92 / 98
第4部 妖精の森編
92 異空間の出会い②
しおりを挟む
ディディと協力して探しても、ロウの心のカケラは見つけられなかった。
一体どこにあるの?
そうだ。気分を変えて、ロウをご飯に誘ってみよう!
場所が変われば、心のカケラのヒントが見つかるかもしれない。魔法の練習を頑張っているから、私からのご褒美ということで。
魔法学校の近くに、リトルハングリーという名の飯屋があって、どのメニューも美味しい。
魔道具屋に入り浸るようになってから、ロウに連れて行ってもらったお店で、彼は毎回決まってオムライスを頼んでいた。
彼いわく、リトルハングリーのオムライスは三度の飯にしても良いぐらい美味しいらしい。確かにそれくらい美味しいけれど……。
きっと少年ロウもハマるに違いない。
昔ながらの店なので、十年前の今でも流行っているはずだ。
「ロウ! 私が奢ってあげるから、飯屋に行こう!」
「飯屋ですか」
「そうよ! 魔法を頑張った後は、美味しいご飯。私からのご褒美よ」
私がそう言ってロウを飯屋に連れていくと、店に足を踏み入れた瞬間、ロウは目を輝かせた。
「こういう店には初めて来ました」
ロウは興奮気味に店内を見渡す。
よかった。少年ロウも気に入ってくれたみたい!
ディディは鞄から顔だけ出して大人しくしている。
店内は満席で、私たち二人はカウンター席に通された。私はメニュー表をロウに渡して、「どれでもいいのよ」と料理を選ぶように促した。
「おすすめはどれですか?」
ロウはメニュー表とにらめっこしながら言った。
「私の知り合いは、オムライスが絶品だと言っていたわ」
「……それは師匠の恋人ですか?」
ロウは眉間に皺を寄せながら、私に尋ねてきた。
こ、恋人! その人って、未来のあなたのことなんですけれど!
でも、この質問ってどう答えるのが正解なの?
私は動揺を悟られないように、平静を装って「そうよ」と答えた。だって恋人同士なのは本当のことだし。
ところが、それが失敗だったとすぐに気付かされる。
ロウは店に入るまでの嬉しそうな顔とは一変して、険しい表情になったからだ。
え? なんで急に不機嫌になったの? 私、何か変なこと言った? 訳がわからなくて戸惑っていると、ロウは唇を尖らせた。
「今、師匠と一緒にいるのは俺ですから、この場を楽しむことにします」
「そ、そうね……」
ロウはそう宣言すると、いくらか機嫌が直ったようで、オムライスを注文した。
料理を待つ間も、彼はずっとソワソワしていた。
そして料理が運ばれてくると、ロウはスプーンですくい、ゆっくりと口へ運んだ。
……一口目を口に入れた瞬間、ロウの表情が一気に綻んだ。
どこか冷静なロウが、目を輝かせて美味しいと言わんばかりに頬張っている。
「美味しい?」
「……こんなに美味しいもの、初めて食べました!」
ロウはそう言って、口いっぱいに頬張ったオムライスを飲み込んだ。
私が知っているロウも美味しそうにご飯を食べる人だったな。と思い出して、胸に懐かしさがこみ上げた。
そんな私の視線に気付いたのか、ロウは慌てて表情を引き締める。
もしかして……照れてるの? 私は自分の口許が緩むのを感じた。
可愛い! 可愛すぎる! 未来の大魔法使いさまのこんな姿が見られるなんて、私は幸せ者だ。
机の上に置いた鞄から顔を覗かせるディディを見れば、彼女も微笑ましそうな顔をしていた。
ロウはあっという間にオムライスを平らげると、追加でデザートを注文した。そして、また幸せそうな顔をして食べ始める。
そんなロウを見ながら、さりげなく私は心のカケラを探したが見付からない。
やっぱりこの時代にはないの? それとも、すでに心のカケラは回収されているのか……。
う~ん……と頭を悩ませながら食事を続けていると、ロウが私を覗き込んできた。
だから! その上目遣いは反則だってば! 私は動揺を隠すように咳払いをした。
「どうしたんですか? 師匠」
「なんでもないわ。ところで、デザートはどうだった?」
誤魔化すように話題を変えると、ロウは満面の笑みを浮かべた。
「美味しかったです!」
「それはよかったわ」
「こんなに美味しいものを食べていると、嫌なことも忘れられます」
え……?
まさかの一言に私は目を見開いた。そしてロウに尋ねる。
「ロウ……何か悩み事でもあるの?」
私の問いに、ロウは慌てた様子で首を横に振った。
「いえ! そんなことはありません!」
「魔術大会も近いし、悩み事があったら私に遠慮なく言ってね」
「わかりました」
ロウは頷いてくれたが、それ以上は語ろうとはしなかった。ま、詮索しすぎるのも良くないわよね。
肝心のロウの心のカケラは見つからないまま……時間だけが過ぎていった。
美味しい料理をたくさん食べることができたし、ロウが可愛かったし、ディディも満足そうだったから、これはこれでよかったのかな……なんて思いながら。
一体どこにあるの?
そうだ。気分を変えて、ロウをご飯に誘ってみよう!
場所が変われば、心のカケラのヒントが見つかるかもしれない。魔法の練習を頑張っているから、私からのご褒美ということで。
魔法学校の近くに、リトルハングリーという名の飯屋があって、どのメニューも美味しい。
魔道具屋に入り浸るようになってから、ロウに連れて行ってもらったお店で、彼は毎回決まってオムライスを頼んでいた。
彼いわく、リトルハングリーのオムライスは三度の飯にしても良いぐらい美味しいらしい。確かにそれくらい美味しいけれど……。
きっと少年ロウもハマるに違いない。
昔ながらの店なので、十年前の今でも流行っているはずだ。
「ロウ! 私が奢ってあげるから、飯屋に行こう!」
「飯屋ですか」
「そうよ! 魔法を頑張った後は、美味しいご飯。私からのご褒美よ」
私がそう言ってロウを飯屋に連れていくと、店に足を踏み入れた瞬間、ロウは目を輝かせた。
「こういう店には初めて来ました」
ロウは興奮気味に店内を見渡す。
よかった。少年ロウも気に入ってくれたみたい!
ディディは鞄から顔だけ出して大人しくしている。
店内は満席で、私たち二人はカウンター席に通された。私はメニュー表をロウに渡して、「どれでもいいのよ」と料理を選ぶように促した。
「おすすめはどれですか?」
ロウはメニュー表とにらめっこしながら言った。
「私の知り合いは、オムライスが絶品だと言っていたわ」
「……それは師匠の恋人ですか?」
ロウは眉間に皺を寄せながら、私に尋ねてきた。
こ、恋人! その人って、未来のあなたのことなんですけれど!
でも、この質問ってどう答えるのが正解なの?
私は動揺を悟られないように、平静を装って「そうよ」と答えた。だって恋人同士なのは本当のことだし。
ところが、それが失敗だったとすぐに気付かされる。
ロウは店に入るまでの嬉しそうな顔とは一変して、険しい表情になったからだ。
え? なんで急に不機嫌になったの? 私、何か変なこと言った? 訳がわからなくて戸惑っていると、ロウは唇を尖らせた。
「今、師匠と一緒にいるのは俺ですから、この場を楽しむことにします」
「そ、そうね……」
ロウはそう宣言すると、いくらか機嫌が直ったようで、オムライスを注文した。
料理を待つ間も、彼はずっとソワソワしていた。
そして料理が運ばれてくると、ロウはスプーンですくい、ゆっくりと口へ運んだ。
……一口目を口に入れた瞬間、ロウの表情が一気に綻んだ。
どこか冷静なロウが、目を輝かせて美味しいと言わんばかりに頬張っている。
「美味しい?」
「……こんなに美味しいもの、初めて食べました!」
ロウはそう言って、口いっぱいに頬張ったオムライスを飲み込んだ。
私が知っているロウも美味しそうにご飯を食べる人だったな。と思い出して、胸に懐かしさがこみ上げた。
そんな私の視線に気付いたのか、ロウは慌てて表情を引き締める。
もしかして……照れてるの? 私は自分の口許が緩むのを感じた。
可愛い! 可愛すぎる! 未来の大魔法使いさまのこんな姿が見られるなんて、私は幸せ者だ。
机の上に置いた鞄から顔を覗かせるディディを見れば、彼女も微笑ましそうな顔をしていた。
ロウはあっという間にオムライスを平らげると、追加でデザートを注文した。そして、また幸せそうな顔をして食べ始める。
そんなロウを見ながら、さりげなく私は心のカケラを探したが見付からない。
やっぱりこの時代にはないの? それとも、すでに心のカケラは回収されているのか……。
う~ん……と頭を悩ませながら食事を続けていると、ロウが私を覗き込んできた。
だから! その上目遣いは反則だってば! 私は動揺を隠すように咳払いをした。
「どうしたんですか? 師匠」
「なんでもないわ。ところで、デザートはどうだった?」
誤魔化すように話題を変えると、ロウは満面の笑みを浮かべた。
「美味しかったです!」
「それはよかったわ」
「こんなに美味しいものを食べていると、嫌なことも忘れられます」
え……?
まさかの一言に私は目を見開いた。そしてロウに尋ねる。
「ロウ……何か悩み事でもあるの?」
私の問いに、ロウは慌てた様子で首を横に振った。
「いえ! そんなことはありません!」
「魔術大会も近いし、悩み事があったら私に遠慮なく言ってね」
「わかりました」
ロウは頷いてくれたが、それ以上は語ろうとはしなかった。ま、詮索しすぎるのも良くないわよね。
肝心のロウの心のカケラは見つからないまま……時間だけが過ぎていった。
美味しい料理をたくさん食べることができたし、ロウが可愛かったし、ディディも満足そうだったから、これはこれでよかったのかな……なんて思いながら。
35
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる