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23 最終ゲーム④
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仮面を外したモナークさまは整った顔立ちをしていた。クールな目元に白い肌。中性的な、まるで作り物のような美しさだった。
「これでいいか?」
モナークさまは微笑んで言ったが、私は彼の顔を見つめたまま動けなくなった。
「どうした?」と首をかしげる彼の声で我に返る。
私は彼に会ったことがある。
いや、少し前まで一緒にいた。
だってこの人……ミノリと瓜二つの顔をしている。第4ゲーム「裏切り者は誰だ」で私を庇って死んだミノリ。まさか、彼女がモナークさまだったなんて……。
「……あなた、ミノリなの?」
思わず呟くと、彼はククッと笑った。そして「あぁそうだ」と言う。
「私はミノリだ。そして、君が殺した」
モナークさまはそう言うと、私の目の前に歩み寄ってくる。思わず後ずさりすると、彼は私に向かって手を伸ばした。私はギュッと目をつぶる。
「アカネ」
モナークさまは私の名前を呼ぶと、髪の毛をひと束手に取った。そしてそれにそっと口づけを落とす。
「っ!?」
驚きのあまり、私は固まってしまった。
「アカネ、君には感謝しないといけないな。私の愛しい人」
モナークさまはそう言うと、私の髪を優しく撫でた。私は混乱して頭が回らなくなる。
彼はミノリで、ミノリはモナークさま? それに感謝ってどういうこと? 私が混乱しているのを察してか、彼はクスッと笑った。そして私に向かってこう言った。
「アカネ、俺に聞きたいことがあるようだな」
「……どうして私を庇って死ぬような芝居をしたの?」
私の質問に、モナークさまは「君には生きてほしかったから」と呟いた。
「それに、ずっとミノリでいるとボロが出る。引き際だったんだよ」
彼は寂しげに笑う。
「そうだったの……」
私は言葉を失った。私が何か言う前に、モナークさまが口を開く。
「それで? まだ聞きたいことがあるようだな?」
彼は私に問いかけた。
きっとこれはチャンスだ。モナークさまを知ることのできる最初で最後のチャンス。
私は考え込んだあと、顔を上げて彼を見つめて言った。
「私、実は前回の花嫁ゲームに参加していた、西野ナギサさんの友人なんです。彼女のことを覚えていますか」
私はモナークさまの顔色をうかがった。彼は冷静な様子で「もちろん知っている」と答える。
「彼女はどうして死んだのですか?」
私が質問すると、モナークさまは口を開いた。
「プレゼントゲームで死んだ西野ナギサか。……好みに合わない絵を描いてきたから殺した」
私は息を吞んだ。やはりナギサはモナークさまの手によって殺されたのだ。
「貴方は人の痛みがわからないの?」
「わからないな」
「……どうしてそんなに酷いことが平気でできるの」
「だって、そうしないとこの世界は成り立たないだろう?」
モナークさまは平然と答えた。そして私に向かって言う。
「アカネ、君はこの狂ったゲームが本当に終わると思っているのか?」
私は言葉に詰まった。モナークさまは続ける。「俺は終わらせたいんだよ」と。
「だから君には生きてほしいんだ」
モナークさまの言葉に、私は何も言い返せなかった。彼はそんな私を見て微笑むとこう言った。
「二人きりで話をしたい」
モナークさまは黒いコンセントを抜いた。監視カメラの電源だったようで、見上げると天井に設置されたカメラの小さな赤いランプがプツンと消える。
「これでいいだろう」
そして私に向かってこう言った。
「これで君だけが俺の真実を知る者だ」
モナークさまは両手を広げて微笑むと、私に一歩近づいた。私は思わず後ずさりする。モナークさまはそんな私を見て悲しそうに笑った。
「アカネ、怖がらなくていい」
彼は優しく言ったけれど、私は警戒を解かなかった。だって、この人は人殺しだもの……。
そんな私の心を見透かしたのか、モナークさまは「アカネ」と私を呼んだ。
そして彼の方から距離を詰めてくる。
私は怖くなって後ずさりしたが、壁まで追い詰められてしまった。
「花嫁に選ばれたとしても、俺と共に死ぬ運命にある。俺の命はそう長くない」
モナークさまは私を見つめながら言った。
「だから、君には生きていてほしいんだ」
「どういう……意味?」
私が聞き返すと、彼は優しく微笑んだ。
「余命三年の俺と一緒に死んでくれる花嫁を探すために、花嫁ゲームが開催されているんだよ。過保護な両親が計画した、馬鹿らしい計画だ」
モナークさまの衝撃的な告白に、私は言葉を失った。
「まぁ、正確に言うならあと三週間か」
彼はそう言って肩をすくめた。
「あと三週間で、俺は死ぬ。それが俺の寿命だ」
モナークさまは淡々とした口調で言った。私は何も言えずにただ彼を見つめていた。
「君には、初めて両親に反発できるきっかけをもらったことに感謝している」
「反発って……?」
「それは――」
彼は言葉を切ると、私に向かって手を伸ばす。私は思わずビクッと震えてしまった。すると彼は悲しげな顔をしてこう言った。
「君を解放してあげよう。俺にできる反発はこれくらいだ」
「え……?」
モナークさまは私の指輪に人差し指で触れる。
「指輪の毒針は解除したよ」
モナークさまは「ほら」と言った。
「これで君は自由だ。このゲームから逃げられる」
モナークさまはそう言うと、私の手から外した指輪を彼の小指にはめた。
細身な人だと思っていたけれど、手は骨ばって男性らしい手だった。
「あとは一人で逃げるんだ。執事やメイドたちに見つかったら殺されてしまうけれど、君ならうまく逃げられるだろう」
モナークさまはそう言うと、私に向かって微笑んだ。そして私の背中をトンッと押すと、耳元でこう囁く。
「さぁ、行くんだ」
私は咄嗟にヒールを脱ぎ捨てると、言われるがままに走り出した。後ろからモナークさまの声が聞こえた気がしたけれど、私は振り返らなかった。
私はひたすら走り続けて、屋敷から逃げ出した。
「これでいいか?」
モナークさまは微笑んで言ったが、私は彼の顔を見つめたまま動けなくなった。
「どうした?」と首をかしげる彼の声で我に返る。
私は彼に会ったことがある。
いや、少し前まで一緒にいた。
だってこの人……ミノリと瓜二つの顔をしている。第4ゲーム「裏切り者は誰だ」で私を庇って死んだミノリ。まさか、彼女がモナークさまだったなんて……。
「……あなた、ミノリなの?」
思わず呟くと、彼はククッと笑った。そして「あぁそうだ」と言う。
「私はミノリだ。そして、君が殺した」
モナークさまはそう言うと、私の目の前に歩み寄ってくる。思わず後ずさりすると、彼は私に向かって手を伸ばした。私はギュッと目をつぶる。
「アカネ」
モナークさまは私の名前を呼ぶと、髪の毛をひと束手に取った。そしてそれにそっと口づけを落とす。
「っ!?」
驚きのあまり、私は固まってしまった。
「アカネ、君には感謝しないといけないな。私の愛しい人」
モナークさまはそう言うと、私の髪を優しく撫でた。私は混乱して頭が回らなくなる。
彼はミノリで、ミノリはモナークさま? それに感謝ってどういうこと? 私が混乱しているのを察してか、彼はクスッと笑った。そして私に向かってこう言った。
「アカネ、俺に聞きたいことがあるようだな」
「……どうして私を庇って死ぬような芝居をしたの?」
私の質問に、モナークさまは「君には生きてほしかったから」と呟いた。
「それに、ずっとミノリでいるとボロが出る。引き際だったんだよ」
彼は寂しげに笑う。
「そうだったの……」
私は言葉を失った。私が何か言う前に、モナークさまが口を開く。
「それで? まだ聞きたいことがあるようだな?」
彼は私に問いかけた。
きっとこれはチャンスだ。モナークさまを知ることのできる最初で最後のチャンス。
私は考え込んだあと、顔を上げて彼を見つめて言った。
「私、実は前回の花嫁ゲームに参加していた、西野ナギサさんの友人なんです。彼女のことを覚えていますか」
私はモナークさまの顔色をうかがった。彼は冷静な様子で「もちろん知っている」と答える。
「彼女はどうして死んだのですか?」
私が質問すると、モナークさまは口を開いた。
「プレゼントゲームで死んだ西野ナギサか。……好みに合わない絵を描いてきたから殺した」
私は息を吞んだ。やはりナギサはモナークさまの手によって殺されたのだ。
「貴方は人の痛みがわからないの?」
「わからないな」
「……どうしてそんなに酷いことが平気でできるの」
「だって、そうしないとこの世界は成り立たないだろう?」
モナークさまは平然と答えた。そして私に向かって言う。
「アカネ、君はこの狂ったゲームが本当に終わると思っているのか?」
私は言葉に詰まった。モナークさまは続ける。「俺は終わらせたいんだよ」と。
「だから君には生きてほしいんだ」
モナークさまの言葉に、私は何も言い返せなかった。彼はそんな私を見て微笑むとこう言った。
「二人きりで話をしたい」
モナークさまは黒いコンセントを抜いた。監視カメラの電源だったようで、見上げると天井に設置されたカメラの小さな赤いランプがプツンと消える。
「これでいいだろう」
そして私に向かってこう言った。
「これで君だけが俺の真実を知る者だ」
モナークさまは両手を広げて微笑むと、私に一歩近づいた。私は思わず後ずさりする。モナークさまはそんな私を見て悲しそうに笑った。
「アカネ、怖がらなくていい」
彼は優しく言ったけれど、私は警戒を解かなかった。だって、この人は人殺しだもの……。
そんな私の心を見透かしたのか、モナークさまは「アカネ」と私を呼んだ。
そして彼の方から距離を詰めてくる。
私は怖くなって後ずさりしたが、壁まで追い詰められてしまった。
「花嫁に選ばれたとしても、俺と共に死ぬ運命にある。俺の命はそう長くない」
モナークさまは私を見つめながら言った。
「だから、君には生きていてほしいんだ」
「どういう……意味?」
私が聞き返すと、彼は優しく微笑んだ。
「余命三年の俺と一緒に死んでくれる花嫁を探すために、花嫁ゲームが開催されているんだよ。過保護な両親が計画した、馬鹿らしい計画だ」
モナークさまの衝撃的な告白に、私は言葉を失った。
「まぁ、正確に言うならあと三週間か」
彼はそう言って肩をすくめた。
「あと三週間で、俺は死ぬ。それが俺の寿命だ」
モナークさまは淡々とした口調で言った。私は何も言えずにただ彼を見つめていた。
「君には、初めて両親に反発できるきっかけをもらったことに感謝している」
「反発って……?」
「それは――」
彼は言葉を切ると、私に向かって手を伸ばす。私は思わずビクッと震えてしまった。すると彼は悲しげな顔をしてこう言った。
「君を解放してあげよう。俺にできる反発はこれくらいだ」
「え……?」
モナークさまは私の指輪に人差し指で触れる。
「指輪の毒針は解除したよ」
モナークさまは「ほら」と言った。
「これで君は自由だ。このゲームから逃げられる」
モナークさまはそう言うと、私の手から外した指輪を彼の小指にはめた。
細身な人だと思っていたけれど、手は骨ばって男性らしい手だった。
「あとは一人で逃げるんだ。執事やメイドたちに見つかったら殺されてしまうけれど、君ならうまく逃げられるだろう」
モナークさまはそう言うと、私に向かって微笑んだ。そして私の背中をトンッと押すと、耳元でこう囁く。
「さぁ、行くんだ」
私は咄嗟にヒールを脱ぎ捨てると、言われるがままに走り出した。後ろからモナークさまの声が聞こえた気がしたけれど、私は振り返らなかった。
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