカッカ!」と笑い出した。
「聖女の結界は、聖女が術を解除した中心地から徐々に解けていくのだ」
「な、何!?結界は外側から消えていくものでは!?」
「結界を張る核がいなくなるのだからな。一番外側の方が力が届くのが遅くなる、つまり外側が最後まで結界が続くのは当然だろう。特にこの規模の結界であればな」
「そ、そんな……」
王たちはその事を知らなかった。いや、知ろうとはしなかった。しかし、聖女もそのことを知っており、そして知ろうと思えば、王たちも知ることができたことである。
王は膝から崩れ落ちる。
魔王はそれを見て再び笑った。
「不勉強な王よ。最後に言う事はあるか?」
「い、命だけは……」
「くだらないな」
そう言って魔王は王の首をはねた。
そして聖女がいる祈りの間をじっと見つめ、自らの最大限の力を持って扉を破ろうとした。
しかし、扉には傷一つつかない。
「……ちっ。この俺でも破れない結界か」
魔王は自らの終わりを悟った。
このレベルの聖女ならば己を亡ぼすことなど容易くできるだろうと。
「ならば、死ぬまでの間にこの国の民をできる限り虐殺してやろう」
そう言って、魔王はその場を後にした。
——この三日後、魔王は消滅し、そして一つの国の王都が滅んだ。
三日後、すべてを終えた聖女は、祈りの間から姿を現した。
そこには、祈りの間以外のすべての建物が崩れ、そしてあちこちに貴族の死体がある凄惨な光景が広がっており、聖女の息が止まる。
目の前には、王の死体があった。
「これは、私を守るために……?」
聖女は王の亡骸に駆け寄って膝をつくと、その姿に涙する。
「……逃げても、問題は無かったですのに……」
確かに、今代の魔王は歴代でも最強と呼ばれるほどの猛者であり、聖女が準備を整えている間に結界を破られて殺される可能性はあった。
それを予期した王や貴族たちはきっと、自分を守るために兵を用意し、魔王と剣を交えたのだろう。
そう確信した聖女は、目を閉じて両手を合わせ、天に祈りをささげた。
「どうか、この者たちが良き旅立ちを迎えられますよう……」
空は青く晴れ渡り、平和になったこの世界を優しく包み込んでいた——。
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